49:かがり火の焚かれた中庭で 2/2
男性一名、女性二名はそれぞれの性別に別れ、向かい合い、丸太を半分にぶった切ったベンチへと座る。
「ローリエ卿が言うには、次回のお茶会では、君のパートナーとして王国の辺境騎士団の騎士団長のマークを押してきた」
いきなり、重い気持ちを吐き出すように彼は言う。
彼女は彼の言葉を聞いて、目をまるくした。
「マーク団長ですか!?」
フェーリエは両手で顔を隠すが、顔が火照るのは、燃えている炎のせいばかりではないだろう。
「彼がどうかしたのか?」
「私……家事が苦手なのですが……、去年の魔物討伐では彼の騎士団の陣営にお世話になったのです。その際に……」
「そこで、見初められたのですか?」
「えっ?」
オリビアは、軽く疑問を尋ねるように言うので、フェリーネを戸惑わせる。
そして……、しばらくの間があったが、しぶしぶフェリーネは白状する。
「いえ、聖女として、私たち姉妹は聖女として、マーク団長率いる辺境騎士団と、戦場をとものにしていました」
「それが、魔物からの侵略における最前線だったのだろう?」
「そうだと言えますし、違うとも言えます。最前線は二つありました。辺境騎士団の率いるローリエルートと、カリオスが守るライストファーの目前の川の向こうです」
「それは知っている。しかし功績をあげたのは王国、そしてローリエ私兵である二つの辺境騎士団だと聞いている。その二つの騎士団が、魔物を壊滅させる大きな業績をあげて、討伐したと聞いているが?」
そう、隣にいるオリビアは聞いてくるが、カリオスは話す気がないようだ。
フェリーネは思わず、カリオスを睨め付けた。
「そうですね。現在、カリオスの町となっているライストファーが囮となり、後ろから挟み込む事に成功しました。マーク団長は、『その為に、町に住む人々の逃げ道である橋まで落とすのか!?』 私たちの前で苛立ちの声をあげていましたが……」
それを聞いたオリビアは、カリオスを睨みつける。
「なぜ、それを受け入れる!?」
「受け入れたわけでは……、全ては後の祭りだっただけだ」
「違う! なぜその人道に外れた行為を、世に知らしめない!? やり方はいかようにもあっただろう?!」
彼女は手を握りしめ叫ぶ。
しかしカリオスは、それをも受け入れるのだろうか?
「騎士の多く死に、やっと手に入れた勝利の結果がそれでいいのか? 死んだ騎士の家族に、『お前の家族が死んだ戦いの、最後はそうであった』と言えるのか?」
彼女が歯を噛み締めるガリッ、という音が確かに聞こえた。
そして頭を抱えこみ、ふたたび座ると「言えるわけない。すまなかった……」と、呟く。
オリビアの胸の痛みがわかる。カリオスのどうしょうもない気持ちもわかる。
けれど、フェリーネはこのままでは嫌なのだ。
わからない、どこからそんな気持ちが沸いてくるのか、あの日の慟哭に似て、止める事が叶わない。
――どうしてしまったんだろう?
その答えは出ない。
長い沈黙が訪れ、炎はパチ、パチッと、木を割り燃えていく。
そして続きを話だしたのはフェリーネだった。
日常と変わらない声に、オリビアは驚いた顔をして見ているようだった。
「マーク団長がその日の討伐戦を終えると、怪我人を連れて来るのです。彼の部下だからだそうです。そこまではいいのですが、その患者を治療をしている間に、ひざ掛けや、タオル等の配置など、様々なものの配置が微かに見直されているんですよね。そんな事は何度かあって、久しぶりとなると、合わせる顔がないといいますか……なんて、御礼の挨拶をしていいか……」
――やはり合わせる顔がないのに、本当にどうしょう!?
