57:喧騒のローリエ城での会議
ローリエの小暑の喧騒で、フェリーネは途中でマルティーに連れられ退席する事になってしまった。
「私の事なのにいいんですか?」
「あぁ、いいんですよ。カリオス様の言葉、『破棄しても構わない』その言葉は男女の仲を深める際には不適当で、それでみんなの怒りを買っているんですから」
「けれど、カリオス様は私が誘拐犯になってしまった責任をとって……」
そこまで言って、フェリーネも自信が無くなり、下を向いてしまった。
「えっ……っと、すみません。カリオスが……、ってフェリーネもわかってますよね? とにかく、僕の言える事は、おふたりは話合ってください。それくらいでしょうか……僕には口出しできません」
「そうですよね。わかりました。少しでも納得いくように、そうしてみます」
「あ……、納得じゃ……ないんだよな……、それでもお願いします。彼の事を」
そう言うと、彼は月明りの廊下を、肩を落とし歩いていった。
彼女は扉のノブに手をかけようとしたが、急に振り向き、窓から落ちる月明りを踏み、窓のすぐ下の壁へと手を掛けた。
それは少しだけ冷たく、心地いい。
暗闇の庭を照らす炎の中に、ガゼボが浮かびあがっている様子を二階から眺めている。
――ミリアと二人の暮らしに、カリオスが入る。
そう考えた時、彼女はその壁を持ったまま腰を下ろした。
目の前に見えるのは白い壁、そしてその壁を背に、足をのばして座り込む。
きっと、今と変わらない生活になるようにな気はする。
そう思ったところで、カリオスを受け入れいる自身に気づく。
――でも、カリオスは、……。
いつもはそこで諦める思いもあった。
けれども、今回は彼の言い出した事、『この地の女性との結構はもう……望んでいないのですか?』
それの事についてもちゃんと聞かなくちゃ、あー……、なんで!?
つまり、やっぱり、カリオス様のことが……?
こんな時に、こんな時だから?
――考えなきゃ……。
フェリーネを膝を抱えるのだった。
――まだ、着替えてないから、汚してしまうのにな……。
って、駄目! お風呂へ入って寝ましょう。
明日も仕事があるのですから。
彼女は立ちあがり、扉のノブへ手をかける。
「あぁ……、もうっ」
フェリーネを赤い顔を片手で隠した。
そしてゆっくり唇を、右手で拭う様に手を取り払うと……。
曲げた指の第一関節部分に、頬紅が一直線にぼやけた線を残していた。
そして彼女は、小さなため息をつくと、扉の中へと消えいく。
◇◇◇
「どういう事だ! この若造、順番というものを知らないのか!!」
フェリーネ欠いたダイニングルームでは、彼女の祖父の罵声が響いた。
マーク団長も、色恋沙汰の進行はせずに見ていたが、さすがに年老いたダリム卿のお体に差し障るだろうと、仲裁に入る。
「ダリム卿、御年齢を考え、それこままでにしてください。せっかくお孫さんと会えたのですから……」
「だが、あの子には、苦労はさせたくないのだ。それをこの男が……」
憎々し気に、孫の身を案ずる祖父はカリオスを見ている。
――藪蛇だっただろうか?
「私でも、遠征に参りますし、ダリム様が望む相手となると、それぞれリスクはありましょう」
「だが、カリオスはその中で、一番、重き枷につながっている。その状態で、なぜ孫娘にプロポーズをするのか? それが理解出来ぬのだ」
優雅な、オリビア様までたいそう不機嫌な顔だ。
なぜ、今か? カリオスと言えば、フェリーネに対し責任を負う為だろうが……。戦略がなってないというか……。
――カリオスは案外、正直物のあほうなのか?
