41:予定変更の知らせ
フェリーネがローリエへやって来て、一番最初の治療が終わりった。
かぶっていた修道着に手を掛けて、脱ぐために裾から顔を出せば、おもわず口からふぅー……っと息が漏れる。
長旅と、久しぶりの初診の患者の治療。
いままでの疲労と重なり、体は少し重く、動作はゆっくりとなってしまっている。
白く、長い修道着を適当なところで畳み、比較的綺麗な洗い物を入れる籐の籠へと入れると、オリビアから声がかかり、現実へと戻される。
「フェリーネ、やはり長旅の後はお疲れでしょう。明日はお休みにしてはいかがでしょうか? レリオット司祭もお疲れの様なら無理は言う事はないでしょう」
「ありがとうオリビア……、違うのです。ライストファーは小さな町で、それこそ患者として関わりあう前に、カリオスや、マルティー、なんならミリアを通して、知り合っていた事が多く、それなりに話しは弾んでた様に思うのですが……。ここでは知らない方ばかりで、だからずっと天気の話をしていたような……」
「あぁ……」
オリビアも思い当たる事があるのか、フェリーネが何を言おうとしているのか、わかるようだ。
「聖女として、人々の理想に近づけよりも、まず、人並に治療をすべきって話でしょうが、頑張るならどちらも! ってわけにはいかないでしょうか?」
「私は騎士ですので、にこにこしていれば、相手に不安や、なめられる可能性があります。ですから聖女の優しさと、治療の困難さ。この二つに相容れないものが、どこかで出て来るはずだとは思いますよ」
「オリビアの場合、にこにこというより、努力家である事の美しさというか、清廉さがありますよね。パレードで手を振ればきっと、華やかな美しさで人々を魅了するのだと思います」
「フェリーネ様!」
「は、はい!?」
「御からかいになるのは、やめてください!?」
オリビアは白い素肌を赤く染め、そう恥じらいをみせている。
「……本心からのですが」
そう言った途端『恥ずかしいからもうやめてくだい』と言いたげなオリビアの顔がフェリーネを見た。
――本当のことなのに……。ふふふ
「それでは話を戻します」
そう言った時、オリビアは安心をした顔をしてから、普段の騎士の顔に戻った。
――そういうところが、年上でも可愛らしい。と、言ってはだめなのでしょうね……。
「カルテを読めば、商人の方なら、立ち仕事、座り仕事が多いのだろうなぁ……、と思う事もありますが、『歩く様にしてくださいね』とか、私の感想を話してもいいのかしら? とか思うのです。アドバイスが出来れば、ふたたび治療する未来も減ると思えうのですが」
「では、お医者様の診断の際に、一言書いて貰ってはいかがですか? 先天的に継続する治療もあるでしょうから、有益でしょうね」
「そうですね! とても、いい考えだと思います。なぜ、今までそうしなかったのかしら? とってもいい考えなのに……」
「最近の魔法や、魔法科学の発展が、目覚ましいですから、医学とも、お互いに影響を与えあう風潮が、改めて起ったというのが正しいかもしれません」
チュニック姿のフェリーネは、肩程にのびた灰色がかった紫色の髪を弾ませて、目を輝かせオリビアを見つめる。
そんな手を合わせて、感激しながら自身の元までやって来た彼女を、オリビアは温かく、そして見惚れるように見守るのだった。
トントン――。
「はーい」
フェリーネは返事をすると、着替えの間に、オリビアと交代し、退出していたマルティーが現れる。
押し出したドアのノブを彼は持ち、身を乗り出す。
「もう行きましょうか。ミリアもカリオス様も幌馬車で待ってますよ」
「次はどこへ行くんですか? 食事でしょうか? それで、その……仕立て屋って食べた後に行くものですか? 食事の量って減らした方がいいのでしょうか?」
フェリーネは少しだけ赤い顔で、矢継ぎ早にそう聞いた。
レストランのマルルさんの料理は美味しいので、修道院でミリアと一緒に作っていた頃より、食べてしまっている。
――カリオスに言わせれば『いい色艶になった』とのことだが、どうなのだろう?
「あぁ、その事なのですが、先程、カリオス様と話していた方から、予定を変更し。昼食をローリエの領主の城でいかがですか? とのことで、そのまましばらく世話になる事に決まったようですよ」
「えっ!? 私は一応、国から指名手配を受けていますよ!?」
「ここで、ローリエ卿の血筋、それも孫を捕まえるとなれば、ローリエの私兵騎士団と、王国辺境騎士団が良くて相打ちですよ。しかし王国辺境騎士団には、辺境の若者が多く入団してますからね……。マーク団長ならそんな自分の首が、野ざらしになるような事がしないでしょうね。絶対」
「私の為にですか?」
フェリーネは思わず、マルティーの事をまじまじと見つめた。
どうやら彼は冗談を言っているようでないようだ。
隣にいるオリビアは、フェリーネの確認に黙ってうなずいた。
どうやら、本当のことらしい。そう思った時――。
「そこにカリオス様が加われば、ここだけの話、革命だって起こせます」
「そんな危ない賭けはいけません!」
彼女は思わす、そう叫んでいた。
「でも、よく考えてください。この辺境のカシオペア様はどんな方かを……。そして貴女の血筋を。やっと辺境に戻って来た聖女、そうなれば辺境に住む人々には貴女を守るべき理由があると思いませんか?」
そう、マルティーは静かに言った。
フェリーネは静かにフルフルと首をを振り「思いません」そう言うしかない。
「マルティー、何を頭の悪い話をしている。その前に身の潔白を訴えればいいだけだ。そんなわけにはなるわけない」
オリビアはそういい、フェリーネの両肩に手を掛ける。
「それにシオン様が出るまでもなく、ほかのカリオスや、マーク団長の性格上そんな事にはならない」
その言葉に、マルティーにこっこり笑い。振り返り廊下側を見た。
「そうですね。ですが、男爵の末息子の僕はサラテートについては、お顔を拝見しただけです。しかし怖い噂を聞いていたので、可能性を考え対処できるようにするしかありません。怖がらせたらすみません。けれど、考える事は必要だと思います」
そして彼は話を変えたかったのだろう。
「では、行きましょう。ミリア様も、カリオス様も待っていますよ」
そう笑顔で言うのだった。
「司祭様が、どこにいるか知っているか?」
「それなら教会に……」
歩き出すふたりを、扉から出て来たフェリーネは静かに見ていた。けれど、司祭の場所を聞いた、オリビアが戻りやってくる。
そうすると、フェリーネは確かな足取りで歩き出した。
続く




