63:大慌てのフェリーネとカリオス
オリビアと話した朝に、カリオスと話し合うために散歩へと行ったフェリーネは、やって来た門番を務める騎士に護衛をして貰い、事情を隠しつつ、カリオスを密かに探していた。
しかし、その捜索の歩みの中で、カリオスを見つけ出す事は出来なかった。
散歩は、ただ道行く途中の草花を、いつもの様に楽しんだだけで終わってしまう。
そうして、いつもの騎士との別れの地点へくると、彼女は別れの言葉を少し早いが伝え始めた。
「あの……もうすぐライストファーに戻る事になりました。まだ早いですが……、今までありがとうございました」
そう言うと騎士は「こちらこそ、二年前の魔物討伐の際はありがとうございます。貴女のおかげ我は生き残れた様なものです。その聖女様のためになれるのなら、それは素晴らしい仕事となるでしょう」そう、彼は言うのであった。
普通の令嬢なら、恋心に火が付くほどの言葉であるが……。
――なんて、礼儀正しいのでしょう……。さすが、祖父母の治める辺境の騎士様です。
そう、祖父母と、辺境騎士団にとても感激し、尊敬の念を強めていた。
「そんな……では、今日の夜、食事の後にでも、皆さんの健康診断をしてはいいでしょうか? やはり、祖父母の街を警護して貰うのですもの。その時間が取れなければ……」
騎士は顔色を変えず聞いていた。そしてやはり、驚いたのだろう、フェリーネの顔をしばらく見つめていた。
それでも――。
自らの両手を握りフェリーネは彼に、騎士団の皆の治療を迫る。
もし王都に居る騎士団が自身のせいでやっても、戦えって事ではないが備えになってくれたなら、そう思いながら……。
しかし彼は少しだけ慌てて、「ローリエ所属の騎士は、教会の順番に組み込まれていますので、皆、診療済みなのでご安心を」と、少し逃げ腰であったが言うのだった。
「そうなんですね。やはり、教会の聖女の仕組みは機能しているのですね。ありがとうございました。俄然、やる気がわいてきました」
そうやる気に満ち満ちたフェリーネを見て、次は城中の使用人の治療を始めそうな勢いを騎士な何やら感じ取り。
「では、私がここで。吊り橋を使えば、あまり時間のかからぬ距離です。どうぞ商人などから連絡をくだされば、いつでも聖女様のお力になれるよう奮起したいと思います」
そう言って彼は、少々逃げるようにその場を離れたのだった。
◇◇
「また、お前は勝手を言いおって!」
夕食の時間に侍女に呼ばれ、ダイニングルームへ向かった彼女たちの耳に、祖父とカリオスが揉める声が聞こえて来た。
「貴方がなんと言っても、フェリーネは連れて行く。ここに彼女を置いておけば、貴方は、私兵を使いたくなる時が来るかもしれない。そうすればローリエも只じゃすまないだろう……」
「お前こそ、お前のその剣の腕前で、王国の騎士を切るつもりか?!」
「決して、そうはしない。名前は失ったが、王室の血が入っている王国の騎士も俺をその場で殺すことはないだろう。ここよりは穏便に終わる事ができるだろう。わかってくれないだろうか?」
立ち止まり話を聞いていたフェリーネは、赤い絨毯のひかれた廊下をふたたび進み出す。
先程まで元気に歩いて行き、扉に前に立っていたミリアが、フェリーネに気づき振り返る。
ミリアの肩に触れ、フェリーネは優しく微笑む。
そして彼女は扉を開けた。
ダイニングルームの面々が一斉にこちらを向く。
祖父の前に座っていたカリオスが、彼女に気づきばつが悪そうな顔をした。
祖母はふたりに気づき、ミリアを自分の隣へと座らせる。
「驚かせてしまったかしら? 楽しい食事の前にごめんなさいね」
ミリアは首を振る。しかし彼女は少しだけ、自分の気持ちを小さな声で話した。
「ちょっとだけ怖かった……」
「まぁ、やっぱり、ごめんなさいね」
そう、祖母のマーサは、ミリアの事を慰める。
フェリーネはカリオスの隣へ行き、座った。
――頑固な祖父は、私のために怒っている。
カリオスは今日のうちに、ふたりを怒らせた事になる。
「お爺様、おばあ様、カリオスとともに最北の町へ帰って良いでしょうか? カリオスが言うようにここに居れば、ローリエの人を巻き込んでしまいます。山の奥なら結果はすぐにでるでしょうが、無暗に誰も、彼も、巻き込む事はないはずです」
「待ちなさい。その男の言う事も一理あると思うが、こちらとて聞く耳は持っているのだから……。連れ出して貰ったからとて、必要以上の恩を感じる事はないのだよ……」
さっきとうって変わって、諭す様な祖父の声……。
