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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
3:母の故郷ローリエにて

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40/59

40:ローリエの癒しの間

 魔物討伐の始まりを思い返せば、消毒の匂いが漂うこの部屋から始まる。

 六畳ほどの室内には、蝋燭の温か炎が燃えている。


 白い室内に、中央に置かれている患者の横たわるベッド。


 そのベッドの両脇には、三段ボックスとテーブルが置かれている。


 ネル生地のタオル、替えのシーツなどはカゴへ入れられ三段ボックスに。


 対を成す反対側には、テーブルが置かれていて、カルテを書くスペース、カルテ入れ、そしてハサミなどの雑貨が置かれていた。


 そして入口脇に、洗い物を入れる大きなバケツが幾つか。


「フェリーネ様、今日は助手の予備の修道着をお使いください」

「ありがとうございます」


「明日からの衣服については、仕立て屋から連絡が入っていて、今日の昼までには、全ての衣装が出来上がるそうです。試着もありますので、是非お立ち寄りくださいとの事でした」


「わざわざ聞いてくださったのですか?」


 司祭様に伝言を、伝える役目をさせて申し訳ない、そう思いつつふたたび彼女は頭をさげる。


「いや、あそこのオーナーとは自治会で、よく会うのですよ。やはり、聖女様がやって来るという話を聞いて、自治会あげてパレードなどするべきかって話なども出てはいたのですが……」


「えっ……、パレードですか?」


 フェリーネは王都に住んでいたので、さすがに街を練り歩くパレード自体は見たことがある。時には祝福を受けに、パレードの主役の方が教会へも訪れたこともある。


 その場合、主役が馬車や、馬に乗って手を振る事が殆どで、流れた話に聞こえるが、それでも彼女は驚きを隠せはしなかった。


「それが……、ローリエ家でのお茶会の際、パレードの事をマーサ様へ伝えて貰ったところ。『事情が、事情でしょうから大事にしない方がいいわ』と丁寧に断られてしまいました」


