68:騎士の一行に体当たりする、セイラ 2/2
セイラは近いだろうと思っていたローリエの向かう間、なぜか、荷馬車の御者席へ座る事になっていた。
彼の馬を走らせ、後方の馬車へと走り、その御者と操る馬を入れ替えたのだ。
そしてセイラはジェームスの言う事を無視して、荷物の中でしばらく座っていたが、暇を持て余し。
「やっぱり、そっちへ行くわ」
そう荷台で髪をなびかせ、彼に向かって言ったのだった。
「はいはい、お嬢ちゃんこちらへどうぞ」
「危ない!? 手綱を離すだなんて!」
「片手だけだから」
そう彼は言い訳をする子どものようにいうのだが、それが楽し気で納得がいかない。
「片手で支えられるの?」
「子どもの世話は慣れてるんで」
「ふーん、子ども扱いはムカつくけど、いいお父さんそうだから許してあげるわ」
そう言い、座った彼女は腕を組み、足まで組んで偉そうにしてみる。
水を借りて、お湯で湿らせたタオルで拭いただけだがが、聖女の力を使ったのだから見違えるほどになっているはずだ。
「俺はまだ独身だ。子どもっての俺の弟や妹」
「へぇ……、悪くないのにね」
じろじろと覗き込みセイラは言った。
「あーあー、それはありがとうさん。セイラ様は思春期の頃の弟、妹にそっくりで可愛いさかりであらせられますよ」
「さっきみたいに、普通に話して! なんかムカつくわ」
「……そりゃ、すまん」
それっきり言葉は絶えて、馬を見て過ごした。
馬は可愛くて、隣の男の事など忘れ旅を楽しんでいたのだが……狭く最悪だった。
◇◇
ローリエへ着いたと思ったら、「ローリエの城へ騎士の先行隊が通ちゃくを知らせてくれ、ついでで悪いが、聖女の妹の方が発見されたと告げ、このセイラ様を任せられる信用できる侍女を紹介して貰ってくれ」
仲間の騎士へそう告げた。
ローリエ卿、フェリーネの祖父で鋭い赤い瞳をした辺境伯。
その手腕は、今だ健在であるようで、両腕を掴みブルっと震える。
「私を、引き渡せとか言わないかしら?」
「大丈夫だ。セルジオス殿下は俺に託したんだ。その仕事はこなすし、ローリエ卿もセイラ様を捕まえてもどうにもならない事も、セルジオス殿下の保護下にいる娘に手を出す事の愚かさぐらいは知っているはずだ」
「そうね……」
自身を守る役目のジェームスも、母の愚かしい策略について知っているのかもしれない。
その彼が、騎士だから守ってくれるのであっても、セイラはちょっとだけ嬉しかった。
ここは敵の領地で、敵の城まである。
騎士は見た目を気にして、聖女に気づかない馬鹿な存在。
そうでない人間がいるのなら、仲間になんとしても引き入れなきゃいけなかった。
◇
そして部下が、侍女と一緒に現れる頃には、今までいたローリエどこよりもマシと言う宿屋へ連れて行かれていた。
「悪いな。いやー、悪くないか、はぁ……」
ジェームスは、困惑気にため息を一つつく。
「どうしたの? 言いなさいよ?」
ローリエ、フェリーネの母の故郷に来て歓迎されるはずないと思っていたが、余程の事があったのだろう。
「こういう場合、聖女は領主の家か、教会に行く事が通例となっているが……、聖女のお嬢ちゃんについては領主殿から、正式な手続きで断りを入れて来た。頼み込んで、手助けしてくれる侍女だけ借りて来た」
――なんて、忌々しいの。
愕然としたセイラは、すぐに爪を噛む。隠れて噛んでいる爪はボロボロで、すぐに血の鉄の味が口の中で広がってくる。
「ほら、爪を噛むな。ビスケットでも噛んどけ」
「いらないわ!」
そう言った傍から、僅かなバターの香りに、空腹だったお腹がぐぅー……と大きくなる。
「ほら、言わんこっちゃない」
そう言うと彼は、セイラのだらーんと下げた方の片手に、長四角でとても硬そうな、紙に包まれたビスケットを押し込んでくる。
「ありがとう……」
「浴槽で倒れるといけないからな。まずそれを先によく噛んで、少し食え。何日も食べてないならがっつくなよ! わかったな」
「わかったわ……」
ブラウンの瞳が確認するように、セイラの青色の瞳を覗き込む。
「本当に、私を誰だと思っているの?」
そう言って彼女は、彼に背を向けた。
「そうか……。聖女なら、そういう事もプロか、じゃー宜しく頼む」
「ちょっと!?」
「詳しい事は、そのお嬢さんに聞きな!」
「なんで、私がお嬢ちゃんで、侍女がお嬢さんなのよ!!」
その声は閉じられた扉にぶつかり、彼に伝わったどうかわからない。
そこで、待機していた侍女が一歩前へと進み出て頭を下げた。
続く




