45:セリファス家の落日
その日、数多く聖女を輩出してきた、セリファス家の私邸に厳し声が響く。
「聖女様をどこへ隠したのですか?」
アークエルの選び抜いた抜いただろう、高級家具の数々が並ぶ応接室、その中心に置かれた長椅子のソファに、彼と体面して座るアークエル。
そしてセオラ大通り教会からやって来たという、ヴァーゴという神父様。
ヴァーゴ神父様は、行方不明になった二人の聖女、その母親であり、継母でもあるアークエルを攻め立てていた。
フェリーネが居なくなって一週間、その間に継母は、憎い姉を妹の誘拐犯にしたてあげた。しかしそんな付け焼き刃の嘘はすぐに、白日の下に晒さらされそうとしている。
「だから、王室へもう姉による誘拐ではないか? と、届をだしているわ。そちらの教会へも騎士たちから知らせが来ているでしょう?」
彼女はもう馬鹿とは話してられない。と言うように、尊大な態度で神父から顔を逸らす。
それでも、神父は食い下がってくる。
「仮に、誘拐された聖女が居ても、それはフェリーネ様なのではないですか? 貴女も苛立ちながフェリーネ様を探していた。そう、騎士たちからは聞いていますが?」
これでもかってほどに、ヴァーゴ神父様は目の前の女性を追い込むが、どれだけ面の皮が厚いのか、 半笑いで彼女は神父を見ている。
「それが? セイラが誘拐されていないという理由なの?」
「それは……、なら、二人一緒に消えるはずでは? 時間を置いてする意味がありません」
「はぁ……、どうしても我が子が誘拐された私を疑うつもりなのね……。貴方は知らないでしょうけど盗賊は入る際、引き込みを狙った家に入れるの。フェリーネは純情だから、患者の一人に騙されてしまったかもしれないわね? 一体、誰の責任かしら?」
そういい彼女は、紅の塗られた唇を歪ませる。
――その可能性はない。そうは言わせないわよ。だって現に、フェリーネは逃げているのだから。
神父は黙っていた。
謝罪を考えているのか、なおも、アークエルの隠している真実をあばこうとしているのか不明だが、その瞳は彼女を見据えランランと輝く様だった。
――勝ったわ……。
沈黙の時間の長さで、そうアークエルが判断したのか、次の話を始める。
「ところで、サラテート様と連絡取れないのだけれど、あの方はについて何か知っているかしら?」
サラテートは聖女の仕事について、教会と社交界をつなげる役目を大きくになっていた。その彼女がアークエルの名案を推し進めてからすぐに、連絡が途絶えアークエルを不安にさせていた。
「残念ながら、サラテートからのご連絡は入っておりません。聖女が二人も居なくなり、そのカバーをしている事なのでしょう。その忙しい時期には……廃妃と言えど、サラテート様が貴方のために何かなさるとは思えないですね。残念ですが」
そうヴァーゴは軽蔑や、嫌悪感を滲ませた瞳で、アークエルへ言い放つ。
「なんなの? 貴方?!」
「ただの連絡係です……。忙しいので、言い方に棘がありましたらすみません」
そう言う彼は、彼女を冷ややかな目で見つめている。
「私は、イクリオンの血筋の生まれなのよ! もっと、貴方は言葉に気を付けるべきだわ」
今にも噛みつきそうな顔で、淑女がしていい顔ではなかった。
「奥様、建前上でありますが、癒しの女神の前ではみな平等と掲げていますので……。それに教会は、セリファス家の血筋の方に住んでいただいているのであって、イクリオンの血筋は関係ありません」
今まで思うところがあったかの様に、神父は淡々と、真実を語る。
「聖女様がたが結婚されれば、そのお子様がのみがセリファス家を名乗れる様になりますので、セリファス家さえも消失する事をお忘れないよう願います……」
「そんな事……ライオネアは……」
「ライオネア様からお聞きになっていないのですか? 私どもはこの教会へ、ふたたびライネア様が戻られてからというもの、聖女の育成に関わっておられないので、奥様がご存じだとばかり……」
目の前のヴァーゴは、わざとらしくため息を一つ、つく。
拒むライオネアをこの教会へ呼び戻したのは、アークエル自身だった。
彼女はセイラの価値を、サラテートから世間話として聞いた。それかすぐに行動を起し、拒むライオネアを説き伏せて、この教会へやってきた。
それは彼女がチャンスだった。
しかしイクリオン家で、誰よりも輝けるそう思っていた彼女の現状は、ここで神父のお説教を聞くような暮らしでしかない。その理不尽さが恨めしい。
「では、改めて忠告を。奥様が推測で動いたばかりに、聖女というブランドは、地に落ちました。それが問題なのです。真実は関係ありません。次の問題は健やかに育むべき聖女様の育成を怠った事実です。そこをどうするべきか、どうぞ今のうちにお考えください。罪と罰は、もう、王室と教会へお任せください」
そう言って彼は席を立とうとする。
――ダメ、ダメ! 決定権は無理でも、対等であると知らしめなきゃ。
「それは……、真実を公表したのはフェリーネを早く捕まえるためなのよ! 捕まさえすれば、なんとでも言い逃れできるわ」
「女神を崇める、我々にとって聖女は女神の現身の姿なのですよ!
貶めることは許されません。そもそも誘拐犯である人物に、体の治療をさせると?
こちらはその事実についても、認識しているのですよ。
しかし、今までは、セリファス家の名の大きさから何もできなかった。
しかし王室も、私たち教会を育む者も、考えを改めねばならない。
そう、貴女が知らしめてくださいました」
「じゃーどうすれば良かったのよ!?」
とうとう、彼女は立ち上がり訴えた。ずいぶん、二人は憎しみ合うように話していたが、完全に亀裂が入ってしまったようにも思える。
「時間は戻りません。何を言っても無駄な事です。貴女のできる事は責任を取る事だけでしょうか……。誰よりも早くフェリーネを見つけ、セイラ様を誘拐したのは彼女ではないという状況をつくり、セイラ様に口裏を合わせる様にお伝えください」
「……考えておくわ」
「なっ」
「教会が教会の理屈で動くように、貴族には、貴族の通す筋があるわ。まずはサラテート様に、意見を仰がなければなりませんの。おわかりになる?」
「全くわかりません」
「だから、貴方は出世しないのよ。確認して連絡入れるわ。大通りの教会でいいよね?」
「はい、そうでございます。奥様」
「わかったわ。誰か居ないの? 神父様がお帰りよ」
そして「失礼します」と、扉は開き入って来たサラと共に神父は部屋をでたのだった。
続く




