61:マーク団長の呼び出し
昼食間際、王国辺境騎士団の兵舎内にある団長室。
患者の自宅診療訪問後に、そこへ立ち寄る事になっていた。
フェリーネのお供は、マルティーのみ。
「オリビア様は、来ないで欲しいとマーク団長が言ってましたよ」
そう朝食の際、マルティーが言った時の険悪な空気。
さっきまで美味しく食べていたオムレツや、ホウレン草のソテーが、まるで味のしない紙を食べている思いがした。
「そうか、わかった。なら、私は今日はミリアについて剣の稽古へ行こうと思う」
それだけ言うとオリビアは、止めた手を動かしフェークの上のオムレツを口に入れた。
「それではミリアのこと宜しくお願いします」
結局は、マルティーも、オリビアも日頃と変わらず様子だったので、フェリーネはそっと胸を撫でおろす。
◇◇
しかし、マルティーは城を出て数メートル歩いたと思うと……。
「朝食の時のオリビア様どうでした? 怒ってたんでしょうか? まぁ怒るのはいいのですが、うーん、怒りがカリオス様の方へ行ったりしませんかね?」
そのかわりように驚いて、フェリーネはしばらく固まった様にしてマルティーを見ていた。
「えっ……そんな事はない……ですよ。ミリアの稽古を見てくれると言ってたし、そんな邪念があったら、剣も危険ですもの」
「そうですかねー。オリビア様はシオン様の領地の為なら、やはり目の色を変えるとこがあるので、少し心配しました。ですが……、どうにもなりませんから。忘れましょう」
――えっ!?
そうフェリーネに心配だけ押し付けて、マルティーは今度は、朝からマーク団長へ会いにっているカリオスのことを話し始めた。
「カリオス様は騎士団では、中堅の騎士に剣の稽古をつけているんですよ。ですが、なんていうか……。マーク団長は人使いが荒いように思います。まぁご自分もお忙しいのですから仕方ないことだろうけど」
そう、今度は副団長としてのカリオスの話を始める。
彼はそうやって思考のジャンプが忙しいようで、フェリーネにはついていくのがいっぱいいっぱいで、始終、マルティーの返事にあけくれ、城までの道を急いだ。
◇◇
最後に訪問した家から30分もしない内に、団長室までたどり着いた。
フェリーネとマルティーはソファに案内され座って居ると、騎士団勤めの下級騎士が案内係と入れ替わるようにに、紅茶を出して下がって流しながら頂くと、紅茶の葉の茶葉の香りがフェリーネの少しだけ疲れた心を和ませる。
一息ついたところで、机に嚙り付く様に書類を読み進めていたマーク団長が立ち上がりふたりの前へと座った。
「カリオス卿と話してみたが、巣をつくる雄の鳥の様に、献身的にライストファーの領地をまとめようとしているようだね……」
そう言い、出されていたビスケットを、一つ指でつまみに食べていく。
「いいじゃないですか。やっと手に入れた安らぎの場所なんですから。それに、もとうもとそういうお人柄のようですし、屋敷の者を引き連れて辺境へ移り住む事をしようなんて方なんてそういませんよ。僕が屋敷を出る時なんて、ちゃんとさよならしませんでしたもん。湿っぽいのは僕には似合わないとしか思っていませんでしたね」
「だが、それが普通だ。どうもあの剣聖はそういう部分で、足をすくわれる気がしてならない」
そうマーク団長は驚く事を言う。
そしてフェリーネは、修道院で別れた修道女のサラを思った。
――良くしてくれたのに、さよならも言えなかった。
「そうならない様にするための自警団であり僕です。僕としても、少々心配はありますが、今が精いっぱい。イクリオン家をしりぞかせる事まで考えてないので安心を。ただ、噛まれた事を忘れられない程度の、傷をつけたいとは思ってはいますが……」
「人が良くて、余計心配になった」
そう団長は肩をすくめる。
「それで、来て貰ったのは他でもありません。この国の行く末についてです。この国を治めている王は、カリオス様の叔父にあたる方です。そしてセルジオス殿下は従兄弟にあたる方です。殿下はお酒も嗜まれるのですが……、若い世代の見込みのある方々とお酒を飲みかわしている」
「御酒……、それは不穏な」
――不穏?
