43:仕立て屋めぐり 2/2
そして今、彼女は母の実家であるローリエの辺境伯の城にいる。
大きな扉を門番に開けて貰い、入城してから大きな硝子細工のシャンデリア、魅せるための階段、大きな窓枠から差し込む光に照らされる廊下。
そこにはさりげなく素晴らしい肖像画や、家具が置かれていて、長年、修道院暮らしだったフェリーネの全ての常識が覆る。
そして今、待たされている応接室に座れば、豪華そうなソファのクッションに体は沈みこんでいく。ブクブク……。
「わぁー夢みたい」と、フェリーネは思わず感嘆の声を漏らす。
清廉、質素な教会で育ちで、他の領地で聖女として活動する場合も、領主の城へ行ったことも、数えられるほどはあるけれど。
しかし今回の訪問は、今までとは別だろう。聖女の仕事は関係ないのだ。凄く賢そうなふりも必要ない
祖父母の到着はまだのようで、そばにいるのは、辺境の英雄と、侯爵家であるハークエルの領主と行動を共にする女性の騎士、気のいいお兄さんと、可愛い妹がいる。
そう、仲間と言って差し障りのない間柄。護衛はもちろんいない。
フェリーネはソファから立ち上がる。
淡いブルーのイブニングドレスの、裾がさらっと広がる。
生地は、キラキラとした小さな輝きを零す。
そして淑女の彼女は、応接室の中を歩き出す。
頬に触れる髪を、後ろでまとめているリボンは、白地で百合の透かしが入り、彼女の髪で揺れている。
◇◇
彼女たちは仕立て屋のよった後、獣人の為の仕立て屋へも寄っていた。
そこでは、先に行った仕立て屋とは違い。
大量の仕立てあがった衣服が、手に取れる高さで数多く吊り下げられていた。
「わぁー服がいっぱいー」
「いらっしゃいませ、小さなお客様。このいっぱいのお衣装、衣装づくりが趣味な私だからできることなのですよ」
ふふんという感じで、背が高く、眼鏡と帽子をかぶった彼女が言った。
「彼女、鶴の獣人という噂があるのですよ」
そうマルティーがこっそり言うが、髪は白と黒に明確に分かれている。ので、そうなのかもしれない。
マルティー、オリビアの二人の護衛に囲まれ「うーん」と、ドレスを選び出したミリア。フェリーネはその様子を確認しながら、常日頃疑問だった、ズボンの尻尾の部分を確認するため見て回っていく。
今ままでは人用の服に穴を開け、そこに布をつぎ足し、そこへ紐を通す。
それを尻尾にクルクル巻きつけて、最後をすぐ上のボタンに、紐に作ったボタンホールを留めていたり、リボンを使い尻尾の上に蝶々結びにしたりした。中の見えない工夫をしてきた。
――一体どうなっているのかしら?
そして探索の結果わかったことは――。
ここでも、昔からあるらしい紐や、リボンで隠す、一般的な方法を使用したものもあれば、プリーツスカートの境目に来るように隠したりしていたりしているようだ。
そして肝心のズボンは……後ろに切れ目を作り、ウエスト部分を帯で巻きつけしばる物が多くある。
ほかにも前ボタンではなく、後ろでとめる形の物もあった。
肝心の尻尾の所は別布を2枚、縦長で折り曲げ、重なる部分を多くゆとりもたせ、尻尾が出しても中身を見えないようにするようだ。
――今ままでのものと作り難さはどっちも、どっちだわ。
「おねえちゃん見てみて」
ミリアの衣裳が決まったようだ。
パフスリーブのブラウスに、フリルの付いたワイン色のワンピースを着ていた。
ワンピースの形はエプロンの様で、スカートの生地を持って見せている姿はとても可愛らしい。
――私に、絵心があれば……。
そう思わずにいられない。
「ミリア、可愛い」
「このドレスは尻尾はリボン式なんだよ」
――クッ、私が聞く影響が……。
「そのおリボンも可愛いわ」
エプロンのように、後ろで縛るリボンも、ふわふわで可愛いのであった。
そして居場所を無くし、窓の外の景色を見つめていたカリオスが、ズカズカとやって来てくる。
「あれを貰おう」
その横へ、ミリアはありがとうと言いに来たようだ。
けれどそのレジスターの置かれた場所の、後ろの壁はに多くのリボンが巻かれた状態で色とりどり。
「わぁ……」
口をちょっとだけ開けていたミリアに、カリオスが目を止めた時から結末はわかっていた。
そして――。
「これも貰おう」
「ありがとうございます」
そう笑顔で、言う店員さんの前、カウンターに手のひらに乗せ、顎を乗せていたミリアが、「おねえちゃんたちの分は?」そう聞いたのだ。
「どれがいいんだ?」
ぶっきらぼうだで、けれど王の血をひく威厳を持つ、カリオスがふりかえる。
きっと、どの騎士団長にも負けないほどの剣技の技を持ち、端正な顔立ちの彼が次々何か、買い与えようとしてくれる。
流石に成人に近い、彼女たちは困惑が隠せない。
「いえ、私は……」
「いや、あの私は」
「お揃いがいい♪」
そしてミリアの顔を見て、前を見たら、なぜか手遅れだと悟った。
そして今、透かし入りの白いリボンがミリアと、フェリーネの髪に、オリビアは手に巻き付けている
◇
辺境の魔物を今まで一手に引き受けた領主の城、その応接室は様々な王からの頂き物の数々が並んでいた。
その一つの前に、カリオスも長い間立っていた。
他の仲間は誰も何も言わないけれど、ミリアはカリオスのそばに行き、そっと彼の隣に立ち見ていた。
そして帰ってきて、「表彰状だった」そう彼女は言った。
「そうなんだ」
「うん」
それだけ言うと、ソファに座る。
そして用意されたお菓子に手を伸ばし、赤い苺ジャムののったクッキーを食べだした。
フェリーネもミリアの隣で食べだす。
「マルティー、オリビアもどうぞ美味しいよ」
「あの……カリオス。一緒にいただきませんか? 美味しいですよ」
そう彼のもとへ行き、声をかけた所で、扉の前で彼女は視線が止まる。
そしてその表情が凍りついた。
扉は少しだけ開き、お歳を召された方が、「姫様……」と、フェリーネの方を見て涙ぐんでいたから。
「ミリア……」
小さな肩に両手をのせる。
「私の事をご存じですか?」
服装からして、侍女、いえ侍女長、もしかしてフェリーネの母の乳母、婆やの可能性さえあった。
「お顔は見たことはございませんでした。ここは貴女の故郷、お母様は誰からも愛された方なのに、なんてことでしょう……」
ゆっくり歩いて来る彼女の視線は、短く切られた髪へとそそがれているよう……な気がする。
「母をご存じですか?」
「はい、はい、よく知っております。ヘレナ様の事なら、それこそ赤ちゃんの頃から……、後で、お嬢様の肖像画をお持ちしますね。本当によく似てらっしゃいます」
そう言うと、ふたたび感極まった様に涙を流す。
フェリーネとミリアは彼女の元へと向かい、彼女の背中をさする。
「ありがとうございます。楽しみしていますね」
「勿体ないお言葉です」
そう言うと、彼女の目から止めどなく涙が流れる。
「フェリーネ」
カリオスは扉から少し離れた場所に、持ってきていた椅子を置く。
そこへ彼女を誘導している間に、オリビアの持って来てくれた椅子に、三人並び座るのだった。
続く




