31:辺境の地の聖女 ルール 2/2
「では、まずジルクお前だ」
気付くと、カリオスは人々の中に進み出ていた。カリオスの行く先で人垣が割れていく。ほどなくして筋肉の鎧を着ている様な先程のベンチの男性のもとへと、彼はたどり着いていた。
ジルクは杖をつき、片側のスラックスは膝の先で結ばれている。
カリオスは、人々の中でもあるけるように、杖を持つジルクに肩を貸す。
「聞け! これからしばらくは彼女の患者は俺が決める。
前回の魔物討伐の際、負傷を負った者を優先的に治療する!
この町を救った英雄たちだ。中にはもう……戦いを拒む者もいるだろう。だが、彼らが居てくれたから、ふたたび明るい笑顔を取り戻す事ができた。
これは俺の決定だ。文句があるなら、このカリオスのところまで来るといい」
カリオスは戦いで名乗りをあげるように、大声で宣言していき、徐々に声の大きさを小さくしていった。
カリオスの声は空にも轟き、有無も言わさぬ響きがあった。
人々の中には肩を落として帰っていく者も居たが、聖女の奇跡がみたいと残る者といた。
しかし、彼は怪我と言うにはあまりにも、破損箇所がひどい。
「カリオス、ジルク様はどれだけ魔力を使うかわからない為、一番最後に致しましょう」
そして小声で「きっと治療で痛みが強くでるでしょう。本人の名誉のために最後の方が……」そうお伝えし、一番最後にして貰ったはずですが……。
――減ってません。むしろ、人が増えてしまいました。
「カリオス、どうしましょうか?」
さすがに、ジルクさんが本人がどう感じるかについてわからず、カリオスの狙いがフェリーネの力を示すためである事を考えると、どうするべきかわからない。
さすがに、いろいろと見知らぬ方の度量を把握するのは難しく、しかし治療に手を抜く事はしたくない。
そう考え、行き着く先が見いだせず、思わず夕焼け色の瞳を少々うるうるさせてフェリーネは尋ねた。
そしてふたたびカリオスが、白いベンチに座った彼の元へと聞きに行く。少々、カリオスの人々の間を行き来する様子に、おぉー!? と声が上がったので、フェリーネは出来るだけ丁寧に彼に対応するように努めた。
「やる!」
そう明るい声で、返事を返されました。
フェリーネはフゥー息をはく。戦う前の意気込みのような気持ちで、柔らかな芝生の上を歩いて行く。
「このまま、ベンチの上でやりましょう。では、スラックスの裾の結び目をほどきます」
そうフェリーネが、彼の前にしゃがもうとした。
「いや、できる。できる」
そう言ってひょいと体の向きを変え、器用にベンチに両足を乗せ片足のスラックスの結び目を解いて行く。そして丁寧に折りたたまれた皺をあるその裾を折り曲げた足の隣へと置いた。
「このままの姿勢ですまいが、お願いします」
彼は頭を下げる、やはり仕草が戦士であると思わせる。
「いけるところまで、いかせていただきます」
声は緊張のためかこわばる。けれど、フェリーネは両手を突き出す様にして、治療を開始する。
――いけます! 少し前傾するだけなので、たぶん腰もそう、痛くないでしょう。
治療は順調の様に思われた。だが――。
「グッ、うあぁぁああぁぁ……!?」
――彼は凄い断末魔をあげる。それはわかります。
ここまでひどい状態の方は、久しぶり。
「もう少し弱い力で治療いたしましょうか」
「なんの、これしき、耐えてみせます!!」
こちらに顔を向ける彼はひたいに、汗を浮かべていて……。
「えっ? あの、これは治療なので、耐えていただかなくて大丈夫でよ。日にちを改めて、行いましょう」
ですが、彼は言う。
「俺の治療が今日終われば、明日誰かの治療が行えます。 どうぞ全力で治療を!」
――えっ、え、こわい。想像を絶する痛さでしょう。聖女の行っていい行為を超えているはずです!?
「ジルク、無理をするな……。俺も治療をうけたが、激痛だろう?」
――カリオス!
その時、フェリーネは見た。 カリオスの言葉にまわりの人々が明らかにひいているのを……。
『治療は、そんなに痛いんだ……』
誰の顔も、そう言っている。
「我慢はよくありません。力を加減ししていたます!」
「体にいいのなら、どうぞ全力で!」
「そう言う問題では……」
そもそも女性ばかりの修道院育ちで、男性に会っても体の悪い方々が大半で、フェリーネはたぶん男らしいという、あり方への対応に戸惑い、難しいと、いまさらながら思っていた、。
「フェリーネ、頼む。ジルクは、一度言い出したら聞かない。この様に患者が多い状態ならば、なおさらだろう。ここはジルクの意見を汲んでやってくれないだろうか……?」
「カリオス……」
領主のカリオス、屈強なジルク……。彼は言葉を曲げる事はないかもしれない。
そしてその時にはもう、手遅れ位に、治療に屈服する事がなかった屈強なジルクという空気ができていた。
――痛さを訴える事は、罪ではないのですよ……。
そしてフェリーネは治療を行いました。
しかし、途中でジルクの足の横に、フェリーネは腰掛ける。
「もう駄目です。心が寂しくなってしまったようです」
立ち上がろうとする気力が沸かない。体が風邪をひいた時の様に重い。体を眺めるが、どの色のもやも出ていない様だ。
「魔力切れだな」
「そんなはずは……」
そう言うとカリオスは、彼女を体の前にすくい上げる様に抱き上げる。
カリオスの顔が近くあり、突然の事だったので、フェリーネは怒られた子どものように目をそらす。
「魔力切れとは、魔力が薬が使いきった状態で、今の私はよく効く塗り薬から、空の容器になっただけで……、私は私です問題ありません。降ろしてください」
「だがお前は、よく効く塗り薬でいたいのだろう? 減ってしまったなら、空の容器だという認識は大切だ。その上で、薬剤師にでも、他の誰でもいい。人に頼れ」
「……自分で言っておいてなんですが、おかしな例えで、カリオスの言い分までおかしくなってしまてませんか? うーん、本当にだめの様です。眠くなってしまって……」
そのまま、不思議と安心できる場所でフェリーネは目を開ける事ができない。
そのまますやすや眠ってしまい、起きたのは次の昼。
いろいろな事実が、大いに彼女の頭を悩ませたのだった
続く