フェリーネも、お酒により体を悪くされた貴族などを診た事はあるが……。
「あぁ……フェリーネ様、ワインは違う世界では、神の血と言われたりするのですが」
「そこからいくのですか。私も読みましたが、科学とか、夢物語でしょう?」
「どうでしょうね。記録は、記録としてある分にはいいと思いますよ。
しかし先入観なしで考えるべきなので、その世界の話は忘れてください。
血の色と同じワインを飲み、同じ血を分け合った仲間として盟約を結ぶ。
そんな契をおこなっている場合がある。それが物騒だってことだけで……、まぁ、お酒飲まずしても盟約を結べますしね」
「それでセルジオス殿下が、私たちと敵対する恐れがあるのですか?」
フェリーネは落ち着いているようで、顔色はだいぶ悪くなってしまっている。
マーク団長の誘いに何があるか、考えてしまいあまりよく眠れなったからだ。
そして彼らのいう悪い予感が現実になれば、どうすればいいかと考え、自然に呼吸は浅くなる。
「あぁ……、すみません。心配させてしまっていますか? うー……ん、青年の頃って夢の様な無敵感を持つ人間がいるんです。きっとセルジオス殿下もそうなのでしょう。イクリオン家を、セオラ中央教会を、そしてカリオス。この世の芽吹くだろう災いを摘み取りたいと考える時期が……」
「あぁ……物心つけば、頭抱えるやつですね」
マルティーも、クッキーを摘まみ一口でパクッと食べた。
「そうなんですか……」
そんな事を思いもしなかった。フェリーネは軽く動揺をしていた。
まるで、『寝て見る夢に備えよ』と言われている気分。
「ですが、カリオスはそんなに悪い立場なんですか?」
「見栄えがいい、血筋もいいこれほど、神輿らしい、それはありませんからね」
「本人がではなく、時代が、民衆が担ぐ。本人もわかっているでしょう。フェリーネ、貴女の認知度をあげるのは同じやりからでしょうから。……とこでどんな料理お好きですが?」
「えっ……?」
突然のマーク団長の言葉に、フェリーネはそうしか言葉がでない。
「マーク団長が、警護してくれるのなら、僕は少し騎士団で打ち合わせしてきますね」
「私はもうお腹がすいて、仕方がないので行きましょう」
そう彼も目の前のソファをたった。
「デートの誘いです。片肘を張らず、行きましょう。もう一つ言うなら、互いが、互いの事を知らない。私は怖いのです。貴女を知っているつもりで出したパスが、貴女の未来の進む道を閉ざしてしまう事になるのが……」
「そんな事は……」
「ない。そう言い切れますか? フェリーネは君はカリオスに恩を感じている。君にもカリオスと同じ落とし穴は出来ている。だから、貴女のこともっと教えてください。二人を暗闇を落とさなくていいように……」
「……はい。わかりました。行きましょう」
彼女は赤い瞳を輝かせ、彼に向かって返事をした。
そうすると、彼は頭を抱え込み、指で何度もフェリーネを指し示しこういった。
「そう言うとこですよ。簡単に誘導尋問にひっかからないでください」
「あぁ……」
下を向きしょげたフェリーネに手を差し出す。
「嘘ですよ。私を信用してくださっているのでしょう? 今はいいです。私ならいいです。気をつけてください。本当に……」
そうマーク団長は笑顔でいい。
「好きな物はなんですか? お詫びに奢りますよ。なんでも」
「何でも……」
フェリーネは思わずごくっと生唾を飲み込む。
やっぱり、彼女は気を付けた方がいいかもしれない。
そういう風にマークは笑うが、彼女は気づいていない。
やはりフェリーネにとっては、知らない世界は輝かしく見えているようだ。
続く




