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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
2:北部の辺境の地にて

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37: 結界 試運転

 そして健康診断の結果は、幸い見た目通りに、健康な者たちばかりだった。


 彼らの体調を見ている間に、今回の結界について説明を改めて行われてたようで、だ。


 そしてふたたび外へ出る。



 やはり目の前は固い岩石の壁になっており、やってきた道は岩場の段差が続く緑のない、そんな世界に囲まれている。


「この壁の上に行く。確率が低いが、空飛ぶ魔物がいる場合がある。羽音などの、音に注意してくれ」


 カリオスが施設を隠す様に切り立つ、壁の前でそう説明する。

 壁は、家の高さよりまだ高い。


 一瞬血の気が失せるが、基地の人々に挟まれる形で進むのと、途中、途中に足場があるようで、怖くはないと聞いた。


 ――そう聞いているけど……、本当だろうか? 怖いのですが……。


 ここを、祖母や多くの聖女が進んだろうか? 

 …………、頑張りましょう……。


 ――それにしても子どもの頃――。


「フェリーネそこは岩場で、穿きなれないだろうけど、スラックスを穿いて行きなさいきっと役にたつわ」


「そうなのですか? 男の子が穿くあれを……」


 そう結界の訓練では言われたものですが、現地できてその意味がわかりました。


 ヒュー、ヒューと吹く風の音を聞き、見上げてていた彼女の前で扉が、バーン!と大きく開く。


「いや、一緒にいく!」

 ミリアが、基地の扉から飛び出して来る。その後ろにマルティーが続いてくる。


「すみません……、うっかり木登りより楽だと、言ってしまったんです」

「いいのよ~。だって上まで行きたいもの」


 ミリアは腰に手をあて、にっこり笑顔で言っている。

 フェリーネは、カリオスを見るが、彼は静かに首を振る。


「この上は風が強いんだ」

 彼は目を細めていうが……ミリアは顔をきょとんとさせ「私はおねえちゃんより強いわよ」そう言った。


 そう、彼女は辺境の町で、めきめきその特性を生かし、「将来は素敵な戦士も夢ではないですね」と、学校では、先生に言われてしまう逸材だった。


 その逆に、フェリーネは大鍋も「うんしょ、うんしょ」と運ぶほど非力だったりする。


 フェリーネは先に首をガクっと落とすと、カリオスが許しのにもそう時間は必要なかった。


 そしてミリアを先頭にマルティー、続いて女性陣、そしてカリオス。その後ろには、念のための数人続いた。


 梯子をあがり始めると、ミリアは驚く早さで進んで行く。

 やはり、ここでの戦闘を想定して、梯子ののぼりもあるのかもしれない。学校での日常が心配になる早さだった。


「一番!」と、シャツとスラック姿で、真下で受け止めるために居たカリオスや、離れて見ていた者たちに向かって、指を一本だけ高らかにあげている、


「まだ、この先も頂上へ行くために進みますよ。次の梯子まで一緒にいきましょうか」

 そう言いながらもミリアを一人にしないように、マルティーはフーフー言っている。もちろん、その後に続くフェリーネも。



 やっと、登りきった先には見る限り岩場。


 しかし、岩場の先へには、マルティーに手をつながれたミリアが、ひたいに手を付けて、目の前の風景を覗き込んでいる。風よけとなる壁がない分、吹き抜ける風は、ビュービューと音をたてて服や、髪を揺らして通り過ぎていた。


「わぁーぁー」

「はぁーも、高、帰りたい」


 フェリーネは髪を押さえながら、そこへ小走りで向かおうとすれば、「この先は、崖でしょうから、転ぶと危ないですよ」と、注意される。


 今度は注意して進んで行けば、青い領域が多い空の景色がまず目に入る。遠くの空の下にはふたたび魔物の世界をわける雪をかぶる山が見える。


 そしてその間にある森は、地に張り付くよう。


 近くに寄れば、そこにある木々はきっと一番背の高いカリオスよりもっともっと高いのかもしれない。平地、高くての二階程の高さしか知らないフェリーネには、不思議な感覚だった。


