30:辺境の地の聖女 ルール 1/2
その教会は町のもっとも奥まった所にある。
教会の墓地の柵の向こうには、鬱蒼と木々が植わっており、夏でも墓の中の住人に快適さを提供してるかもしれない。
その木々を眺める前に、教会の前の道には立つ、腕に緑の布を巻いた男たちの姿が目に付いた。彼は手をバツにして、カリオスへとサインを送っている。
それだけ確認すと、両手をふたりにつながれながら、顔を下げはぁはぁはぁと肩で息をしてフェリーネは休憩をとっている。
「聖女様がいらっしゃったわ」
そう女性の声が聞こえた。その声に続くように「どこ?」「見えない」「おぉ……」と様々な声と、敷地からがあふれ出す人々を見て、オリビアが咄嗟に判断を下す。。
「裏からまわりましょう」
「ああ」
「はぁい……」
三人は、すぐ目の前に見える教会の横道へと入り込む。
そこには青々とした芝生がひかれ、その道を彩るようにポツ、ポツと庭木が植えられた道で、教会の裏側へとまわりこむ。
やはり緑の布を腕に巻く、男性が誘導してくれ、教会の隣にある神父の住居と、墓場の間にある中庭へと歩き出た。
神父の住居から顔をだすと、フェリーネは人々を見て立ち止ま血、彼らを眺める。
緑の芝生の上、前の人々は座らされ、後方は立ってこちらを眺めている。
白いベンチのには、お年寄りと、……がたいの良い男性が座って居る。彼は目を多きく開き、フェリーネを見た。
しかし彼が満足げに笑っても……。
その時、彼女は隣に立つカリオスへ顔を向けた。
そこに居た彼も、満足げに口角をあげベンチに座る男性を見ている事も気付く。ブルルルと、フェリーネは武者震いの様に少し体が勝手に震える。
「まだか?」
「いつまで待たせるんだ?」
そういう声に視線を向ければ、聖女を探す彼らの期待を膨らませたような目が、彼らの切羽つまった病状やけがの様子を表している様で、恐ろしくもあった。
それが、他の輝く天から降りて来る蜘蛛の糸を、自身の下から引き千切ってしまう顔ではないと、言い切れない。
「どうやって、こんなに……?」
昨日より遥かに多い人の目に、思わずゴクリっと、喉が音を立てる。
二人の温かな手が心地良く、安心し。けれど……、離さなけれならない。それがとっても心細い。
「馬車は通れないが、落とされた橋の場所に、吊り橋は復旧しているんだ」
「そうなんですか……」
カリオスと言葉を交わした後に、ふたたび、彼らの方を向く。
もちろん、セオラ中央教会から出て、別の教会を訪れ事もあった。しかしそこでは教会の騎士たちに囲まれて、人々の期待はいつもセイラに。
その中で、フェリーネは治療を行う事だけに、専念できた。
しかし、人々の期待は今、フェリーネ、一人の肩に掛かっている。
――彼ら、全ての願いは叶えられない……。
それを知った時、彼らはどんな顔をするだろうか……。
――セイラはそんな期待をかけ、報われない人々前に姿を晒していた……。
陽の光を浴び、輝くようなプラチナの髪はウエーブを描き、弾んでいた。
白い聖女の衣装に、施さたきめ細かな白百合の刺繍が、ベールの下で揺れ動く。
そして顔立ちにあどけなさを残すセイラは、一瞬だけ振り返りフェリーネの顔を確認すると、彼女の前を横切り、民衆の前に立つていた。いつも……。
何度も見た光景だった。それが幻の様にありありと思い浮かべられるほどに……。
セイラはいつも一度振り返り、フェリーネの顔を確認して、大舞台の前に立つ。
――そうしなければ、いけないわけでもないはずなのに。
悔しい、悔しい、そう思わなければいけない。 そんな気がする。
「真似しましょう」
フェリーネは、彼女の言葉の真意を測りかねている。カリオスと、オリビアの顔を見てニヤリと笑う。
そして、彼女は手を解放し、自らの足で歩むと、彼らの前へ立った。
――あの子は、私の顔を見て何を思ったの? 思わず、見なければならないほどなら、人は不思議ね。あの子はその場にいる意味を、私に与えていた。
「聖女様、怪我を治していただけませんか?」
「聖女様、この地へやってまいりましてから、夫の熱が下がらないのです」
人々の助けを求める声が絶え間なく思えるほど、続き響きく。
手が、助けを求め前に伸びる。
思わず、カリオスと、オリビアはフェリーネの前に出て、護衛を始めるほどだった。
――手は、何の為に伸びるのだろう……?
「皆さん、こんにちは。聖女のフェリーネと申します」
彼女はとても大きな声を出し、ひとまず、その場へただ立っていた。
目の前の領主、そして彼の後ろで大声を出す聖女に、顔を見合わせ中庭内が、一瞬だけ戸惑った。
「まず、大切な事を二つお知らせします。
一つ、裕福な方は寄付をお願いしております。それについて各お住まいの領地の教会で行う事をお願います。つまり無料で受ける為には教会の基準による審査がある事は、今までと変わりません。
二つ、流行り病の場合は、基本、領地の方を覗き、診る頃が出来ません。私自身、病にかかるためです。
私の事は性能の良い塗り薬とお考えください。魔力という薬が無くなれば、私も普通に人間とそう変わらなくなります。
ですので、この辺境の地では、皆さんを助けられる人間を、優先的に回復してまいります」
そう言うと、人々から「そんなぁ……」「せっかくここまで来たのに」そう声があがる。
「そしてもし、死の淵あるような方とお知り合いの方は、是非、ご相談ください。……今のところ、死に至る流行り病についての噂はありますか?」
目の前の、畑仕事の格好をした、四十前後の男性にフェリーネは声をかけた。
「いや、どうだろう……」
頭を人差し指で搔きながら、助けを求めるように見回している。
カリオスや、オリビアもこちらへ振り返り、首を振っている。
「なら、流行り病についても、本日の治療は大丈夫です。いつになるかわかりませんが、治療が必要な方は用紙にご記入ください。文字の書ける方は手助けをお願いします。では、本日は、カリオスが決められた方を治療します。カリオス様、お願いします」
やはり、人々はざわざわとざわめくが、「僕、書ける!」「私も」意外であり、よく考えれば納得だが、辺境の地に移り住み、戦うために学んだ子どもたちから手が上がっている。
その子たちをオリビアが集め、用紙の記入始めた。結果はこの町の掲示板に張り出され、その内、教会の連絡網でまわり始めるだろう。
――そうしたら、カリオスの願いは叶うのだろうか?
続く




