70:聖女の審判 1/2
カリオスの領地の中心にあり、人々の憩いの場所であるアルルさんのレストラン。
そこでは今日の昼食で食べた、野菜たっぷりベーコン入りスープの野菜の、甘い匂いが流れていた。
その場所にこの国の命運を背負うだろう人物たちが、城で使われるダイニングテーブルの前に揃い踏みしていた。
セルジオス殿下とセイラ、そして司祭様、逆サイドに辺境組の主要メンバーがおもに出そろっていた。
そしてマルルさんは殿下の許しを得て、レジスターの前の丸椅子に座り、心配そうにこちらを見ている。
そして各自の前のコップが置かれ、並々と水が注がそそがていたが、やって来た彼らは静かにその水で喉を潤して半分にも満たないものも多い。
「この雰囲気懐かしいね。あの時は、僕は大公の息子という地位で、城へ行けばふたりで剣の稽古にあけくれた。お腹を空けばとても美味しい料理を、マルルさんが作ってくれて、、調理場に備え付けのテーブルで食べたよね。カリオス、覚えているかい?」
「あぁ……、覚えている」
「実は俺は忘れていたよ。懐かしい思い出になってしまった。有能な人材を君が引き連れ、こんな辺境の奥地で、あの温かな場所を作っていたんだね」
懐かしむ様に話している殿下に、少しだけカリオスに対する嫉妬を感じる。栄光と共にある王子と思っていたので、少しだけ不思議だった。
「だが、それは失くしたものを、考慮してないだけだろう? 俺には無くしたものが多くあり、残ってくれたものを大事にしているだけだ」
カリオスは少しだけ冷たい視線を、セルジオス殿下へ向けていた。
それは今回の状況だからなのか、城を出た際の遺恨なのか、フェリーネにはわからなかった。
「それは俺だってそうさ。今の城では毒見役が必要不可欠な存在になってしまった。だから、もうあたたかな食事を食べられる事が無くなってしまったよ。君はそうではないだろう?」
そう言い、フェリーネを見る。しかし即効性の毒がある。彼女が間に合わなければどうしょうもない。
カリオスが食事対し、制限をつけないのは毒に対する彼なりの知見のよって、毒を避ける事はできる自信の表れなのだろうか?
そしてフェリーネ自身は毒について考えた事はない。特殊な毒であれば気付けるかもしれないが無機質なものには、気付ける気はしなかった。
今までの人生は、そんな事より、お腹いっぱい食べれるかという事が重要だった。
「セルジオス、お前は昔話をしに来たというわけではないだろう?」
「俺が言いたいのは、昔とは立場が違うという事だよ。良くも悪くもね」
「ああ、わかっているさ。立場については」
そうカリオスが答えた時、セルジオス殿下の表情はやはり暗く見えた。
関係性の違いを割り切らなければならかったカリオスと、そうあろうと言葉で表すがそうあり切れないセルジオス殿下、そんな対比をフェリーネは感じる。
「それなら話し合いを始めようか。俺が今回来た目的は、今の聖女の問題を収拾するためだ。こちらにいる聖女の話を聞きたいが、まずは聖女であるか確認しようか」
そうセルジオスが言うと、セオラ女神教団側のヴァーゴ司祭様が自身の前に置かれていた、紫色の布をそれから外す。
出てきたのは大人が手に持ってまだ大きい純度の高い水晶球、それがクッションに置かれておいてある。
「凄い、これが聖女の魔力をはかる水晶なのですね」
そう言ったのはローリエの司祭様だった。彼はうっきうっきでこの話し合いに、フェリーネ側の陣営として参加していた。
クスッという感じにセルジオス殿下は笑う。
「そう、なんの変哲のない水晶なので安心して欲しい。検査に不服があれば申し立ててくれても構わない。では、まず聖女である事が証明されているセイラからやってみてほしい」
「はい、私にお任せください」
相変わらずの自信だ。年下であるが、彼女の威厳に追い付けるとは思えない。そして……やっとそれでいいと思えてきたが、それが少しだけ揺らぐ。
立ち上がった彼女に、場所を譲りヴァーゴと名乗った司祭は彼女の椅子の後ろへ立った。
座ったセイラが手をかざすと、鋭い白さを帯びた光が水晶から溢れ、まばゆく光る。
「「おおぉぉー……」」
机に座っている者、その警護をしている者から低い感嘆の声が漏れる。司祭レリオットがその光に静かに祈りを捧げている姿が印象的だった。
人々が聖女をどのように見るのかを、改めて知った気持ちになれた。