 それを聞いて、ふぅーっとやっと胸を撫でおろし、ちゃんと呼吸ができた。


「やはり、この街がこんなに活気があるのは、街に住む人々が、街を思い行動するからなのだな。素晴らしい」


 そうオリビアは感心するように言うと――。


「それなら、うちの街で勉強なさいますか? カリオス様始め、手作り感覚で町の運営ができますよ」


 そう雑貨など、どんな配置で置いてあるか、手に持ち確認しつつマルティーは提案をだした。


「すまない。私の知りたいのはもっと規模の大きな街についてだ。警備の合間に出来ることがあれば、世話になっている手間断る事がしない。どんどん言って言って欲しい」


「それは、ありがたい話ですが、宿屋代やその他もろもろ前金で、払って貰っている手前それは言い難いですね……」



「私が言ってる事は、マルティー殿の求めていた返事とそうかわらないと思うが?」


 そうオリビアは腑に落ちない。という顔をする。


「それでも、やはり今は立場の違いを気にします。シオン卿の心象を良くするに越した事はありませんし」


 そんな話のすぐ横で、フェリーネは久しぶりの修道着をかぶり着ていた。


 そしてかぶり終えた頃に、レディーファーストだろう。後ろを向いていたレリオット司祭は振り返り、一枚の紙をフェリーネへと差し出して来た。


 その紙を手を取って見てみる。


「この詳細のメモは今回、セオラ中央教会から発行されたものですが、しかし何年も前のものと内容が変わっていなかったですが、他に何か必要なものがありせんか?」


「大丈夫です。聖女の治療自体はいにしえの昔の治療と変わってませんから。傷口を見えるようにして、清潔な水で流していただければ治療を出来ます」


 フェリーネはそれに目を通し、そう言う間に、文字自体に見覚えがある事に気付く。


 サラも文字だと気づいた事により、お別れも言えず別れた彼女に、ここで元気にしている。その事が伝わったように思えてくる。


 サラはどんな顔をしたのかしら? と考えれば想像の中の彼女も優しげで、自然に胸の奥があったかくなってくる。


「それは心強い」


「けれども、誰でも行う事は出来ませんし、根本の原因を見つける事はできない。魔力も尽きればそこまで。最近の医術の方が、私は信頼が出来る様な気さえもするのです……」


「それぞれのいい所を見て行けばいい……と、いうわけにいかないのでしょうね。聖女様ともなると」


「どうでしょう? 私なのはまだまだですし。……あのレリオット司祭様、この詳細の紙を後でお借りしても構いませんか?」


「どうぞ、持ってお帰りください。先程いいましたように、何年も前の詳細の変わらないメモが残っておりますから」


「ありがとうございます」


 そう言うと、フェリーネは今日の成果をふたたび眺めつつ、口角をあげて微笑んだ。


 ――何故か、聖女の力が必要ない事で誰かの役にたてると思う時、素直な嬉しさが胸に宿る。

 その事を不思議にも思うけれど。


 それより手渡した時の反応の方が気になった。

 きっとカリオスは『ああ、わかった』としか言わないだろう。


 ふふふ、変な人だ。


 トントンと、部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」

 そう言って迎えに向かう司祭様。

 しかし扉まで、行こうとする、彼を押しとどめたのはオリビアだった。


 そして彼女が代わりに扉を開ける前に、「俺だ」そう、カリオスの声が聞こえた。


 その時、レリオット司祭様の苦笑が漏れる。

 きっと、聖女に対する厳戒態勢についつい、笑いが漏れたのだろう。


 一年前の私は、その扉をずかずかといった感じで、出入りし、時として王国辺境騎士団のマーク団長にたしなめられた事もあったほどだったからだ。


 ◇◇


「聖女の、セリファスの血筋の方が不用心に、人通りのある場所を出入れするものではありませんよ」


 そうお髭が、お爺さんの様にもっさり生えた彼に言われた。


「聖女はもう一人いますし、祖父の領地のローリエにそんな危険があると思いません。はい、クッキーです食べて」


「あぁ……、って貴女は、またこんなものを昼食としているのか?」

「それは、マーク団長の分ですよ。私はちゃんと食べました。マーク団長と違ってね。では」


「あぁっそれは、サンキュ」


 そう、扉を閉める間際、彼はクッキーを持つ手を上にあげ、言ったのだった。


 ◇◇


 ――そうやって、誤魔化した事もありましたっけ……。


 そしてカリオスが入ってくる。

 カリオスは入って来るなり、やはり周りを見回し、必要な物の再確認をしているようだ。とても彼も勤勉だ。そうでなければ、町など起こせない。


「カリオス、これ、レリオット司祭様にいただきました。治療に必要なもののリストです」


 フェリーネは両手で持ってそれを渡すと、彼は片手で受け取り、丁寧に見ていく。


 それを彼女は誇らしげに、手を後ろに結び見ている。


 その後ろ姿が楽し気で、心待ち気であった。


 それを知ってか、知らずか。カリオスはそれらに目を通すと彼は、フェリーネに向かって右手を差し出して来た。



 …………。


 しばらくフェリーネは、ぽかんと見つめると、『あぁ!』そう言いたげに、慌てて背中に結ばれていた手が解かれる。


 彼女も右手を差し出し……、カリオスへと戸惑いを隠して握手をした。


 カリオスに認められた。そう思う事と彼女は、すぐに誇らしげな顔になってくる。ふたりは固く握手したままで。


 剣術の訓練で豆がができ、そして潰れていったのだろう皮のかたい手のひら、そして温かな手はとても大きく頼もしい。


 フェリーネは、子どもの様に無邪気に握手をしているが、真面目に握手を求めるカリオスがおかしく――。


 そしてその様子を、オリビアが見て目をそらした事を、フェリーネも気付いていた。


「ミリア、もうすぐ患者が来る。ここを出ようか」

 そう、まわりを一生懸命見ていたミリアに、オリビアは言った。


「私もおねえちゃんが治療をしている所を見たいわ。先生はこう言うのよ。『夢は何ですか?』って、おねえちゃんのお世話をするために、メイドさんになりたいと思ってたけど、冒険者にも、騎士にも、聖女様の助手もしたくて、したくて、選べない。だから見ていたいの」


 そう彼女は、猫と同じ金色の瞳をしなから言うのだ。

 あんな小さかったミリアが……。


 胸にジンジン染み入るような気持ち、これは感動な気持ちなのかもしれないけど……。ミリアの言った事は、フェリーネにとっても大問題だった。


「それらの職業ってどうやってなるのでしょう……。けど、助手はライストファーでは、人不足だからいつでもなれるわ」


 ――ここで、ミリアの夢を叶えたい。そして今ならその夢を叶えられるだろう。


 そう、フェリーネ言った。

 それを聞いて、カリオスと、マルティーは息を吞んだ。


「フェリーネ様、それはそうですけど……」

 そう、納得いかない風に話し始めたマルティー。


「……ミリアは早く大きくなるといいですね。本職としてではなくとも助かります」

「頑張ります!」


 彼女は学校で覚えたのか、胸に手をやり敬礼をしている。


「それと、ミリアの面倒は僕がみますよ。初回は女性が多い方がいいだろうし」

「わぁーい、マルティーおにいちゃん、お外行きたい」


「……いやですよ、ミリアは欲しいものがると『欲しいわね……』って言って来るし」


 そう、不安な事をいいマルティーは、部屋から出て行ったのだった。


 続く







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