46:セイラに会いに来た、サラテート
セリファス家の窓の近くにて、アークエルは慌てて机に座り、便箋の前でペンをとる。
公爵家で育った事で、侍女に頼らず手紙を書けることを、彼女は女神に感謝した。
宛先はサラテートで、彼女と会う約束を取り付けるために文面を考え、ペンを走らせる。
彼女が好む、高価な便箋したためる。
内容はもちろんセイラの事、可愛そうな親族に興味はなくとも、金の卵を産む雌鶏になるならきっと彼女は興味を示すはず。
いや、そうなるように、文面をしなくてはセイラどれだけ危機的状況にあり、心が弱っている状態があるか、もし、捕まれば一族で一番、力のある方を引きずり出す結果を産もうとしている事を。
そして彼女の娘もまた、手紙をしたためていた。
◇◇
そこは、ローリエの民家だった。
聖女は今、現在そこにいる。
しかしやる事のない彼女は、自分の気持ちを切々と手紙にしたためていた。
そう、母と子は同時刻、全く同じ行動をとっている。
食べる食事が不味いこと、ベッドが始終きしんだ音をたてる事、だから帰りたい、いつまで、ここにいればいいの? そう切々と……。
セイラのためと、サラテートが用意された男女は最悪で、貴族に対する言葉使い方もなってはいない。せめて、新しい侍女を寄越して欲しいと……。
そして彼女はその手紙を几帳面に折り曲げ、封筒に入れ、のりで封をした。 シーリングワックスさえも持って来る暇も、そして必要もなかった。
セイラは、最後に引き出しを開ける。
引き出しの中には、封のされた手紙が五枚ほど入っている。
――いつまで待てばいいの?
◇◇◇
サラテートからの迎えの馬車は、夜に来た。
その日は、彼女の母親、アークエルが馬鹿な事を始めた日。
そして働きづめで、家庭も、教会もかえりみる事のない父が、慌てて屋敷の階段をあがって来た日。
「セイラ、旅の準備をしなさい」
父は彼女に告げた。
母は準備をする間中――。
「家族を愛しているからした事だわ。きっと上手くいくわ。ねぇ、貴方」
そう言葉が繰り返す。
父はどんな時も、あまり怒る事はない。
淡々と話していく。父は人間関係は話せばわかると、思い込もうとしている節がある。
全ては、古いしきたりが悪い。
そう結論付けるために……。人間を憎み切れないのかも? 父は祖母の死を後悔しているのかも? そして誰かさんの死さえ、後悔しているかもしれないわ。 母には言えないけれど……。
そして、過去を向いて、平気で今を虐げる。
それでも運命の輪を受け入れて、一生懸命努力する。
だから父と、姉はどこか似ていると思っていた。
――でも、姉はにげちゃったな……。
そして馬車は行ったことのある郊外のイクリオンの屋敷の一つへ到着した。
そこに閉じ込められ、数日過ごす。
――母の愚かな行為が、イクリオン家で共有ちゃったわね。
――クスッ
三日目の朝に彼女はそう思い、小さく笑った。
果たして……、帰るまでに、私の部屋は無事かしら? とも思った。
そして新しい愉快さを知る日々に、焦りが出てきたのは闇が深くなっていく、空を見た時だった。
けれど無事、三日目の夜に、星を散りばめたようなドレスを着て、サラテートはやって来た。
「ごめんなさいね。今まで忙しかったの」
「いいえ、私はサラテート様が来ていいだけで、それだけで……」
それは彼女の中の真実だった。
イクリオンの血を受け、セリファスの家で生を受けた。
聖女の彼女は、サラテートの庇護にある。
どれもセイラの人生を、輝かせる宝石だった。
「貴女は、しばらくここに居て貰うわ。そして確認ができしだいローリエへ向かって貰うと思うわ」
「ローリエへ?」
指先が微かに震えた。
――北部……、人が生きたまま食べられる土地、訪れた事があるから、その光景が忘れられない。
「あそこに、夫の遊んだ女の、子どもがいるじゃない?」
「はい……」
