27:こんなうれしい事はほかにない
教会からの帰り道、鳥はチッチッーと鳴き、川のせせらぎが耳に優しい。
白地にオレンジのチュニック姿のフェリーネ、その隣を白のシャッとダークグリーンのスラックスを穿いたカリオスが歩いている。
――やはり、カリオスは……。
フェリーネは歩きながら、彼を見ていた。
そしてカリオスも首を曲げて、彼女の方を見ている。
――けれど……私が、前を見て歩きだすと、彼もそのまま何事もなかった様に歩いている。
――何故でしょう?
――……そう言えば、ミリアが一緒に暮らす様になって始めの頃、その時はミリアがこちらの顔をじっーっと見て、「何?」 と言えば、「ううん何でもない」って……。
そう彼女は言っていた。って、もしかして……。
フェリーネの自身の方が、不思議な事をしているのかも?
そう彼女は気付く。
――だって、自然豊かなこんな場所で、木漏れ日の差し込む中を、カリオス様と歩くとても不思議な事です。
けれど、それが日常になりつつあるのが……、普通なんです。
「フェリーネ、治療について足りないものについて、聞かせてくれないか?」
「はっ、はい!」
フェリーネは慌てて、大きな声をあげて彼を見た。
しかし彼は彼女の肩を左手で押さえ、右手は彼女の頭の上に……。
「あの……」
そう言って彼女は立ち止まり、カリオスの左手は行くてを阻む、せり出した木の枝を掴んで上に上げていた。その事に気付くと、止まった心臓と呼吸が動きだし、フゥー……と大きく息を吐く。
「この枝は後で、切っておこう」
フェリーネは何度も無言で、うなずく。
そして最後に、小さく息を吐きながら「そうですね。それがいいと思います」と、言う。
――はぁー……びっくりしました。枝があったんですね。凄い枝です。枝ってなんですか!?
「カリオス、先程の話、なぁ……」
「ぶつかって、いなかっただろうか?」
顔の近くで、カリオスの顔があって、ふかい、ふかい森のような緑の瞳が目の前に――。
フェリーネはその美しい瞳を見ていた。魂を抜かれるほどの、それを……。
「うん、大丈夫だな」
彼は立ち上がり、フェリーネの頭をワシャワシャ撫でる。
もしかしたから彼は、身近な愛犬か何かと勘違いしているのか? と思われるほどなでた。結果として髪が酷いありさまになっている。
「撫ですぎです」
「すまなかった」
カリオスの顔には、ひどいありさまなってしまった。と、書いてある。
それを見てフェリーネはもっと顔しかめる。そして髪を手で直していく。
「おぉ……」
髪の艶までもと通りになり、カリオスは思わず感嘆の声を漏らす。
「好きなんですか? こう……、髪をくしゃ、くしゃって」
手を頭の所へもっていって、手をぐぅー、ぱぁー、ぐぅー、ぱぁーしているしているフェリーネ黙って眺めていた彼は、腕を組み考える。
「考えた事もない……」
「もぉ――!」
さすがの聖女様も怒ったようで、……。
「髪はすまなかった。馬ならブラッシングはする様にしているが……」
その後、彼は自身は髪を撫でるのが好きなのか?
何故女性に、あんな失礼な態度をとってしまったのか?
そう自問自答しながら帰り、治療について考えるの忘れてしまったようだ。
だが、ケーキについては、レストランに務める。小さな背丈の種族のマルルさんが用意してくれていてくれたので、事なきを得た。
しかしカリオスは、「わぁー!」と、とっくに機嫌の直っていたフェリーネに――。
「良かったら、もう一つ食べていくか?」
「夕食前に、そんなに食べれません」と、言って断られいた。
◇◇◇
「教会はどうでした?」
夕食時に、そう言ったのは、やはりマルティーだった。
フェリーネはあの、大騒ぎだった教会の中庭を思い出す。
◇
教会で、座っていた二人、そのふたりに最初声をかけて来たのは、がたいの青年だった。
「カリオス様、お話が……」
彼は声を潜め、ちらちらと、フェリーネにを見ていた。
「どうしたんだ?」
「ヴーン、おおまかにいいますと、田舎って結構、暇で、それそれに鳩を飼っていたりしております。それで結構鳩が飛んでしまったようで、それもどっさり」
彼は身振り手ぶりで入れて話、最後に教会の入口を見た。
扉の隙間から光がもれ、そこに幾つか顔が並んで見える。
一番下の子どもはもう……、四つん這いになってしまっている高さだった。
そんな状態になれてしまったフェリーネにが立ち上がり、手を合わせる。
「えっと、順番って決まってますか?」
そう呆然と、彼女を見ているふたりの顔を見た。
◇
――そんなわけはありませんでした。
来るか、来ないかわからない、聖女の順番を決めていたら楽天的ですよね。
結局、「効果が、持続しそうな若い方を治療いたします」と、言ったフェリーネの言葉を受けて、一年前の北の地レスタードからの魔物の流入事件の際、怪我を負ったものが五人程選ばれていた。
しかし場所が無く、教会の中庭の芝生の上で行う事になる。
近所の人が持って来て毛布の上で、治療を受ける事になった人々、そしてそれが見学できると、興味津々に患者を眺めてはいた人々が集まる。
治療の際の痛さを訴える人々に、戦々恐々していたが、……それでも、治らぬと思っていた知り合いの元気な姿に、感極まる人と、困惑し、治療を行われた場所をただ見つめる患者。
そして感情の波が出来ができ、人々の中で大きくなっていく。
全ては歓喜の色に染まり、お祭り騒ぎ、踊れや、歌えやとヒートアップしていく。
「申しわありません。治療中なので、出て行ってくれませんか?」
「「あっ……」」
そこで、フェリーネの存在と、そんな彼女たちを見守る患者の家族に気が付いたようで、彼らはすごすごと出て行く。
しかし、ふたたび治療を終えると、感情の波が……。
喜び方は人によって様々で、グラデーション、絵画、虹のよう。
そんな風景は、フェリーネは嫌いではない。けれど立場が違い、数少ない聖女として彼らの立場にはなる事はないだろう。
けれど、その光景を何度もみて、心躍る彼女もいる。
そして……、最後の患者が「ありがとうございます!」そう言って家族と誰より喜びを分かち合いたく、駆けて様子も嫌いではない。
「ふぅ……」
腰を下ろし毛布の上に座り、教会の外の歓喜の音を確かめる。
そんな彼女の隣に、カリオスが膝をついて座った。
フェリーネは彼を見た。
「お疲れ様、こんなうれしい事はほかにない」
――今は、視線の向こうに患者に囲まれるセイラはおらず、お礼もされて、そして隣にカリオスがいる。
今日は五人治療できた。私しか出来ない事。
――こんなうれしい事はほかにない。
続く




