52:お茶を致しましょうか? 2/2
薔薇の門をくぐれば、本棚まで置かれ、装飾品も多く飾られている。隠れ家のような落ち着い空間がそこにあった。
「凄いですね……」
「はは、そうですね」
ふたりは座り、幾らもしない内に、「いかがでしょうか?」とワゴンに、様々なお茶と、デザートをのせたウェイターの男性はやって来た。
「この後、移動するので私は紅茶だけで」
「アイスとホットがございますが、いかがなさいますか?」
「ホットで」
「かしこまりました。お嬢様はいかがなさいますか?」
「えっ、私は……アイスの紅茶お願いします」
――ワゴンの車輪は、芝生の道をどうやって移動してやってきたのかしら?
小さなお店みたい。
そして……、マーク団長はさっきの言葉と裏腹に、こんな状況に慣れてるみたい。
……そして、ミリアは楽しんでいるかしら?
そうフェリーネが考えている内に、手際の良いウェイターは、紅茶を用意してくれていた。そして「どうぞごゆるりと」と言って、静かに退場する。
二つの紅茶の前で、フェリーネは首を傾か、彼を見る。
「そう言えば……、これから疲労がたまったら来てくださいますよね?」
「さっきもそうですが、今は真正面から言うのですね」
「はい? どういう事ですか?」
彼女は手を膝に置きながらも、体を傾け彼に問い掛ける。
「フェリーネ様は、あの戦場の騒然としていた空間に居てもなお、聖女である事をひた隠しにしていたので、何かあるのかとは、思っていましたが、姉妹の仲が宜しくなかったんですね」
「あっ、そういう……。あの時は、騙すような事をしてすみませんでした。そうですね、母が違いますし、仲良くする事は私たちには難しい事だったようです」
「けれど、部下の治療が終わったら、必ず『次、貴方ですよ』と、言って来たし、今回の事があってやはりという者は何人かいましたよ……。やはり歩き方の件も……ありますが」
「ちょっと必死でした言ってしまっていたのですが、それより、足音って……、カリオスもそうですが……もぉ……」
彼女の手はグルグルと、ストローを回す。
セピア色の紅茶の中で、白いミルクが渦を巻く。
そしてストローをパクっとくわえると、全て忘れて美味しいって顔をフェリーネはした。
「そう、まさに貴女は必至な形相で、貴女はただの助手であったのにね」
そう言うと、彼は静かにコーヒーを口にする。
――必死だったから……。
そう考え、肘をつき頭を抱えた彼女を、涼しい顔で見てから彼はふたたび話だす。
「あの時、治療をするかどうかの優先権は、貴女にありました。それなのに、魔力の残り残高を確認する時間はなく、その日の治療の終了を告げるのもフェリーネ、君だった。一応、セイラ様にも聞いてはいたが、彼女は君に異を唱える事は一度もなかった。その逆はあったけどね」
「そんな……、探偵の様な……うっ、……」
騎士の彼らは、戦場で魔物相手に剣を振るっていた。しかし日常では、様々犯罪の逮捕に関わっているという事を、彼女はうっかり失念していたようだ。
――穴があったら入りたい。
それができない彼女は、思わず顔を覆おうとする。
「化粧の事わすれずにね」
彼女は手を止めて、彼を見た。
「う……っ、そうですね。ありがとうございます。隠し通せてるつもりだった自分が恥ずかしい……」
騎士団の制服を着た彼、顔を覆って髭のせいで、結構なお歳だと思ってたけれど、髭を剃った彼は、贅肉のない体つきで……。
――案外、お若い……、いえ、祖父母がパートナーと押すのだから、伴侶もおらず案外は必要ないほど若いのだろう?
