65:教会からの知らせ
今回、ライストファーへと向かう旅の一団は、最後の辺境の町と、その周辺の現地調査をする目的で旅をしていた。
あの土地は、山の渓谷にあるため広い敷地は見込めない。
そのため、辺境の土地の何処に、新しく王国騎士団と、一応置く予定であるローリエ、ライストファーへの連絡要員のための敷地を確保するか?
その調査が、今回の王国騎士団側の目的だった。
兵舎が、立ちそうな土地の調べ自体は済んでいる。
今回は、現場を見に行く工程と、仮設の兵舎をカリオスの町で、建設に着工するまで見通しのようだ。
その時、ライストファーの領主カリオスの馬車では、今回の旅の働きを効率化するために朝と夕食時、そして休憩時の来訪者の為の時間帯が組まれるまでになっていた。
そのためにカリオスは、馬車の手綱を握る時間が多く取れない。
その空いた御者席をフェリーネは見つけ、「では、私が……」と申しでた。
「そうだな。補助で誰か付く様だったらいいだろう」
「とんでもない!?」
「カリオス様、貴女は聖女様に何をやらせるのですか?」
「では、補助は私が引き受けよう」
そうマークは声をだす。
しかし一緒にやって騎士は『何言ってるの? うちの団長?』と、そんな感じの目で彼を見た。
「兵舎を造った際のライフラインの確保について、現地に住んでいるわけでもない私が聞いてもわからないだろう……」
「いえ、問題は聖女様に手綱を握らせる事にあってですね……」
「駄目な事なのでしょうか?」
「えっ……、それ相応の人間がいると思うので……」
「辺境の地ではあれができる、これができるという人間ではなければ、逆に暮らしにくいが」
「ふふふ、聖剣と聖女に聞き返され、理路整然と言い返せないようでは君もまだまだだなぁ……」
そう、今日も髭のないマーク団長にたしなめられ、部下である彼が困っている所に、救世主が訪れる。
◇
「カリオス様との面会時間帯を、決めていると聞き参上いたしました」
白い衣裳に身を包み、後ろの荷台の入り口から、司祭様が顔をのぞかせた。
「司祭様……では、私はまた参ります」
そう騎士の彼は言い、いそいそと帰っていく。
教会より、レリオット司祭がライストファーの視察のために同乗していた。
しかし、ちょっとまって欲しい。
聖女であるフェリーネは、国教であるセオラ女神教団の一員であるはずで、レリオット司祭様は宗派が違うはずのだ。
それを出発前に聞いた際は――。
「聖女様は皆さんうちで治療をなさいますし、彼が行っても必要な設備違いなど見極めるのは難しいと思います。そのため少しでも知識のある私が、同行する事になりました」
「それは……、そうですよね。突然言っても困りますよね」
「こちら側の教会が大きい分、任せられる人もおりますし、そして今回の代わりと言っては何ですが、九月にローリエの自治会で主催する防災の行事についての準備には、彼が代わりに出てくれることになりました。
これで、安心して行けると確信しましたので、引き受けたしだいであります。
その他にも、あちらの教会から報告を受けておりますが、それについてはまた後程……」
そうレリオット司祭は、緩やかに笑っていた。
◇◇
その夜、場所は広さのあるカリオスの馬車がいいと、人払いが行われふたたび関係である者とたちが揃った。
一番最後に現れたのは、レリオット司祭だった。
絨毯の上に円陣を組み心待ちにしていた人々は、一斉に彼を見た。
「お待たせしていてすみません。手紙は見つかりましたよ」
そう言ってフェリーネとカリオスに、差し出し人を書くべき場所に、セオラ大通り教会のカプリコーン司祭の名前が書かれた手紙を手渡す。
「これはどうやら、ローリエの司祭の彼が書いた者の様です。今までに連絡手段として伝書鳩を使っていた様で、それを手紙としたようです。もしかすると、彼独自の解釈があるのかもしれません」
「レリオット司祭は、この手紙の中身をご存じなのですか?」
そうマークが言うと、彼は静かにうなずいた。
