59:朝の微妙な空気感の三人
今日の散歩は、城壁の内側を歩いている。
選りすぐられた庭木と、咲く花は、しっかり管理され大輪の花々を咲かせていて素晴らしい。
その中庭を行くカリオスと、フェリーネ、会話を弾ませるというタイプではない二人。
それで辺境の地であれば気にいった花など見かければ、フェリーネが指をさし彼に知らせ、カリオスが摘んで来て、「これを家に飾ろう」と近くで見せていたりもした。
しかし今日の朝の散歩では、楽しんではいるが、少々の気まずさを抱えていた。
二人が顔を見合わせれば『止めなければなるまいか?』
そんな事を考えている様子の、お目付け役の騎士がいたからだが……。
そんな彼に、『うちの祖父がすみません……』そう思いもするが、その一方で、自分を思ってくれる親族にこそばゆさを感じるのだった。
「昨夜、すまなかった。あんな席で結婚の申しみなどをしてしまって」
「あっ、いえ……、私の事を心配してくれたんですよね。 私は修道院しか知りませんし、ありがたい話だと思います」
彼女は少しだけ頬を赤く染めたが、その一方、結婚という言葉が、計画の成功を確実にする気持ちから出たことを知っている。冷静さな自分もいる事を感じていた。
そんな彼女は歩きながら、白い花々のまわりを飛び交う、白い蝶を見つめている。
夏に差し掛かったこの時期に、本当に城の中は夢のよう。
そう幸せな気持ちに浸り、その一方でローリエの教会で、聖女の順番を待つ人々を思い出す。
幸せの中にどうしても、足をすくうものはないかと、警戒をしてしまう自身がいる。
今まで過去が彼女をそう考えさせるのか、もともとそういう性質なのかわからない。
けれど……今は続いて、こう考えられるようになってきた。
順番を待つ彼ら、その順番はいつ回って来るかまではわからないが、今の調子なら必ず助けられる時はくるはずと。
そんな思い、考え方ちに気付かせてくれたのは、あの教会から連れ出してくれたカリオスだった。
もしかして辺境の騎士たちのように、声をかけてくれた人が居ても、きってそれに気付くことはできなかっただろう。あの地に居れば……。
等しく聖女で、娘であるはずなのになのになぜ?
そんな思いが、確かに自分の中にはあったようだ。
それを見ないように、気づかないようにしてきたが……。
どうやら、それを思う事が普通ではなかったように今なら思える。
劣等感と、悔しい心を抱え、その先に行こうとしたカリオス。
彼のやろうとしている事、すべてに異をとないわけではないが、それでもカリオスならそんな自身であっていいと言ってくれるはず。
そんな思いを抱えて、彼を見る。
そこに、一緒に歩いていて……、居るはずだったカリオスが居ない。
――……え?
戸惑う彼女に追い付き、騎士の彼が予想していたように、足を止め、近くに立った。
「…………カリオス?」
辺りを見回すフェリーネの、不安気な声だけが響く。
「カリオス卿なら、あちらに……」
そう騎士が振り向き、後ろを指差した。
先程歩いていた場所、カリオスは顔を掴む様に立っていた。
「えっ!? はい」
慌てて、カリオスのもとに彼女へ駆けて行く。
そして騎士も――。
彼の近くまで行き、そこからは歩く。黒いもやはないようだ。疲労なのかもしれないけれど……。
その時、彼は夢から覚めたような眼で、彼女を見つめ心の内をうちわける。
「わからない……。どうやら俺は嬉しいようだ。
俺と一緒生きれば苦労かけるだけとわかってはいるが、そこでは留まれない気持ちが溢れている。
それと、同じくらいにお前を遠ざけるべきだと、この計画をするにあたり一番最初に遠ざけた思いが、ふたたび頭をかすめる。
ちゃんとわかって入るんだ。社交辞令だと……。だが」
――遠ざける……。カリオスは今、それを実行するかのようにこちらへ背を向けてしまった。それはどうしても嫌なのだ。せめて結末を一緒に……。
「大丈夫ですよ」
フェリーネは彼のあいていた手を取り、にっこり笑う。
けれど、視線を向けてくる騎士の方に、止められないか、ヒャヒヤしながら……。
「そうだな。全て終われば考えられる」
「そうですね」
