39:治療する者
ステンドグラスの窓から、講壇光を降り注ぐ。
その光の中に若い司祭いて、静かに近づくカリオス達に気づいたようだ。
「おぉ、フェリーネ様お久しぶりです」
「お久しぶりです。レリオット司祭様」
ゆっくりと近ずく若い娘の名を、司祭と話していた人物は知っていた。
そして彼女の周りの人々の顔を、落ち着いた表情で眺めている。
「では、私はこれにて失礼します」
そう、商人風のその男性は、頭の上の帽子を少しあげると、その場を後にする。
「お話中にすみません」
「いえいえ、教会の門は誰にでも、大きく開かれております。まぁ、お帰りいただく事も多くありますが、また来ていただければいいですよ」
その際に、司祭はニヒルな笑いを浮かべる。
そして一同、長い挨拶を交わすと、驚く事にレリオット司祭は若いながら、全ての人物の名前を知っているようで、にこにことした顔で対応していた。
最後に、「君がミリアちゃんか……、去年、ここにいた当初の数日は、それはもうフェリーネは暗い顔をしていたものだよ」
猫のようなふさふさ耳を向け聞いていたミリアに、視線を合わせ穏やかな司祭は微笑む。そんな彼の顔を少しだけ口を開けて、きょとんとした顔で彼女は見つめた。
「おねえちゃん、帰って来た時は『一人にしてごめんねー。寂しかったでしょう?』って言っていたのに、おねえちゃんの方が寂しかったのね?」
ミリアは勢いをつけて、柔らか灰紫の髪に、少しだけ隠れたフェリーネの顔を覗き込む様に見た。
「それは……、心配だったのよ。凄く、すごーくね。……けれど、レリオット様、そこまででしたか??」
困惑さと、助け舟を求めるように彼女は言った。
しかし彼はいままでの言葉を肯定するような、フェリーネたちの様子を微笑ましいと言いたげな、明るい笑顔をフェリーネに向けるのだった。
「そうですね……。お二人は仲がよろしいのでしょうな……と、思うほどには」
「う~ん、そうですね。仲はいいです。ミリアはいい子ですし……、ははは……」
そう、誤魔化すように、もじもじと彼女は身をよじる。
◇◇
その時、教会に新たな人物が二人入って来る。
上等なスーツを身に付けた二人を男たち。
彼らを、片手で司祭様は差し示し、カリオスへと顔を向ける。
「さすが時間通りですね。カリオス様、あちらが領主の館から来られた方です。ダリム卿の側につかえる方が一人、二つの騎士団の連絡を取り仕切っている方が一人、カリオス様にお話しがあるそうです」
「わかった。じゃ、後は頼む」
彼は厳しい顔をして、マルティーと、オリビアに向かいそう言った。
二人は静かに頷き、ミリアは腕を曲げ、手をぐぅにして、顔にも力を入れてうなずいた。
そしてそんなミリアにきゅんとした表情、いつもの少々の親ばかな顔をフェリーネはしたのだった。
そして二組に分かれ、話し始める。
「フェリーネ様、旅でのお疲れもあるでしょうが、申し訳ございません。今日からの治療との事で用意はいたしましたが、お体の方は大丈夫でしょうか?」
「お気遣い感謝いたします。体調については問題ありません。王都からやって来たからか、旅なれてしまったようです。聖女としてのお役目、頑張らさせていただきます」
心配気にカリオスを見ていた彼女は、そう言って微笑む。
「ふふ、貴方はやはり変わりませんね。聖女でなくても、あってもどこか自信ありげで、頼りになります」
「そうですか?」
「はい」
彼はしっかりと、そう言いきったようだった。
――聖女である事を隠す事は、決められた事だった。
聖女の力のない自分は、一体、他のどんな事を頑張るのだろう……。
そう思い、思い描いた自分を演じ、こなしてきた。
けれど、司祭様にそう思われていた事は、理想の自分に近づけていたようで嬉しい。
けれども、聖女であれば、今まで以上の働きを人々は要求するのかもしれない。それとも治療を行える人物として大切にさせるのか?