「直接、彼の口から聞きました。こうやって問われるのはわかっておりましたから」
「では、セオラ大通り教会はなんと?」
「彼の話ではやはり、フェリーネを指名手配にする行為は、あずかり知らぬ事であったようです。
明言は避けられていたのですが、セリファス家の中に王室へ訴え出た者がいたようです。
しかも何らかのつながりを使い、上層部の許可をとる前に指名手配は行われたようで……止められなかった。そう書かれています」
「そうい事はよくあると言いたくないが、相手が貴族、セリファス家となれば断りずらいんですよね……」
そうマークがぼやく。そしてマルティーはしきりに肯定するようにうなずいている。
「そうかもしれません。嘆かわしい事です。そうであるのでフェリーネ様にはその謝罪を、カリオス様にはフェリーネ様を支えてくださった事に対する感謝の言葉が書かれているそうです」
「それなら、今のようにカリオスの治める地で、暮らす事を認めてくださるのですか?」
明るい顔でそう話すフェリーネの顔を一同は見た。
国の北部であるこの辺境の地に、聖女が一人でも駐在している事は直接てきに、国民の命を守る事に直結していた。
一同にとっての朗報である。だから、次の返事をもつレリオット司祭に希望を託す。そんな顔を一同していたかもしれない。
「それは条件付きで、容認されているのかもしれません」
「未定なのか?」
そうカリオスが言った。彼のような若い青年が、聖女を思い言葉を投げかける。
……聖女ではなくても、いいのかもしれない。だが、彼女は聖女だった。
「その通りです。ただ一人の聖女であればそういうわけにはいかないそうです。聖女が国の光、この世に希望がある事を統治者は知らしめる義務を負っている、と……」
「そこに一片の私情は入ってないってない。そういう行ないであるはず」
そう、マークが言った。平坦に、感情が入らぬように。
「それが終われば、彼女はどうなるんだ?」
「好きな場所で、暮らせます。思いのままです。これまで通り人々を助ける義務はありますが、それをおこなないでいい場合もあります。その事については、皆さんご存じでしょうから説明は省きますが」
司祭の言葉を聞いて、食い入る様に聞き入っていたカリオスも背筋を真っすぐに伸ばす。
「フェリーネを犯罪者にしたてあげ人間については、言及はなしなのか?」
「証拠はありませんからね。きっと出て来る事もないでしょう」
「不特定多数の後ろ暗い貴族が、次に己の証拠があがるのを拒むためか?」
「さぁ? どうでしょう。私には俗世の事はわかりかねますから」
「それについて、ただしたければ司法や、貴族の力を正しく使うべきでしょうね。私たち平民上がりに使える力は限られていますから」
司祭と団長はそれぞれの立場で、罪を解きあがすのは難しいと告げる。
カリオスもそれについてわかっているのか、それ以上言及する事は無かった。
「後は、やはり辺境の地、ライストファーまで癒しの間移ることについての見解は、その地に出向ける人間の少なさ、その事によっての報酬の少なさの二つが問題視されています」
「やはり、お金の問題になってしまいますか……」
「そうですね。ある程度の自給自足で賄えるでしょうが、世界に数人のみが使える、癒しの時間を削っては本末転倒でしょうから……」
「そうですね」
唯一無二の力だからサポートは得られるが、すべては助け合いによって賄われるは難しいと思っていた。
そして夢の様なサポートシステム、それはなんだろうと少しだけ懐疑的な気持ちで考えもする。
セリファス家のあり方が、その様に思えるから……。
「そしてカプリコーン司祭が、過去の記録の蓄積から出した見解ですが……。患者は減少するのは明らかで、一部の金持ち屋や、貴族、生死の境にいる人々がメインになるのではないか? 少なくとも王国騎士団の移転のめどがつくまでは、との予想をたてておられるようです。それには私も同意します」
「そうでしょうね。多くの山賊は捕まりましたが、穴場が空いただけと考える者が多いでしょうしね。それに魔物のでる辺境は訪れたい場所ではないでしょうな」