マーク団長は腕を組み、この状況を観察している。
「だが、王室まで知れる所となった。
そうすればローリエ卿は、卿の今まで経験則で、王と交渉し角の立たない方向でまとめるだろう。
その方法では今までと変わらないと、俺は言っているんだ。
今度は、セイラの結婚を気に、もっと悪い状態になるだろう。
セオラ・ノーブルを守るため、北の境界線を守るローリエはいいだろうが、俺の領地はまだ小さい。解散されることも大いにあるだろう。
それをフェリーネは良しとしないだろう。結局、この状態に行き着くぞ」
「そうであるからフェリーネと婚約し、カリオスが前にでると? 貴方はその場に相応しくありませんよ。貴方はイクリオンにも、王室にも良くない因縁があるじゃないですか? 一番、この場を仕切るべきは……」
マークはオリビアを見る。
今までカリオスを睨みつけていたオリビアは、にやりと笑う。
「そうだろうとも、だからこの場に、我がシオン様は居ないのだ」
「この状況だから言うが、シオン卿が全てを搔っ攫う簒奪者になりはしないか?」
「ローリエ卿、お言葉が過ぎますぞ!」
そう机を叩く勢いで、オリビアが異を唱える。
「落ち着いてください、オリビア様……」
「貴女の御怒りになる気持ちはわかります。しかし、こちらも情報は手に入る。恋や愛越えてシオン様に忠誠を誓う気持ちは立派ですが、だからこそ、こちら側も勘ぐらざるおえないのです」
「何が言いたい?」
今度はオリビアは、マークに厳しい表情を向ける。
その時、扉を開けてマルティーは入って来た。
「はぁ……、これって話が進んでいる状態ですか?」
「進んではいるよ? まぁーその前に壊そうとしてる」
「ああ」
「この状態では、会議とは言わん」
「つるし上げだろう。こんなの」
彼女は、吐き捨てるように言った。
「熱い場面を見逃したようですね。とりあえずマーク団長、壊すのは止めてください。壊すだけ壊し、忙しいから介入できない、ってなるじゃないですかー」
「その為の仲裁役の君じゃないか」
マークは腕と足を組み、ご機嫌でマルティーにそう返す。
――彼は雰囲気を変える。それならば、なんとかなるだろう。
そうマークは踏んでいる。
「やっ、こっも忙しいんで」
そう言うと彼は胡散臭そうに、こちらを見て来る。
――カリオスは、自身の弱点を補う人物を良く見つけたものだ。
フェリーネもたぶん、すぐカリオスの世話を焼くようになるだろう。
――まぁ、敵としてはやりずらいな。
「では、マルティー君の意見を取り入れよ。
私としてはシオン卿の先見の際を気に入っているし、子どもの頃の誓いを貫きオリビア様と、結婚して貰いたいと思っています。
まぁ、こちらのカリオスも面倒くさいくらい抜け目がないし、ローリエ卿はご子息もちゃんとしている方だ。
それぞれの取り分を、分け合えばうまくいくはずだ。私は貧乏くじを引かされそうだが、公僕なのでそれを甘んじて受け入れよう。
そこでだ。カリオスはやはり、今はローリエ卿の言う通り、控えていてくれ。シオン卿が舞台に立ってくれないならば、出ていい、暴れてくれ、一掃も構わない。
フェリーネへのへたくそなプロピーズを、彼女が好めば、仕方ないんじゃないか……。と私は思う。
これで満足してくれないだろうか?」
「この男を……」
そうローリエ卿は言ったが、それがご自分の選択で、あった時も必ずあるはずだ。
「オリビアさん、シオン様の婚約者だったのですか?」
「昔の話だ」
「そうなのか……」
そうマルティーは言い、オリビア様を煙に巻いているし……。
「マーク団長、今日は助かった。そしてすまなかった……」
「俺に負けて泣けばいいんですよ。では、マルティー君ー!」
マーク団長はカリオスの話を遮るように、話を終わらせる。
そして彼は席を立ち、フェリーネの祖父のもとへと行ったようだ。
続く