今いる王族の中で誰よりも、剣聖と言われた初代の血を受け継ぐと言われる男、カリオス バルセオ、今は治めている領地の名前であるライストファーと名乗っている。
「そいつがここ、王都にいると思ったら、帰って行ったわ。どう考えても、それが貴女の姉が居なくなった日なのよね……」
「なぜ、それを!?」
――母がおかしな事を始める前に、言ってくださらなったのか……。
しかし、それは無理な相談だったのだろう。
母は、素晴らしい提案。そう思っているようだし、目の前のこの方に認められたい。もしかしたら、負かしたいとか、愚かに考えていそうではあるし……。
「……いえ、知らせて頂き感謝いたしますわ」
「大丈夫かしら? もし良かったら夜、夜遊び過ぎてしまって、帰れなくなった事にしてもいいのよ?」
「そんな、サラテート様……」
今までの出来事をセイラを疲れさせ、気づけば涙が溢れて出ていた。
グズグズと、鼻を鳴らし、頼りにしている。命綱と言っていい方に、涙で訴えかけるしか道は知らない。
――そんな事を言い出したら、母に殺されちゃう、王子様との結婚だって、無くなってしまう……。王子なら母も納得するはずなのに……。
「あら、聖女様を落とし入れようとした犯罪者よりましよ? それに……貴女のその弱さ。紳士、淑女の皮をかぶった狡猾な蛇たちが見逃すわけない。そろそろ腹を決めるしかないわ。聖女として修道院で一生暮らすか、悪女として、すべての悪を丸のみするかどれかね」
「そんな……、聖女なのに、そんな人生しか選べないなんて……」
「ふっ、よく言うわ」
――サラテートは実に楽しそうだ。この人は悪女として腹を決めたのだろうか?
そして、フェリーネが歩むはずだった人生を歩むのは、また嫌だった。
フェリーネは、住む家取られ、決して聖女になり得ない場所に置かれていた。
そしてそれを見ていたセイラは知っていた。決して助けは来ない。
だから、目の前の彼女にすがり付き、気に入られようとして、サラテートの好む事をしていた。誰もがしていた事を真似していただけ。
それができないものは、資格のない者だけ。
せっかくイクリオン家に生まれたのに、サラテート様という輝かしい光に負け、負け癖つき、聖女の祖母に負け、日陰の道を歩いた。
それは母だった。
私はそうならない。
でも……もし、母の全てを告発したらどうなるだろう?
母は、悲しむだろうか? そして……。
「サラテート様、悪女は楽しいですか?」
そう言うと、彼女はセイラを覗きみる。
失敗作かしら? そう瞳が言っているようにも見える。
「私は私、悪女じゃないわ」
セイラの瞳は動く。考えているのだろう。爪を強く噛んでいる。
「ローリエへ行きますわ。あの屋敷にはもう戻りたくないから」
「わかったわ。いい事、セイラ、皆がイクリオンを恐れるわ。それは公爵だからだけではないのよ。誰より強くおなりなさい。そして貴女にこれをあげるは、蛇の毒よ。少しずつ混ぜて使うのよ。そんな根気も時には必要。そして飲めば楽にあの世に逝けるわ。それを飲むのが嫌なら、貴女はもっと上手に生きるべき」
そして彼女は笑った。怖くてとても美しい。
「サラテート様……」
「悪魔はね。天使に見える優しさを持てるから悪魔なのよ。貴女は何になるか知らないけど……、貴女の馬鹿さは見ててイライラするわ」
そして彼女は、人好きする笑顔で笑う。
「人に説教するなんて、歳ね。そして貴女はやはり馬鹿、私が優しいと思ってる? 失敗したら困るのよ。わかってね」
そう言うと、彼女は「じゃぁーねぇー」と言って帰って行った。
◇◇
そして彼女は、ローリエへと旅立つ前に母親とあった。
そしてわざとらしく自室へ行き、日記の入っている隠し引き出しの中に、毒をしまった。
――母は試しに舐めたりするだろうか? 誰かに飲ませるだろうか?
ただ、誰かのために死んでやるのも、違うなっと思っただけだ。
サラテートの人生も決して、幸せそうではないしね。
続く