――おばあさんなる前には……、そう……絶対に思う事のできない早急さを彼女は感じている。
そして、三人はふたたび歩きだした。
「俺が始めたこの事件、落とし子という立場は、王室の気持ちをも逆撫でするよで、辺境伯の地位はハリボテだ。そんな俺に対し、シオン卿は王子からも信頼があり、侯爵の地位ある。彼に対する皆の期待が大きく、強いようだった」
「シオン様が……。南に近い領主の彼の登場を待つ必要があるのですか?」
「王室への進言を彼がするのを、という事だろう」
それでも、フェリーネの想像よりだいぶ、気の長い話だった。
彼は年老いた祖父より地位は上で、若い。
老いに対しては、聖女としても体の心配をするしかないので、大きな安心な要因だった。けれど、今のフェリーネの動きに対し、誰もが見過ごすとは思えない。
「それまで私は今まで同様、ローリエで聖女としての知名度をあげるため、現在のように治療に専念するわけですね。
できたらカシオ様と同程度と、思われるほど治療をおこなえたら、発言権も増すのでしょうが……。できる事をいたします。
でも、皆さんはライストファーでの王国側の騎士団の兵舎の建設があるのですよね?」
フェリーネは培ったポーカーフェイスで、カリオスを見て、彼は騎士を見るので。フェリーネも同じく、騎士の彼の事を見つめた。
――彼に『秘密にして欲しい』と言うことはできない。それは彼の祖父に対する裏切りとなる。
けれど、見てしまった。それはプレッシャーを与えるより、良くない事たったかもしれない。
しかし騎士は何も意に介さず。というようについてくるだけだ。
だから、カリオスは小声で聞こえない様に囁く。
これで、例え聞こえていても、『彼は聞こえていなかった』とフェリーネ祖父の前で、話す選択を取る事が出来る。
「これは完全に決まったことではないが、お前はやはり俺たち付いてくる事になるだろう。ここでもマーク団長の手腕に大きく関わるだろうと思うが……」
「やはり、マーク団長が……、団長、胃を痛くしないかしら……」
フェリーネは独り言で、団長の胃を心配し、やはり働きすぎではないかしら? と自分たちに関わる事であることを棚上げにして考える。
「彼がどうかしたのか?」
「いえ、彼は大いに手伝ってくださるので、お体を悪くしないといいなぁ……と」
「それは、気の毒だが、王都からやって来る者たちを、内密に俺の領地へ呼び込んでもらわなければ困る。そうしなければ孫可愛さで、兵をあげる恐れがある。もしくはそうなる様に、まず王国北部辺境騎士団を潰すか、潰されるか。王国騎士団の中でも故郷のために反旗を翻す者も出る恐れもある。それがいずれ、王都から騎士団を呼び込む事になっても困るからな……」
「そうなると……、ローリエでの私は、守られるために部屋に閉じ込められるのが落ちですね」
「そうはさせない。連れて行けば、マーク団長も居るんだ。君は人質ってことになり、どっちもしばらく剣を納める言い訳になる」
ローリエにいるより、辺境の町にいる方が、祖父母にとっては安心な立場を確保する事ができるだろう。
そしてそれなら治療場所は、辺境の地へ変わる。兵舎によって、道も新しく出来る仕組み出てくるはずだ。教会に待つ彼らの事をフェリーネは考える。
――きっと、大丈夫……。
◇◇
「では、マーク団長の所へ行って来る。『時間が無いから』と、朝食の時間に呼び出しだ」
「まぁ……」
あの時間の会議の後で、もう城には居ない事にも驚くが、食事時間に仕事とは……。
「そして君も呼ばれている」
「昼食時にですか……?」
「いや、どうだろう? 俺と違っていつでも来てくれと言ってたが、その時が、食事の時間になる事はありそうだ。彼なら」
カリオスは深刻な仕事中毒とも言える、彼について悲観的に話す。
それに同意せざるおえない心境に、ふたたびは呆れはしていた。
「必要なら治療もしてきます……」
「ああ、そうしてやってくれ。では、行って来る」
そう言って彼も走りながら、片手を上げていってしまった。
彼もトレーニングを欠かさないようで、心配だ。
しかし辺境では訓練量は、命に直結しているかもしれないので、フェリーネはただ彼を見送った。
続く