それは今はまだわからない。
自信のある態度に見合う、行動を心掛けていくしかないように思う。
「では、まず、聖女様にこれを」
彼は聖女となった、フェリーネを祝福する気持ちを滲ませるように、治療者の一覧を手渡した。
彼女はそれを両手で受け取り、書かれた文字を一通り目を通す。
やはり患者として選ばれた理由が、寄付とされている患者が多い。
これからもやはり患者は、変わらず裕福層の方が多いようだ。
「比較的裕福な方ばかりの様に思うのですが、お医者様にかかれないような方は居ないのですか?」
「それが……」
いつもうは明朗な彼が口淀む。
「私としてはまず、医者にかかる事の出来なない方々を優先すべきだと思います。しかしそういう方は、寄付によって賄われている。教会での食事を召し上がりますから……」
「聖女の治療まで受ければ、逆に不公平だと……」
「はい……、奉仕もされていて、せっかくの治療の機会なのですが……」
マルティーの言葉に、彼は眉をさげてそう答えた。
「死と直面するような病なら、こちらも推薦できるのですが……。ボランティアのお医者様にまわっていただき、しかし運が良くも悪くも、そんな方々はそこに書かれている人数だけのようです。それならば残った患者の数は、多くの寄付をしてくださる方々に回さざるおえません。お金は、お金です。しかし寄付によって賄われる食事で、救える多くの命があるのも、また事実なのです。」
「そうですね。そこから、生活を巻き返す事も、できるかもしれませんね」
そう答えた時、老人や、子どもを手を引く女性を思い浮かべる。可能性を語る事は簡単だ、けれど誰でも安心した暮らしを受ける。そういう理想的な世界を作り出すのは難しい。
そうフェリーネも知っている。
だから騒めく心をおさめ、彼女はやるべき事を行うのだった。
「では、治療を始めさせてください」
「ありがとうございます。去年、おふたりをお手伝いした者を呼んでおります。あの戦場で活躍なされた聖女様。おふたかたが、袂を分つ結果のは悲しいことですが、きっとフェリーネ様ならやり遂げていただけると信じております」
――袂を分かつ様な間柄の二人の聖女。それは誰と誰の事でしょう? あの頃はすでに、セイラとの関係はささくれだったものだったわ。
レリオットは口を閉じ、考え込んでしまったフェリーネに気づき、彼女の様子を見て、その心が定まる事を待っている。
「私は……、お手伝いについて、自分の意志で行ったので……」
フェリーネは言葉を詰まらせながら、話すのだけど、心を伝える言葉は途中で途切れた。
自分の成果をとられ、住んでいた家をとられ、すぐに『ペットを捨てる』という継母とセイラが嫌だった。今の仕事は、その事実を国や教会へ訴えるための布石を打つ旅。
けれど、そう言うだけでは浅すぎる。
そしてその気持ちについて教会の司祭様に伝え、同意を求めるは浅はかだ。
それは真の心から、人々を助けたいのではないと、自ら言っている様なものだ。
――それは偽善で、浅はか行為……。
しかし、治療する事についてはそう思わない。お金はお金、その価値は幾ら持っているか? でしかない。
お金に込められた、綺麗、汚い、心のこもった気持ち。
それを伝えるには、お金を介す際に、人の心と心が触れあわねばならない。その時にしか、気持ちは伝わらないと思っている。
人と人が出会い、相手を見つめ認識する。
貧しい身なりの人間がお金を差し出せば、裕福そうな身なりの人間が差し出すお金を憂いを帯びた瞳で見つめる。
言葉を添える。手紙を添える。
人の心を受け手が感じた時に、心を動かした時にしか、心を改変する爆発は起こらない。
信頼だったり、軽蔑だったり、憎悪する気持ちへと変わる化学変化のような心の爆発。
それならどんな思いで術者が、治療を行ったとしても言葉で伝えなければ善である。
また、どんなに心を込めても、悪質な第三者が介入し、悪質な気持ちを伝えれば、治療されたこと自体が忌まわしい悪へと変わるのではないかと考える。
――けれど、そんな話しを抜きに、一見、偽善と思われる行為かもしれないが、カリオスの不幸を救うために、力いっぱい治療をします。で、発信者側としては完璧な善なりもするような……。
――……うーん、わかりません!
「私は悲しくありません。浅ましい心と思いになるかもしれませんが、治療をして、喜んでいただける事にやりがいを感じております。出来たら、これからも自由に治療できますように、いつかお力添えしていただけませんか?」
手を固く握りしめ、彼を見つめフェリーネは訴えた。
結局、真の善、偽善であろうと関係なく、最善を尽くすしかない。
偽善は、受け手が受け取った事実以上の神聖さや、清い気持ちを発信者に求めた時の解釈の捉え方で、発信者にはどうしょうもないように思う。
意味がなくても、お金は経済を回すための素晴らしいものだ。
そして善も……。
「聖女の力は素晴らしいものです。その力を人々のために心力を尽くし、奉仕してくださる。フェリーネの行為は褒められて然るべき行為です。初心を忘れなければ、ですが、ですので、私の出来るの事なら喜んでお手伝いさせていただきます」
彼はにこやかに微笑み、フェリーネはほっと、胸を撫でおろす。
「今回も以前と同じ部屋になります。では、御案内いたしましょう」
そう彼は言うと、教会の両側。
ステンドグラスの窓の下の道へと進む。
そしてその先の扉から、彼に誘導されて部屋を出る。そして幾つかの扉をへてそこへたどり着いた。
続く
※でも、善なる姿を隠れ蓑に、最悪の事をすると最悪な事態になると思いますが、フェリーネの世界はそこまで情報が回ってないので性善説に基づいてフェリーネは考えています。けど、それはそれで偽善者の範囲越えているような?