「そんなわけで、しばらく財政は苦しくなるでしょう。しかし無償化をし、やみくもに辺境の町を人を集めたり、医師の方々のと尊い行いが立ちいかなくならないよう。カリオス様に人徳のある対応を期待しますとのことで、労働で払って貰う事が主軸で取り立てるのはいかがでしょうか? とのこでした」
「セリファス家の事は知らぬ存ぜぬ、そして聖女のことについたはこちら任せか……」
カリオスの瞳の輝きは鋭く増すが、だか、言葉には少しの疲れがあるようにひびく。その姿を気を張った様に皆が見ていたが、何も言う事はなかった。
「私ならあの辺境の地で、家を持ったものは無料にしますね。
人を集めるいい機会じゃないですか。
まぁ一度にってわけにはいきませんが、ライフラインを確保しつつ広げていく。
労働力は日替わりで手にはいるのは、ある意味美味しいと言っていいでしょう。
なんならうちに人を貸し出してくれてもいいんですよ」
そうマーク団長が語りだし、一同呆然と見ていた。
「マーク団長はそうやって奮起させていうけど、その穴埋めは騎士たち全員に降りかかる様子を近くでみていると……なんとも……」
そうマルティーが、苦い顔をしていいだした。
「とりあえず、吊り橋へのに両側から、荷馬車の運行が走るようになればいいのだが……」
カリオスはそう言った。
毎日の生活が、ギリギリの辺境の町の人には難しく。カリオスも聖女というものと同様で、やるべき事がある。しかし見ず知らずのものに任すには、託すことのてきる命の数はどれほどになるだろうか?
「そしてセオラ中央教会についてですが、当初は皆が祈りを捧げていましたが、この地の情報が届いたのでしょう。結末を見届けた修道女がセオラ中央教会を離れ始め、他の教会に移った彼女たちの口に戸は建てられず……。今ではあの教会は閑散としているという事です。これはその手紙には書かれておりません」
「父や継母は? いえ、教会本部としてどうなっているかわかる事はないでしょうか?」
そう言うと彼は、首を振った。
「この話は彼がどんな意図で私に話したのかわかりません。ローリエの教会で女神に仕える彼の唯一手に入れた情報かもしれませんし、そうではないかも……ですが、フェリーネ様、貴女は新たな世界に旅立ちそのお墨付きを貰ったのだから、その事実を大切にした方がいいかもしれませんね」
「そうですね。お言葉ありがとうございます」
「そして最後に」
そう言って、レリオット司祭はマークを見た。
「教会関係者のヴァーゴという人物が、王室の騎士たちと馬にてこちらへ向かっているようだ。旅立つ前のあわただしさからか、日付さえ書かれいないありさまだが」
そう言って、クルクルと巻かれた手紙を一同の前にだす。
どちらかというと、小さい紙に文字を書くのに不慣れの人物の様で、最初に比べ、最後の方に文字が解読が難しいほどとても小さくなっている。
自然に、ごくっと唾を飲み込んだ。
いつ送られて来たものかもわからないが、一週間以内にはこの旅の決着がつくかもしれない。
今のところ誰も罰せられない予感が強い。
――けれど、今さら何をしても付け焼き刃。
それなら、聖女として治療の優先順位を考えるほうが気が楽だろう。
「私は、セイラの行方についてはわかりません。王室が聖女の審判結果を聞きどう判断しても、その後考える事にします」
不安を、強気の言葉で隠す。
「きっと、大丈夫ですよ。皆さんいらっしゃいますから」
そう、司祭が言うなか、カリオスはそんな彼女のいく末を見守る様に
フェリーネを見つめていた。
その時、フェリーネはカリオスと目が合い、彼の手にも気付く。
そして……彼女は、彼の手に触れ握手した。
フェリーネは約束を守ってくれる彼に力強く微笑み、オリビアは許可し建前黙認する事になった。
……司祭レリオットは、最初驚いていたようですが、フェリーネは真面目なタイプなので、最近の若い方はこんなものかと思ったようだ。
その様子を、ニコニコとした笑顔で見守るのだった。
続く




