58:お茶会の次の朝
ローリエの城の裏舞台を歩けば男女問わず、忙しそうに歩いている。
けれど――。
「お嬢様、なぜ、こんな所で!?」
「御洗濯をしょうかと……」
そう言うと、侍女たちはすっーと息をのむ。
「そんな……、それは下働きの者たちの仕事ですわ」
「けれど、たまには洗濯をなければ……辺境の町に戻ってわすれてしまいます」
「そんな……また辺境に戻らるのですか? そんな危険ですわ……、ダリム様とマーサ様はきっととても悲しみますわ……」
そう諭されてしまう。
正論過ぎて言葉が出ず、けれどこの場所を巻き込みたくないのです。
「そんな……」
そう悲しい声で言われてしまう。
そして朝も、教会に居た頃通りに起きれば、侍女たちがそれに合わせて起きなければならないとういう事を侍女のテスに説明される。
セオラ中央教会では怠慢とされる行為が、お願いとともに禁じられていた。
場所が変わると、ルールも変わる事を身をもってフェリーネ体感し、少し世界がわかり、教会の世界の疑問に答えがでたりする。
世界はどこかでつながっている。実際体験してみると、やはり不思議な感覚となるのだった。
「では、やはり散歩はいかがでしょうか? この城はフェリーネ様の屋敷ですので、ご自由にお歩きください」
そう侍女のテスの温かな笑顔が、フェリーネに向けられる。
けれどもそれも、「着替えは自身でやらないと、絶対困る事にになるので、着替えだけは絶対譲れません」。
そう、強情に言い張ったおかげだったりする。
それと散歩だと、フェリーネはローリエの私兵の管轄下になるからかもしれない。
「いいですかフェリーネ。それでも出来るだけ、陽が昇ってからの方がいいでしょう。陽があがる前は、兵士は城の警備にも神経を使っているはずです。侍女にしても、夜遅くまで働く彼女のたちの朝の時間を決めるのは貴女になります。彼女たちは使用人ですが、その情報網は怖いですよ……」
そうオリビア言う。彼女と生活をともにしていく中で、貴族の生活について助言して貰う事も多くなった。そうして欲しいと頼んでもいる。
けれども、オリビアもお茶会となると、「訓練をしていましたから」、「剣技について話すわけにもいきませんからね」と彼女は言う。
けれど、けれど……、マルティーさんが――。
「シオン卿が『お茶会をして、商人に国の情勢について聞きだして欲しい』
そう言われたらどうするんですか?」と言った時は、
「もちろんやるとも、彼らは普通のお茶会にも来てくれるだろうが、飽き飽きしている部分もあるとは思う。
テントを張り絵画を置いてミニ展覧会や、可愛らしい動物触れる小さな動物園なの開いてみるのはどうだろう?」
そう、ちゃんと答えていて、教育を受けた令嬢って凄い! 感心したものだった。
そしてやはり令嬢になりきれない、聖女フェリーネは日が昇った頃に部屋から出る。
決められた時間ならば、出歩いて良いことになっている。
◇◇
しかし今日はまだ侍女が迎えに来る時間ではないが、寝坊してしまった。
お茶会の事、それに……。
昨日のダイニングルームの事を思い出し、気持ちが溢れるが、あえて答えを出す事はしなかった。
――それにしても、朝寝坊の言い訳を思いつく様になってしまった。考え込むだけの気持ちの余裕が出たと思っていいのか、悩むところだった。
ベッドマットから体を起し、寝起きの頭でフェリーネ考えていた。
鏡の前に行き、豚の毛のブラシの髪を梳かし、洗面台まで行って、ピッチャーに入った水で顔を洗う。今日もピッチャーの水は冷たい。
どうも、夜の見回りの際変えてくれるようだ。
以前、水が悪くなったとかで、辺境伯の血筋だけそうしているのですよ。
そう侍女のテスが教えてくれた。
どうやら便利も大変みたい。
「もう、起きられるのですか?」
衣擦れの音共に、そう声をかけられた。
一番端のベッドで、寝ていたオリビアの声。
「ごめんない。起こしてしまいましたね」
「いえ、そんな事は……」
それでも、彼女は眠そうだ。
青紫のナイトドレス姿が美しく、生地もサラサラとして、寝ごごち良さげに見える。健康的で、けれど艶めいて思わず、居心地わるくなりそうな不思議感覚にとらわれる。
修道院にあのままいれば、きっと見る事の無かったものだ。