その時、入口側から、大きな声が聞こえてきた。
「王国北部辺境騎士団 副団長カリオス ライストファー卿ご到着です!」
そう、カリオスの到着を、知らせる声が響いた。
フェリーネは、声の聞こえてきた方へ、ガバッと姿勢向けた後に、その勢いのまま、ふたたびマークに向き直った。
「何故ですか!?」
「死ぬには、惜しい人材だからです」
マークは知らせの声を聞き、彼女が声の方向を向いている間に、飲んだのだろう紅茶のカップを、ソーサーの上に置いた。
「彼は、自ら戦いながら、寄せ集めの人々が住む、村に柵を作らせた。そこで多くの人の命を救いながらね。しかし魔物討伐が片付けば、彼に与えられたのは、助けた命と、それを育む村だけ」
彼は、お紅茶のカップを見つめ、語っている。
あの忙しい日々を経て、カリオスの為にマーク団長は動いたのだろか?
立派な行為だが、なんか、も――。
「これからも魔物は彼の治める領地を目指し進むでしょう。そしてその村を守るために彼は戦う。村を餌に、魔物を呼び寄せ、英雄をその地に釘付けし、国を守らせる義務を課す。国は妙案を考えたものです。まぁ、ありふれていますがね」
「しかし……、最初に人ありきでしょう? 守るに値する人がいるなら、苦にならない。そうではなりませんか? 現に、ローリエもそうあったと習いました」
「人によりますか? いいんですか? 今日は聖女の衣装を着ているのでしょう?」
マークは軽く冗談を言うように、彼女に問い掛けた。
「わかってらっしゃるでしょう? それにマーク団長だって、カリオス卿を、副団長にしてらっしゃるじゃないですか? いいのですか? 騎士なのでしょう?」
「まぁ、彼は英雄ですし、うちの騎士団に欲しい人材でありました。王宮で燻らしていい人材ではありませんでした。さすが、王、素晴らしい戦略眼とお持ちだったようです」
修道院で戦いを避けていた彼女とは違い、さすがにマーク団長は騎士団でもまれて来たのだろう。見事話を逸らされてしまった。王の話が出た以上、国民は王をほめたたえることしかできない。
「そうですね。素晴らしいことです」
そう言うとふたたび、アイスティーに口をつける。
――素晴らしい美味しさです。
「とにかく、彼は騎士団所属になれば、彼の自警団もこちらの所属となります。そうすれば僅かなながら給料は出ますし、組織としての戦い方、軍事物資について学ぶには最適ですよ。そのまま真似しても構いません」
フェリーネは少し、心がもやもやした。
それは何故だかわからない。
けれど、あの町から、距離のあるローリエのこの城まで、カリオスがどうどう動くか、連絡事項をどう伝達させるかわからない。
しかしもう去年から魔物討伐の最前線が、カリオスの治めるライストファーに移っているのなら、辺境騎士団の駐在地が、そこへと変わる可能性をは大いにある。
それならカリオスの副団長である事は、将来を見据え良い選択であるように思えた。
「ですが、実際のところ、彼を辺境騎士団を取り込んだとしても、彼と、彼の持つ魔剣があれば、大丈夫という一部の人々の考えは、私には覆せませんがね……」
――次の討伐でも騎士団と離され、孤立無援で戦う可能性を言っているのだろう。それはどうしょうもないこと何に。
「マーク団長、そこまでです。胃が痛くなっちゃいますよ」
また、胃の場所を撫でていた彼にそう言うと、手が止まった。
「そんな兆しが、あります?」
「今は、先程いいましたようにありません」
そう言えば、彼はにこっと笑うから、いろいろな意味でほっとけなくなる。
「それで……辺境騎士団のマーク団長はフェーリネ セリファスについてどう思っているのでしょうか」
――ここでやっと本題。逮捕は無さそう。
「結婚したいお嬢さん。いろいろ言ってくださるので、今回、指名されパートナーに選ばれた事で、少々、期待してしまいそうになっています」
フェリーネは「えっ!?」と言ったきり、時間が止まった様に、思考が止まった。
心臓の音が高鳴り、頬が熱い。
――どうして?!
「楽しい話をしているじゃないか?」
「きゃ――」
「おっ、制服、お似合いですよ、副団長殿」
聞き覚えの声を聞き、フェリーネは悲鳴をあげている。そして背中に静電気のようなものが駆け上がったようだ。
続く