走って、声をかけて、治療する当人には、印象の強い行動しか、目の止まらない。
聖女へ向ける、治療に対する感謝でなく、神の力の代行者に向ける、純粋な気持ちに改めて気づく。
しかし――そう胸にこぶしを置き考える。
治療や、癒すことが、聖女の本分なのに、 人の世はとかく生きにく。それさえはままならない。
そしてその結果が聖女であるかこの審判である。権威主義、聖女はなんであるか見ようともしない。
そんな気持ちが、一瞬、陽がさすように流れ込んだ。
「では、次はフェリーネ様お願いします」
「はい」
彼女は少しだけぼぉっとした頭で、椅子から立ち上がり、水晶へ歩いていく。
ローリエの血を受けた彼女、彼女の故郷のカシオペア様は人間だつた。ローリエの血を受けた彼女の母は、災いを回避するために、前聖女に選ばれた。
なんと、神の行いから外れた事か……。
フェリーネが椅子に座った時、セルジオス殿下が彼女に話しかけた。
「それはただの水晶だ。だが、それに認められた物はやはり、今までの人生と違う道を歩く。それでも君は、聖女になりたいのかい?」
フェリーネは、少しポカンとした感じで第一王位継承者というものを見る。
――それでもセルジオス殿下には、もう責任があり、覚悟を求められている。|そうである事《その地位を正式に継ぐという事》はただ名前が変わるだけ。
そう考えていたフェリーネには、少し不思議な質問だった。
「聖女をすれば感謝されますからね」
「ほぉ……聖女であるのに、感謝を望むのか?」
「どうやら、私は人間であるとされるローリエの聖女のようです。
愚かにも死にゆく人をわりきれず、それを打開するために力が欲しいや、褒められたい、美味しい食事が食べたいと考えます。
ですから、私は癒す力の使えるただの人間なのでしょう、きっと」
「では、聖女である前に、普通の人間である、君の暮らしは保障しよう」
「お願いします」
彼女にはしずかに笑う。もしかしてフェリーネには王族や、教会の導き主の様な高い地位にはつけないかもしれない。
「それで、教会の暮らしを捨てて、この地で得られたものがあるか?」
「それは……」
セルジオス殿下の口もとは、薄い笑いを浮かべている。
彼は聖女を自身と同じ、唯一無二の席に座る者と捉えて、観察しようとしているのはなんとなく感じ事ができた。
けれど、古び教会に住むことを強いられた、フェリーネとは立場が違いすぎてきっと彼の孤独を癒す事はできないだろう。
そんなわけなので、フェリーネとって意味にないと思える、自身の気持ちを赤裸々に話す事は、ただ恥ずかしい。
なにより優しく朗らかな彼と、静かな不屈精神を表すような表情をするカリオス、彼らは一見似ていない様だが、やはりそうではないのだ。
だからこれまでの日々を彼女を思い出し、少しだけ頬を赤く染めて、真実の一部を話すことにとどめた。
「得られたもの……自由を得ました。
自由の中で山賊と出会う怖いめにも会いましたが、自由に綺麗な花畑へ立ち寄り、美味しいドーナツ屋へ行き買い食いをしました。
ダンスもやっと人前で踊れたのですよ。先生に見て貰いたかったです」
「では、王宮で舞踏会を開き、その先生を呼ぼうか。その相手には俺じゃ不服かな?」
恥じらうように、話したフェリーネは顔を上げてセルジオス殿下を見た。この国でそれを拒める女性は数少ない。
フェリーネ自身も、先ほど普通の人間と言ったばかりだ。
餌をせがむ魚の様に、口を開けようとして押し留め、話そうとして押し留めるを繰り返した。
「だが、最初の舞踏会は俺が婚約者としてエスコートすることになる。だから遠慮してくれると助かる」
「王宮に連絡は来てないようだが?」
そう……、セルジオスが言っている途中に……。
「坊っちゃん、それは本当なのですか?!」と、マルルさんが立ち上がり言った。
まわりの騎士は殺気だったが、その前にカリオスが彼女のもとに向かっていたので、騎士たちもうかつに動く事はできない。
「ああ、本当だ。たが、この事は後で話そう。今は静かに座っててくれ」
カリオスがそう伝える前に、殿下がまわりに指示を出し落ち着きを取り戻し、「本当に?」って殿下は聞くので「はい、実は……」そう赤い顔をして言うしかフェリーネは言うしかなかった。
「それは……全然存じませんでした!」
そうマーク団長が大袈裟に言うので、余計に気まずくなったのだった。
続く