 それが神の、そして女神カシオペア様の視点なのだろう。


「わぁーーっ落ちたら死んでしまいますね……」

「ああ、戦いの最後には、大きな網ですくい上げて、雑魚の魔物をここから、落としてやった」


「まぁ、危ない。って言ってられませんね。あの状況じゃ」

「はぁ……、言っては悪いのだが、ハークエルが南部で良かった。シオン様がそんな事に加担したのならと、考えるだけで、倒れそうだ……」


 ――そうオリビアは言うが、やる事になれば、囮役を我先にと志願しそうだった。

 それだけ、彼女のシオン様に対する忠義は厚いはず。


「あそこが、魔物が生まれると言われる、【魔の森】です」

 マルティーが眼下に広がる森を指さす、ここから見てもあの広さだ。


 ――あそこに立てばどうなるの? それは想像に難しい。

 しかし、もし、あの森が魔物たちの母体ではないのなら、突っ込むのただ死へのハイキングを楽しむ事になりそう。


 フェリーネは思わず、ブルッと身震いをする。


「大丈夫だ。あそこから、ここへ来るまでには結界がある」


「時々、水の中を望む様に、揺らめくあれが……」

「はい。多くの魔物を、この地で倒した後といえ、あそこへ近づくのは危険な旅でした」

「大変でしたね……」


 皆、口々に思い出と、見知らぬ不安に思いを馳せながら語っている。


 ただ、救護用のキャンプで過ごしたフェリーネも、その地獄を推論で語るしかできない。戦場では、死者はもっともっといたのかもしれない。


 新聞は真実が言わないかもしれないし、真実を測るものさしも持ち合わせていないはずだから。


 そしてフェリーネその顛末さえもしらない。


 王都の癒しの間では、多くの患者が待っていた。

 だから、好転に転じると、しばらくすると機械的に、王都へと呼びもどされてしまったからだ。


「では、頼む」


 カリオスの言葉と共に、マルティーがフェリーネに古代語で記された呪文のノートを手渡す。その文字は見覚えがある。


 彼女は愁いを帯びた瞳で眺めると「ありがとうございます」と言って受け取ると、それを両手で持ち呪文を読み上げていく。


 間違う事もなく、言い淀む事もなく彼女を呪文を続け、そして言い終えた。


 光、虹のような僅かな光が走ると、水の揺らめきが近くにもう一枚できた。


「覚えてたのか?」

「え……っと、祖母に、何度も言わされました」


 彼女の手の内にある、ノートを大事そうに抱えてそう言った。


「では、魔物を呼び込む事、よろしくお願いします」

「はい。お任せください」

 マルティーが、背負って来た弓を取り出し、空へかかげると大きく弓を引く。


 ――あら、上?


 そう思ったのもつかぬ間、飛んでいた点に命中した。



 ――と、り?


 目を細め、彼女はそう思った。


 思ってる間に、グングン、その鳥はこちらへ速度を上げてやってくる。


 それと距離が近くになるとともに、その物体は遠近法を忠実以上に巨大になる!?


 ――鳥の魔物!?


 そう思ったのは、彼女がはった結界の向こうの空。


 その高みに陣取った魔物が、フェリーネたち、獲物たちを物色するような姿を見せた時だった。



 バサバサと羽根を音は煩く、耳に響く。


 しかし次の瞬間、咲き誇る花の匂いを嗅ぐ。

 その香りとともに後方へと、倒れるように引っ張られた!?