「ですが……」
「もう、おやめになって……。ダリムとカリオス卿はよく似ておいでよ」
「そんなわけないだろう、マーサ……」
祖父は、祖母の発言にたじろいでいる様だ。
「でも、貴方がたは悲観的で、頭がかたいわ。
教会だって、王室だってフェリーネを連れ去りはしないはずよ。
むしろ第三者が入り込みやすいローリエの方が危ういかもしれないわ。
カリオス卿の考えをろくに聞きもぜずに駄目ときめつけて……、いつもの貴方はもっと人の話を聞くはずよ」
祖父は目に見えて、項垂れる。
「食事にしょう……。カリオス卿の話については、今日一日考える」
「どうすれば、可能になるかもね」
「マーサ……、君は孫にそばに居て欲しくないのか?」
「私は、フェリーネには幸せになって貰いたいわ」
そう、祖母はあっけらかんに言うと、祖父は顔をこわばて見ていた。
祖父母のそんな様子も、旅にでたから知る事が出来た発見だった。
◇◇
食事が終わり、フェリーネはカリオスの後をついて歩く。
「また怒らせてしまった」
「オリビアも少し怒ってましましたよ」
そうフェリーネが口に出すと、信じられないという顔をする彼。
「カリオス、手をふれていいですか? 先程いっていたでしょう?」
お爺様は貴方と似てるって、そんなおばあ様はお爺様の手に触れた。
「きっと、意味があると思うのです。もしかして……。ただ触れていたいだけかもしれませんが、手に触れていいですか?」
「ああっ。いいとも」
フェリーネはおっかなびっくり彼の手に触れていたが、彼の手は彼女によって発見の宝庫だったようだ。
「わぁー……大きい、指が長いのですね。比べて見ていいですか?」
そう言うって、カリオスに確認を取るために見つめた。彼女の見た顔は赤く、戸惑っているようだった。
「ああ、いいとも」
「あっ、ありがとうございます。ハハハ、カリオスの方が、こんなにも指が長い。凄いですねー……」
フェリーネが日頃長く話す騎士や、教会関係者は地位がある。歳を経てその座を掴んだ者たちだった。
カリオスは地位はあるが、才能と生まれ持った持った地位からなるもので、年頃はフェリーネと同じ年頃で、異性なれないようだった。
「あぁ……、ありがろうございます。これからは普通に握りますね」
そう言った時、大きな手がフェリーネの手を大きく包んだ。
胸の鼓動が飛び跳ねているよう……。
ドキドキと音をたてて、恥ずかしさが、大きな波のように押し寄せる。
「どうですか? 何か気持ちに変化がありますか?」
――もう、自分が何を言っているか、よくわからない。
「そうだな……。お前の手は柔らかで、安心する。比較対象が、男ばかりで悪いのだが」
「私もそんなに男性の手には触れませんので、ご安心ください。ダンス楽しかったですね。また、いえ、今日にも踊りましょうか? 練習頑張りましょうね」
――何が、ご安心くださいなのかしら?
実際、祖母の狙いであろう、心を落ち着けて話す事は失敗していようだった。
「それで思うのです。カリオスは優しいですよね。その優しい思いを伝えて欲しいなと思います。でも、カリオスの普通の姿も大切です。自分を無理に変える必要はないのですが……、でも、ちょっとだけ優しい気持ち伝えてみましょうか」
自分で言ってて、意味があまりわからなかった。頭の中に鶏でも居る様な気持ちだった。
「俺が優しい? 初めて言われる……」
カリオスは普通の心理状態に戻っているようだ。
そうか凄い。もう平常心になれるなんて。
「優しい気持ち?
俺としては、お前を早く連れて帰るべきだと思いがある。
あそこは俺に初めてできた安心できる居場所で、お前にもあそこなら、聖女でない時間を多く持てる。
いや、持つべきだと思っている。
だから、早く連れて帰りたい。そしてそこで落ち着かせたい。そう考えたからだ……」
「はぁーー……」
フェリーネは大きく息を吸った。どれだけ吸っても空気が足りないように胸が高鳴っている。
「そうですね。帰りたいですね……」
「馬鹿っ、それどころじゃないぞ。顔が赤いぞ」
そう言って廊下にある少し離れた椅子まで、お姫様だっこというもので、カリオスに運ばれ椅子に座らされる。
まず、フェリーネを座らせて、その隣に体に触れるほどすわり、手をにぎって座って居る。
彼女が話そうとすると、「まだ話してはだめだ。もう少し、大人しくすわっていろ。寝てもいい運んでいくから」と言っていた。
そう次の朝、ベッドで思い出すフェリーネだった。
続く




