54:マーク団長のエスコート
ローリエの城のお茶会で、中庭へと続く道を行く。
「フェーリネ ローリエです。今は母の故郷に戻り、セオラ女神教団ではない方の教会にて、治療を行わせていただいております。皆様、是非いらしてくださいね」×三回
彼女は今まで、マークが誘導した先のテーブルで、三回ほど挨拶をしていた。
『何て、話すべきかしら?』
そう思った彼女は初めの挨拶を同じ文章に定め、臨機応変な対応に心がけようとしたのだが、まぁ、顔を知らない同士である。
『まぁ、素晴らしいお仕事ですわ』
『ええ、感服いたしました』
『それはダリム卿もマーサ夫人もお喜びのことでしょう』
そう、相手方も話せる範囲は狭まれるようだ。
『郷土料理で、お好きなものはできました?』などの話はち解け過ぎていて、貴族と、聖女の間では打交わされないのかもしれない。
「フェリーネ、ちょっと紹介の口上を、少しすつでもいい変えるべきじゃないですか? それにセオラ女神教団ではない方とは?」
腕を組み誘導してあるく、マーク団長が声を潜めてフェリーネにそう指摘した。
「そ、そうですか? けれどあの教会は何て呼べばいいのでしょう?」
フェリーネはマーク団長の顔を見てそう尋ねた。
「あそこは寄付で出来たらしいからな……、しかも以前は孤児院だったらしく。その時は、別の名前があったようだが……。まぁカシオペア様の教会で通じるらしい」
やはりこの土地に根ずいてる様子の彼は、あの教会の成り立ちをフェリーネよりも知ってはいるようだ……。
「うちの教団もカシオペア様でいらっしゃいますから……」
「そうだな……」
マーク団長は、そんな風に呑気に話す。
「以前治療をおこなった教会にします」
「それがいいかもしれない」
そうやって朗らかに会話は進んで行く。
彼の言う事はもっともで、今までセイラという看板である存在はに任せていたフェリーネにはやはり難しいことだったけれど、もう苦手などと、言ってられはしなかった。
さいわい、相談できる人の数は、ロスト・ミューの街に居た頃と考えると見違えるほど増えている事ではあるし。
「難しい?」
「いえ、やります。今はもうミリアと二人きりではないので大丈夫。きっと大丈夫です」
彼女は心に強く、念じているようだ。
「やはり、真面目なのですね、フェリーネは。助けになればと思い言った事ですが、忘れて欲しくなりました……」
もと、くまさんだったマーク団長は、手にした壺に蜂蜜がなくなり、悲しむような顔してしまっている。
フェリーネは『くまさん、どうしたの?』と戸惑うばかりのウサギさんのような顔になる。
「とりあえず、この北部の好きなところを言ってみましょうか?」
「北部の……、言っては人を怖がらせてしまうかもしれませんが、国境の岩場からレスタードを眺めた時、自由な鳥にでもなったような気分でした」
――その後、そんな鳥の魔物に攻撃されてしまいましたが。
「では、それを貴女の言葉で伝えてみましょうか?」
「ふふふ、先生みたいですね。生徒としてやる気がでます」
そう言うと、彼は満面の笑みをする。
彼がそういう笑顔をしている所を、戦場で見た。
しかし大抵は……、次の大仕事に続く合図の様だったような……。
◇◇
そしてダンスを踊る人々、それを微笑ましく眺める人々の集まる。
中庭のメインエリアとやってきた。
楽し気に音楽は流れ、花冠を頭の上にもち、走り回る子どもも見かけた。
「わぁ……、凄く楽しそうですね」
フェリーネを手のひらを合わせる途中、手のひらを少し離しながら辺りをぐるーっと視線を向けていく。
「そうですね」
制服姿のマーク団長も同じ様に辺りをぐるーっと眺める。頭を掻きながら、一つ、一つの点を確認しているようだ。
メイドに、ウェイター、楽しそうに遊んでいる獣人たち。
見ることのできなかった上流階級の風景。
そして最後の点であるだろう彼と、同じ制服の男性がうなずくの眺め、そして彼も、うなずいた。
