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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
2:北部の辺境の地にて

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33/58

33:ローリエから訪れたお針子たち

 シオン侯爵は、辺境の町を旅立った。

 それから幾日か過ぎたある日、ローリエからお針子がやって来た。


 準備を始める彼女たち、そのふとした仕草で花の香りが微かに流れ、部屋まで華やぐようだった。


「本日は、聖女様の衣裳を作るのための、測定にまいりました」


 セイラの着ていたような、聖女の衣裳を作る。

 彼女と並び立つために……。


 言葉に表す事のできない、複雑な思いが沸き上がる。


 そして彼女はお針子に言われるまま、下着の上から、あらゆる体の寸法を測られ始める。


 こそばゆく、恥ずかしく、ときには顔を赤くして、フェリーネはうつむいてしまったりした。


「フェリーネ様は、聖女の衣装をどのように考えてらっしゃいますか? 全ての場面で使える便利な服でしょうか? 式典用と仕事着とで使い分けてらっしゃいますか?」


 お針の彼女は肩の端から肩の端へ、メジャーをあてながら聞いてくる。


 ――新しく修道着を作るなら、数が必要だわ。

 今のところ血に触れることはなかったが、辺境の地ではこれからはどうなるかわからない。


「今、とにかく枚数が必要です。ですから仕事着をお願いします」


 メジャーを片手に、彼女は机に置かれた用紙に数字を記入していく。ペンが、紙の上を走る音が心地いい。


「はい。では、スカートどうなさいます? 可動域は狭まりますが、昔ながらの、くるぶしまでの裾の長いもの? 魔法使いの流行を取り入れて、ミニのスカートとローブを合わせたものもオススメですよ。 もしくは侍女や、メイドのようにひざ下ほどの丈で、エプロンを合わせて、汚れを防ぐ感じのものになさいますか?」