フェリーネもとって興味あるけれど、それを伝える事さえ恥ずかしい。それが何故か、そこには触れず、いつものチュニック着替え終える。
「そんなことありません。眠そうですよ。おやすみなさい」
「すまない、外出もある。万全するためにしばし眠らせていただきます」
そう言うと彼女は、ベッドへ入りこっちを見た。
「行ってきます」
「いってらしゃい」
そうはにかみ彼女は言った。
昨日は会議は、そこの居た者たちに少しだけ心をざわざわと、ざわっかせたのだろう。
扉から出る際のちらっ見えた、聖女の為のドレスのスカートの様に。
あのスカート丈と同じように、いつか、ドキドキしたのだけど、それは初めてで、不慣れで、それで戸惑ってしまったの。
そう言える日が来るかもしれない。
やっぱり短いと思うのだけど……。
◇◇
ローリエの城壁に立つ騎士たちに見つけて貰う為、フェリーネは誰も居ない玄関を一人で開けひょこっと、顔だけ出して辺りを見回した。
彼女は自室の椅子に置いておいた白いローブを羽織っている。
その首の紐をしっかり結び、夏の日差しを避ける。令嬢は陽の光には敏感なようだ。
庭を歩けば、淡かった葉の色がいつの間にか、濃い緑色へ変わっている様子を楽しむ。
雑草なのだろうが、まっ黄色の四つの花びらの花と、小さな白い花びらの花、二つの花は群れをつくって咲いている。
雑草なのだろけれど、その姿が可愛らしい。
そう風に、緑を楽しみ進めば、見張り台からのからなのか、騎士の方が後方から走ってやって来る。
「おはようございます」
「おはようございます!」
フェリーネはそんな彼を待って、ふたたび歩き出した。
そこへ後ろからふたたび、誰かが走って来る。
――今日も朝から頑張っているのですね。そう思って振り向けば……、カリオス。
白いシャツと、紺のスラックスの彼はフェリーネはに追いつくと、彼女の速度に合わせ歩き出す。
今は夏前、いえ、夏と言っていいでしょう。
そんな時、厚着して走ったら死んでしまうかもしれません。
ですから、カリオスも薄着だったのです。
膝に手をやり大きく息を呼吸する。シャツの背中は汗で濡れていて、筋肉の隆起する様子見てとれている。
けれど、すぐに、彼女は視線をそらすのだけど。
――ここで、走ってカリオスから逃げればどう思われるでしょうか?
何て破廉恥な!? フェリーネ、そんな事を考えてる場合ではありませんわ。
そう、走って逃げる理由をしている自身は、フェリーネを茶化す。
普通の顔をしている難しく、胸が苦しい事はそう言う事でしょう?
事態は本当に、勝手に困ったことに変わる。
止められたらいいのに、強くそう思い。
『それは嘘』そう誰かは心の中で呟く。
それはいつでも彼女の見たくない面を、強い光で映し出す腹違いの妹の声でもあった。
ここで、ローブの紐を外し、カリオスにかけたら鬼ですわ。
彼も今、とても暑いでしょうに……。
そして顔にかかる前髪をかきあげながら、カリオスは顔を上げをると、フェリーネの後ろについて歩いていた騎士を押し戻すように手を上げる。
その騎士は、念の為なのか、そう訓練されていたのか、剣に手を掛けていたが……。
「俺が付いて行く。大丈夫だ」
「すみません、領主様からの御命令ですので」
――お爺様……。
いつもは平気だろうフェリーネは、祖父の気遣いに感謝していた。
そして騎士は、剣から手を離し警戒を解き申し訳ないよう、カリオスの意見を拒否した。
「だが……」
彼はそこで粘る。彼はフェリーネと二人でいる事について、強く主張することはない。フェリーネは、二人の間へと入り、落ち着いた声を出す。
「あの……、カリオスがいるので大丈夫なので」
「申し訳ありません。当主がカリオス様にも……」
フェリーネは顔をあげ、彼に向けた視線を、静かにまた外す。
「警戒する様に」なのか「注意しろなのか」、「遠慮せずに切れ」なのか……。
たった一晩でカリオスは、フェリーネの祖父により、警戒される存在になってしまったようだ。
「えっと……、祖父も、母の事があったのできっと心配なのでしょう」
苦し紛れの言い訳に理解を示してくれたのか「わかった」との声に胸を撫でおろす。
「では、続きを進んでくれ」
そして三人は歩き出す。
続く