「では、次はダンスの授業を致しましょう」
「えっ!?」
最後の制服の男性の視線を感じ、彼、そしてマークを見ていた彼女の手首を、彼は優しく掴み彼女を誘導していく。
そのフェリーネの薄い白いベールが肩から外れ、風にゆらゆらと流れながら彼女たちを追っていく。
ダンスを踊る人々の前へでると、そこは甘い花の香りの洪水、柔らく、優しい色合いのドレスを身に付けた貴婦人たちが、紳士と一緒に踊っている。
その風景を呆然と眺めるフェリーネ。
その彼女の手に、マークの温かく、大きな手が重なり、フェリーネを手をゆっくりと遠慮がちに包みこんでいった。
そして腰に手が当てられ、踊る人々の輪の中へ一歩踏みいれる。
水色、ピンク、イエローのドレスの花たち、その淑女たちに比べると、活動的に動くため、体にそったデザインである聖女の制服。
その違いに戸惑いフェリーネは足を止めると、マーク団長もそれにならった。
――場違い……。
彼女の心に浮かんだ言葉は、軽い痺れをもって伝わり、表情を少しだけ曇らさる。
「お茶会はどうでしたか? そう言われた時、ダンスを人々の中で踊らなければ始まりません。だから、一緒に踊ってくれませんか? 生徒さん」
――先生……。
フェリーネははにかむより顔をあげて笑った。
「……はい先生、喜んで」
しばらくマーク団長の顔を見つめていた彼女は、体の向きを変える。
そしてつながれた手はそのままに彼の前で、少しだけ膝を曲げる。
最初の礼――。
フェリーネは彼に手を引かれて、咲き乱れる花々の中へと入って行く。
「「ほぉ……」」
聖女の衣装を着た、娘を見つけた観客から声があがり、静かな吐息が漏れる。
多くの人々が密かに彼女を見に来たのだろう。
領主の孫娘、このローリエの地を揺るがすかもしれないお尋ね者のセリファスの血に連なる者を……。
そして祖父の拍手と共に、拍手の波が起る。
その波の音とが混ざり合いながら、オーケストラの最初のバイオリンが奏でられた。
二人はあいていた場所に位置をさだめる。
その時、フェリーネに始まりの声はかかる。
『今よ、アヒル! 楽しみなさい』
そして呼吸を整え、彼女はマークと踊り出す。
右左右左と足を動かし、マークのフェリーネを支える手は彼女に触れるか、触れないかの感触で、けれど要所、要所で彼女の体をしっかり支え導いていく。
最初、いちにさん、いちにさんと音楽に合わせて、頭の中でリズムを刻んでいた彼女。
うつむき、少しだけ伸びた灰紫の髪からのぞく白い首筋、髪に飾られている可憐な白い生花の髪飾りをつけて、『できた』と心の中を見通せる笑顔を見て、マーク団長は少しだけ眉を寄せる。
けれど彼はその巧みさで、ダンスも得意の様だった。
きっと、ダンスに置いては彼に困る要素はないだろう。
まわりを見て、細かく気を配っていたフェリーネも思わず、彼の顔を見上げ。
「踊れそうです」
そう、とても嬉しい。そう彼女の表情は言っている。
彼は踊っているのに、ゆっくりと目をつぶり、目を開ける。
その顔は、やはり少しだけ困ったように笑う。
「一緒に踊れて、光栄な事です」
そう噛み締めるように言ったのだった。
――あの戦いの日々の中、交わした言葉の数と、そこに積み重なる信頼で、指先を美しく伸ばす事が出来た。足を踏み込むことだってありはしない。
「うふふ」と笑い、彼を笑顔を見た時には、その曲は終わっていた。
会場中から拍手がなりひびき、その音は空へと広がる。
それを聞いたフェリーネは、拍手がこれだけ多く重なると、あらぬ方向から聞こえてくる錯覚がするのだわ。と、新しい発見をして、感心していた。
その拍手が鳴りやまない内に、マークは一点を見つめ、フェリーネを連れて歩き出す。
その先に木にもたれ掛かる様にして、立つカリオスが立っていたが、ふたりがこちらへ向かって来ると気付くと、木から体を離しこちらを見たのだった。
続く