 ――ミニ!? ……セイラは、昔ながらのものだったけど……。


「それなら、ひざ丈のメイド服をお願いします」

「はい。承知しました。お披露目用に、上からかぶせるタイプの巻きスカートや、豪華なローブで着飾ることもできますよ」


 そう言うと、別のお針子の女性が、デザインを取り出しテーブルへと並べて行く。


 そして、目の前の彼女は、フェリーネの顔を見ながら説明していく。


 デザインをかがげるお針子を見ながらも、フェリーネは目の回るような思いだった。


 侍女のデザインはどれも美しい絵画のように色づけられ、一体どれほどのお金がかかるのかと、想像してしまう。


 しかしフェリーネはそれを聞き終えると、数多くの美しい白い生地が並べられ始める。


 しかしそれをゆったりと眺めている暇などなく、ふたたび計測され始めた。


 測られ飽きれば、美しいデザインを見せられ、うっとり眺める。知識欲、購買意欲を誘う。貴族の遊びも兼ねているよう……。


 そして……。


 庶民の感覚しか持ち合わせていない、フェリーネに焦りが出てくる。


「では、生地と、その補強をする芯。そして乙女の夢のふくらむレース、そこへ通す事のできるリボンについも説明させていただきますね」


 そう彼女が言ってくる。ふたたび計測が止まったようだ。

 そして二人のお針子が、それぞれ手の中に布を広げ始める。


 営業スマイルのニコニコとした笑顔を向けられながら、フェリーネの焦りはましていく。どれほどのお金が使われて、しまうのか考えるだけで恐ろしい。


 オリビアの方を見るが、彼女は警戒を解かず警備している。


 ――こう言う事は、私一人で決められる事ではないはず。


 彼女は、こぶしを強く握りしめた。


「あの……こういうことは、大勢の方に見ていただきませんと、カリオスに相談してまいります」と、肌着のシャツとドロワーズ姿で、部屋を出て行こうとする。


「その恰好では……」

 そしてオリビアに止められる事となった。


「では、下着の生地はいかがなさいますか?」

 お針子の二人は、やはり白い生地を持っている。


「えっと……」

 フェリーネは、手に持ったチュニックを、そのままをかぶる。

 そして、彼女たちのもとへ向かおうとしたが……。


「カリオス様にも、見ていただきますか?」

 そう、やや言いにくそうに彼女はいった。


「「見ていただきません!?」」

 彼女と、その後ろに控えていたオリビアは、一斉にそう否定した。



 ◇◇


 彼の用意した場所で、後日、教会へ申請すればある程度お金は返金されるが、彼のお金が少なからず使われる。


 それならば、彼の許可を取る必要があるはず。



 というわけで、やはりカリオスは召喚された。



 その際に、レストランで働いている、小さな種族のマルルさんとともに、お針子とカリオスは部屋の扉を開けるて入ってきた。


 そして下着や、コルセットの打ち合わせを終えた。


 もう一人のお針子は、生地をテーブルの上へ広げ始め、デザインの書かれた用紙を二人の前に差しだした。


 じっくりとそれを見て、説明を聞いたマルルさんは立ち上がり、生地の置かれた机の前にやってくる。


「普通のメイド服と同じ生地がおすすめよ 一番使われてるものを見せて貰いましょう。いいわよね、カリオス様」


「ああ、フェリーネがいいなら。デザインもそのままでいい」


「あ……ッ、そうですね。そうしましょう」

 ――慌てていて、そんな事もわからなかったなんて…

 …。


 けれど、やっと決まった達成感と、じんわりとした疲労感を体に感じていた。その間に、「ああ、これにしょうか」と、カリオスの声。


 あっさり終わり、彼に申し訳なくさえ思えもした。


 しかし作業は終わったはず。その事に感動さえおぼえているフェリーネ。


 そんな彼女の前に、淡いブルーのイブニングドレス手に、お針子は立った。


 ビクッ!

 彼女は驚きで、体が勝手に跳ねた。


 ――終わりがない!? 終わりがありません……。


「最後に、カリオス様、ご予約の品はこちらになります」


 彼女が持つ淡い青のドレスには、しつけ糸がついている。

 どうやら仮縫いの状態のようだ。


 それにしても、首回りと、背中の部分に生地が使われていない様に見えるが……。


 フェリーネは、驚きの感情を表さないようにしていたが、口は少しだけひらいてしまっていたかもしれない。目を丸くしていたのかも?


「生地の少なさを、心配に思ってらっしゃいますか?」

「えっ……、あっ、そうですね。職業柄気になります」


「うんうん、そのお気持ちわかりますわ。ですが……。今では、これくらいの露出が普通になっていて……。今まで『肌を見せるな』って常識から脱却した今だかこそ、今度は逆に首元をつめた衣装を身に付けると、少々無粋と言われてしまいますの。しばらくすれば、収まる考えだと思われますが。デザインとともに、そうカリオス様に手紙でしたため、露出を最大限に抑えたこのデザインで、OKをいただきました」


 そう言ってドレスのシルエットのについて説明し、雇い主のカリオスのフォローもお針子は忘れない。


「どうだろうか?」

 そう、珍しく不安な顔で彼は、フェリーネに問い掛けた。


「既製品のパターンを使用してますが、フェリーネ様の髪の色、目の色に似合う、ドレスの色と素材を選んでおります」


 ――無粋なものになってしまう……。ここで誰かに悪く思われるのは得策じゃない。味方を作らなきゃ。


 それに……。


「着てみたいです。色がとても素敵ですし、きっと着てみればシルエットもきっと綺麗なのでしょうね」


 触れれば生地はとてもやわらく、窓からら入り込む日の光でキラキラと光っている様でさえある。


 そんなうっとりする様に、渡されたドレスを眺める。


「では、領主様には部屋から、でていいただきましょうか。やはり男性の方には、お嬢様の中途半端な姿は見せられません。社交の場で美しいお嬢様をお見せしますわ」


 そう、お針子は言った。

 握った手のひらを逆の肩へ、顔を隠すようにやっているカリオスへ。


「それは……、あぁ、わかったよろしく頼む」    


 フェリーネの事を見ていた彼は、すぐに背を向け逃げる様に、部屋から出ていった。


「「うふふ」」

 マルルとお針子二人は顔を見合わせて、笑っている。


 フェリーネは、不思議に思う様に三人を見た。

 そしてオリビアを見たが、彼女は考え込むように立っていた。


 そして手の中のドレスを見た。

 やはりそれはきらきらと美しく、フェリーネを魅了している。


 続く


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