「ああ……、彼はそういう性格だからな」
「王都であった時には、彼は上官の尻拭いをする立場だったようだ。彼の辺境騎士団での団長への抜擢も、前団長の突然の戦線離脱し、臨時的なものだったらしい。よく言えば他の持ち場まで目が届く奴だとはシオン様が言っていた」
フェリーネは手をひざに置き、うんうんというように、うなづく。過去の記憶を思い返しいるように……。
その中には、怪我をした部下に発破をかけていただろう前団長に向かい、「ここは治療の間です。お静かに」そう言った過去まで出て来て、大変気分が滅入った。
そしてカリオスは静かに、オリビアの言葉に耳を傾ける。
――お二人のお茶会のパートナーって……。
「けれど、なぜ、マーク団長が選ばれたのですか? それに……お二人のパートナーはどうされるのですか?」
「ローリエ卿としては、印象操作がしたいらしい。王国の辺境騎士団の団長とパートナーであれば、誘拐犯とは程遠い存在だろうと」
「ですが、私は指名手配されていますよ? 今度こそ、逮捕されてしまいます」
――なぜか、マーク団長なら、面白そうという理由で逮捕すのではないか? という気がしている。結構、彼は真面目な人なのだが、時々理解できないこともして来た記憶があった。
例えば山の山菜を調理して貰って、治療の間は持って来たりして、セイラが食べないので、ふたりして外でもぐもぐ食べたり。
「大丈夫、逮捕ない」
「今までと理由は同じだが、もしかしたら、なぜそうなったのか? 団長室で、話す事なるかもしれないかもしれないが、デザートぐらいは出して貰えるだろう」
――デザートを出すのは、カリオスでしょう?
「まぁ、話しは聞かれると思います。すべてにおいて知らなきゃすまないって方ですし」
「では、ローリエ卿は、マーク団長を足掛かりに、王子へのルートを狙っているという可能性もわけか。シオン様の進言と合わせてば、イクリオン家のアークエルには迫る道筋ができたと考えてもいいかもしれない」
騎士団の最高責任者は、王子であるセルジオス殿下。彼が、今、その地位についている。
「どうだろう。俺にも秘密の部分はあるだろうからな。おれからフェリーネに伝われば、お前は絶対止めるだろう?」
「もちろんです。時間がまだあります。マーク団長に話しを話してでも、止めるようにしなければ……。そう思います」
そう彼女は決意を燃やす。せっかくできた帰る場所なのだから。
「しかし、イクリオン家側を強制捜査する方法は、今のままではだめだろうな。イクリオン家でさえ暴かれたとなれば、貴族に安全は無いに等しくなるだろう。それを行われる前に、貴族は血眼で止めて来るだろうし、王室もそれを退けてまで進めることはないだろう。」
「では、やはりフェリーネがこのまま、聖女として民衆に『なぜ?』疑問を植え付け、今までの聖女は偽物だったのでは? と、考えが及ばせる方法しかないのか……」
「新聞の紙面を賑わし、人の噂で持ち切りとなれば、貴族も自分とは別の案件と捉えるだろうし、それを勝機と定め、攻撃するもの現れるだろう。そうなれば自らセイラ、イクリオン家が出て来ざるおえない。もしくは当主の首をすげ替え、すべてを闇に沈めるか。俺は誰かの安全が脅かされなければそれでいい」
「聖女としての仕事は苦ではありません。それが一番安全ならそれを致しましょう。祖父母を守るためにも……」
そうフェリーネは胸に手を当てて宣言した。
守るものがでてくると、現状は刻刻とかわるようで、カリオスの意見も随分、柔軟になってきたように思う。けれど、時として暗雲は急に訪れるものである。
「一応、王や教会の使者をこの城へ呼び込み、セイラは居ないと、すみからすみまで捜索させる事。それと同時に、継母と教会の関係者との繋がりに不自然な点はないか調べさせておこう。まぁ、気休めくらいにはなるかもしれないだろう」
「では、私とセイラを見分けられないようした制服の変更を誰が着手したか、私が書かされた、契約書。それらの事も調べる様にできないでしょうか? 小さな事の一つ一つのどれかから綻びは出てくるはずです」
「そうかもしれない。そうだといいな」
そう彼は言った。
どうやら、彼はフェリーネの問題の渦中の中に居てくれるようだ。
その事にフェリーネは安心した。
夜の中庭は、かがり火が幾つも焚かれて、幻想的だ。
話し終わった三人はそれぞれ、その風景を眺めていた。
その胸中に何があるかわからないけど、一緒のものを見ていたのだった。
続く