 その時には、滑空して来た魔物と目がしっかりと合っていた。

「おねちゃん!?」

「ミリアはこっちだよ!」


 そして目の前が真っ暗に……。


 ぎゃぁっ、て声と、それの羽音、それは近場を回転しているよう。



 ……ぎゅっと、閉じてた目をゆっくり開ける。


 ―― 背中 ――


 カリオスが、彼女の前を遮っていた。

 いつのまに? 彼は剣を横にして握り、薙ぎ払った後のようだ。


 その魔物は上空に居た。

 しかし、片側の羽根が燃えている。


 あの魔物は長く持たない。そう思った。


 次の瞬間、それはきりもみ回転するに落ちていく。


 そっから――。



 グゥーンと、斜めに真っすぐカリオスへと、滑空していく。



 その時、矢が魔物をいった。

 そしてその矢から、ボットッと炎が燃え上がる。


「オリビアさん次、行きますよ!」


 マルティーが放った矢に、燃える剣先を合わせて、シュッとマッチをするよう火をつける。熱さで、思わず腕で顔を覆う。


 それが落ちていく魔物に当たり、炎が魔物を巻き込んで燃え広がる。


 その時には、もう……落ちていく姿が。



 しかしそれも僅かな時で、燃え尽くしたのか?


 空気が尽きたのか?


 ――火はが消えていく。音さえ聞こえない。


 そしてフェリーネが探し当てた彼女。


 ミリアは、手を握り息をのむ。そんな状態だ。

 彼女も憧れてしまったのだろうか? 


 フェリーネが、祖母がその技に憧れたように。

 誰かを助けるという眩い偉業に。


 しかし、この辺境へ住むのなら、必要な憧れ、そこは強制できない。


 かもしれない……。


「この馬鹿!? わざわざ危険な飛行タイプの魔物を狙うやつがあるか!」


 ――あっ、カリオスがいっぱい喋っている。


「大丈夫でしたか? 少しきつく引っ張ってしまいました」

「それは大丈夫、助かりました」


 騎士の彼女は、フェリーネのどこにも怪我がないか、丹念に確認すると、ほっと息をはく


 ――ふふふ、立場が逆だわ。


 そんな彼女たちのもとへ、マルティーを叱り終わっただろうカリオスがやって来た。

 カリオスの表情は真剣で、謝罪するだろう彼に、なんて声をかければいいのだろう……。


 フェリーネは、そんな事を考えていた。


 フェリーネの望む事をしてくれるだろうオリビアは、彼女の元から離れ、いつもの通り彼女に手が届く距離へもどる。


 フェリーネ、彼女の肩に温かな大きな手が触れる。

 だから、手に視線を向けるようとしていた、その彼女のひたいにコツンと何かが当たる。


「良かった……、心臓が潰れると思ったぞ」 


 いつもはぶっきらぼうなカリオスの声、視界の中に亜麻色の髪が流れている。


 そして見間違えようのない。彼が自警団の制服として、着ている黒のジャケット。


 フェリーネは恐る恐る視線を上げているところで、後ろから声がかかる。その声の主を確かめる必要は無い。


「カリオス殿……」

 怒りを煮詰めたような、オリビアの声。


「なんだ、頭も撫でていない」

「同じ事です」


「それまでです」

 フェリーネは、ピリッと刺激のこもった声を出す。


「生還できた喜びも、男女に気軽触れてはいけないルールも知ってます……えっと……、凄く嬉しい時は、握手をしましょうカリオス」


 彼の表情に、僅かに釈然としない様子が混じる。


「わかった」

 そう言うと共に、彼の手が出され、二人は握手する事となる。彼の表情はそのままで。


 だから、フェリーネの心はチクリと痛む。


 ――北の地に、住む女性と結婚すると言ったわ。


 そう彼女は、笑顔の影でそう思っていた。


 その後、下の道路側まで降りて行き、人間の通行、剣、魔法の行使の確認を、何度か魔物を呼び寄せ。結界を試してみた。


 弱い魔物を入れる事を拒み、それ意外の魔物をしばらく封じ込める程度の効果がある。


 これで魔物を今までより、安全に間引きくことができるようなった。


 これでしばらく、カリオスが領地を離れても大丈夫。


 胸を撫で下ろして、基地を出発する時となったようだ。


 ◇◇◇


 たぶん、結界がうまくいかなくても、カリオスはフェリーネをローリエへ連れて行くだろう。


 セオラ中央教会から、連れ出した責任があるのだから、生まれが大変なのに、険しい道を選ぶ人だ……。


 フェリーネは、キャビネットから御者台に座る、揃いのシャツを着るカリオスを見てそう思っていた。


 続く



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