42:仕立て屋めぐり 1/2
仕立て屋は、街はずれの教会へ向かった時に、通った大通りに面して建っていた。
店先にショーウインドには、華やかな深紅のボールガウンドレス、純白のプリンセスドレス、海の色のマーメードドレスが美しさを競い合わされる様に飾られている。
「いらっしゃいませー。あら、今日はカリオス様とお忍びですか?」
――お忍び?
カリオスが押したドアに、滑り込む様に店内に入れて貰ったフェリーネ。
そんな彼女に向かい、前回ライストファーへやったお針子の彼女が言うのだった。
前回も、彼女が仮縫いの多くの仕事を仕切ってくれた。
だから来た目的を告げれば、きっとわかってくれる。
けれど、カリオス様との入店の際、お忍びと、言われたこが彼女をむずむずとした浮き足だった気持ちさせている。
「あの……教会の司祭レリオット様に、注文をした衣装が出来ていると聞いてやって来たのですが」
「はい、そちらですか。出来ておりますわ。では、少々お待ちください」
「ありがとうございます」
フェリーネは目標を達成できたようだ。
そして、カリオスと二人きりのお店で、ついつい彼の事を意識してしまう。
店内の様子は、全体的に生地を売っている店のようだ。
しかしどこらかしこに、細身のクマが座らされている。
プリンセスドレスを着たクマは、燕尾服を着たクマの隣に座らされている。
踊るような姿に固定され、深紅の裾の長いドレスをクマと、彼女に寄り添うタキシード姿のクマも居て、多くのクマが華やかな装いで、店内中に飾り点けるられている。
「ドレスは一枚では足りないものだ……」
そう教会にて、幌馬車の中で華やかな装いに着替えた、彼が言うのだから心臓に悪い。
「カリオス様、しばらくローリエに暮らす事になるのです。堅実に暮らしませんと」
「ローリエであるからこそ、お前の祖父母に貧しい暮らしをしている姿は見せられない。去年の魔物の討伐の際に、国より貰った報償金はまだあるだから……」
「そんな……、そんな尊いお金はなおの事、私のために使えません」
そう少し言い合いになっているところで、「お待たせしました」とお針子の彼女と、もう一人が衣裳を抱えて現れる。
「では、この三着の御試着をお願いします」
彼女はさすが、商売人で、先ほど言い合いに触れる事はない。
「えっ、三着ですか?」
「はい、こちらの三着でございます」
そう言っては彼女は、衣服の保護用の布に覆われた、新作のドレスをテーブルの上に並べたのだった。
◇
結局、「いいんじゃないか?」「似合っている」「……」
そう最後のドレスは、無言になってしまったカリオスは「いいんじゃないか?」の時点で、「そうですね……、聖女様の衣装イメージを今後の事を考えて、共通認識として把握したい。そう思っております」
そう、お針子の彼女に言われる事となる。
そしてカリオスと、フェリーネの頭に疑問符が舞う。
「えっ……と、ですねー。『仮縫いでは、完成した姿がわかりにくい』って言われるお客様がいらっしゃいまして……。そうですね。素敵な宝石も、刺繍も入れておりません。ですから、通常だと、刺繍入れるその前にも、御試着していただく事もございます」
「はい……」
「あぁ……」
軽い口調で、きっと大事なしているお針子の彼女に、ドレス作り素人の二人は聞く一方だった。
「ですが、今回、私どもの店舗と、お客様のお住まいの場所がとても離れております。ですので……」
その時、彼女は手を合わせて『ですので』の所で、パーンと軽く音をならす。きっと大事で、重要な事が続くのだろう。ふたりは意識を注意深くむける。
「この最後の御試着で、【最終確認】です。サイズなどの他に、デザイン、そしてお客様にしかわからない問題点があるかもしれません。
それを伝えていだき、今回は補修不可能な事でも、言って頂ければ今後の衣裳には反映できますわ。
素晴らしい衣裳をこちらとしても提供したいのです。
刺繍なのは、ドレスの素材によっては直せないものあります。
仮縫いの段階ではないので、別料金がかかる場合がございますが、お互いが満足いく御試着に致しましょう。
ですので……、是非、目指すべきイメージを持つ方がいらっしゃれば、参加していただきたいのですが……」
――イメージ。
フェリーネの頭の中にはセイラの聖女のイメージが浮かんだが、そういう事ではないだろう。
――私の目指す聖女のイメージ。・・・・・・修道着? ……。
「カリオス様、オリビアにも見ていただきましょう!」
「いい考えだ。行って来る」
そう言うと、カリオスは颯爽と出て行った。
「まぁ……、フェリーネ様の為にあんなに急いで、素敵ですわ。カリオス様の衣装も是非御作りしたいものです。きっと何でもお似合いのなるでしょうから、今後の御衣裳もうちでよろしくお願いします」
「でも、お金を出すのは私ではないので」
「はい、心得ておりますわ。ですが……、やはり、何事も衣装は女性が主役になりますねで、よかったらこれをどうぞ」
手をすり合わせ、猫撫で声のお針子の彼女は、ポスターカード大の、素敵なウェディングの衣装を身に付けた新郎新婦の絵を何枚も出して来た。
「ありがとうございます……」
思わず、ウェディングドレスのフェリーネ自身と、燕尾服姿のカリオスを想像して、顔が熱くなる。
「ふふふ、きっと素敵な式になるよう力をふるわせて頂きますわ」
「いえ、あの……」
そういう前に、白い騎士の正装を着たオリビアが掛けこんで来る。
しかし、その後にやって来た、カリオスも息を乱さず入ってくる。
「マルティーには、俺が見るように言われ、断られた」
「それは……、やはりカリオス様にも見ていただかなければ困ります。やはりフェリーネの衣装も、一番そばに居る方に美しいと思って頂ければ、そこには何の価値もありませんし」
「そうなのか……?」
「はい、もちろん」
もちろん、フェリーネにはわかっていた。
お針子の彼女の言う『一番そばに居る方』といのは結婚相手の事だろう。
たぶん、きっと……、けれども言葉通りの事もある。
やはりそこに謎はある。
だから、フェリーネもあえて言わなかったが、顔がちょっと嬉しそう。
そうにも見えた。
続く




