25:カリオスを待つ間
カリオスの住む屋敷は、家具は、聖女の旅で泊った宿屋と、似た作りの木製の家具を使っている。
けれども屋敷の造りについては、質素である事を好んだ祖母と住んでいた屋敷よりも、豪華な造りをしていた。
なので、フェリーネもミリアも「わぁ……」「凄い」と周りを見回し、部屋へと通された時も、きょろきょろとして歩いていた。
◇◇◇
昼食よりまだ早い時間、一階の階段脇、受付前の休憩場所へ、フェリーネたちが降りてくると、マルティーとシオンが既にブラウンのソファにゆったり腰かけ、旅の疲れを癒していた。
「あら、カリオスは?」
「馬を見に行きましたよ」
「馬ですか……」
フェリーネが声をかけると、ソファに座っていたマルティーが振り向き答える。それを聞きながら、三人は彼らの前の長椅子のソファへ腰をおろした。
「はい、愛馬ってやつですね。そいつの様子見に行ってます」
「ほぉ……、カリオス卿の愛馬、一度見てみたいものですが、折角の逢瀬でので今回は遠慮いたしますか……」
「えぇ……」
「ミリア、カリオスがいいと言ってくれたら、明日にも見せて貰いましょう」
――私もミリアにかこつけて、どんな馬か見てみたい。軍人の様なカリオスには、きっとどんな馬でも似合うのでしょうね……。
そんな、おしゃべりをしている彼女たちの前に、黒い燕尾服姿の家令であるグリムが静かに立った。
「あまりお待たせするのもなんですので、皆さんだけで、お先にお食事いかがしょうか?」
彼女たちは、少々顔を見合わせて、「話があるので」そう、彼に言い伝える。
「かしこまりました」
そう言い彼は、すぐ後ろの受付へとさがっていった。
「これ読もうっと」
ミリアは壁に置かれた本棚から、本を手に取り帰って来ると静かにそれを読み出した。
「カリオス卿は屋敷で、宿屋や、レストランを営んでいるのですか?」
「僕が、カリオス様とここへ移り住んだ時には、この状態でした」
「そうなのか? カリオス殿は自室という気を許す場所で、不特定多数の人間を出入りさせるとは、貴族として勇敢と言うか、無謀というか……」
「まぁ……」
オリビアが眉間に皺をつくる。聞いているフェリーネには、別世界の話の様でついつい声が漏れでていた。
「僕も『何故?』と質問したのですが、『まずは住民を増やしたい』と……返事がかえってきましたね」
「まっ、冒険者を置くにも、宿屋は必須だからな」
「それにこれだけ寄せ集めの住民が住む村なので、税金や作物を多くとってしまってはたちいかなくなるので、家令のグリムさんを含め、王室の離宮にいた、お母様の故郷ホークニングに帰らなかった方がここ『領主の館』で別の仕事を持ちつつ暮らしています」
「もしかしてここの宿名は、領主の館たったりするのですか? 看板にもそう書いてあったけどー」
シオンは王様のようにソファに腕をかけて、足を組み質問した。
「カリオスがレストランも、宿屋も、名前を付けなかったのですよ。かりおすさまのやしきより、りょうしゅのやかたの方が文字数少ないので領民がそう呼びだしたんです」
「そうか、限りなくどうでもいいね」
そうシオンが言って、マルティーがちょっとだけ「おい?!」って小声で言っていた。
「あははは……」
「シオン様……」
シオンは楽し気に笑い、オリビアはそんな彼をたしなめていた。
フェリーネはやっぱり、背筋をまっすぐにして、どうしたものなのかしら? と考える。
そこへ、カリオスが手を拭きながら現れる。
しかし、彼は自分の事など気にせずに食べてると思ったのか、ソファの前で待つ一同を見て、足を止めてしまった。
オホン、「カリオス様、皆様御待ちでございます」
「あぁ……、すまない待たせてしまったようだ。では、こちらだ」
「ここで働くコックも、王室の離宮から連れて来たのかい?」
「正確には、母の故郷のホークニングでコックをしていた男だが、母と一緒に王室へとあがったらしい」
「それは楽しみだ。そろそろシオン様に温かな料理を食べていただきたかった頃合いだったからな」
――どんな料理が出るかしら?
「だか、ここら辺で手に入る食材は限られるので、ここで採れる食材に相性の良い母の故郷の郷土料理がメインになっているらしいがな」
「それは楽しみですね。ホークニングとうちとは料理は料理がかぶる部分も多く。何も食べても、美味しいものばかりでしょうね」
「そうか、なら気にいってくれると嬉しいが……」
そう、カリオスとシオンは談笑し、最後にカリオスの緑の瞳がフェリーネを見ていて居た事に気付き、彼女の心臓が跳ねる。
――気のせい……よね? ……オリビア?
動揺を知られていないかと、辺りを見回すと彼女の表情は少しだけ暗かった。
――あっ……。
オリビアを思った時、家庭教師の話を思い出す。
「伯爵を領主に置きながら、それでも多くの領土をと有していたホークニングは、今やいくつにも分割されて……」
――その一部が、シオンが治める領地になっている。
そう先生は言っていた。表情が暗く見えたのは、そのせいかもしれない。しかし違う理由かも?
真実は彼女に聞かなくてはわからない。 心の中を覗き見る様な質問に思われた。
けれど、これから一緒だからこそ、気にかかった。
その時、カリオス達に続き、屋敷を隔てる壁の扉からレストランへと出た。
レストランでは、卵の焼ける香ばしい匂いや、コトコト煮こまれた濃厚な煮汁の匂いに、どんな美味しい料理が食べられるかと、期待が膨らんでくる。
そしてお腹がぐぅーとなれば、フェリーネは料理について頭がいっぱいになってしまっていた。
◇◇◇
カリオスとミリアに挟まれ、食事を食べ終えた。
レストラン【木の葉亭】では、その日取れた食材で料理を作るそうでみんなで同じ料理を食べる。
旅の終えたフェリーネにはもはや普通の事になっていて、そして料理まで温かくて美味しいのなら、言う事はない。
――毎日でも食べたい……。
その時、レストランの中を見回すと、飾られた観葉植物の向こうに、先ほど荷物を運んでいたくれた人々の顔も見える。
「フェリーネ、食事を終えたなら話があるのだが、ちょっといいか?」
「あっ、はい。食べて終えていますのでどうぞ?」
「では、場所を変えよう。ミリア、しばらくお姉ちゃんを借りるぞ」
その言葉に、彼女が答える前に、食べていたオリビアも、我も続くべき!というように突然立ち上がる。
「私も参ります!」
みんなの視線は彼女に集中し、そして目の前の料理へ戻ったようだ。
「お前は、ミリアを頼む」
カリオスはそう言うと、今度はフォークにペローンと大きな肉の薄切り肉を刺したままこちらを見ていたミリアに、ふたたび視線をむける。
「お姉ちゃんを借りていいか?」
ミリアの金色の瞳は、カリオスとフェリーネの間を何度も往復する。そんな彼女に向かって、フェリーネはゆっくりとうなづいてみせた。
「いいよ。ちゃんと……帰って来てね」
「わかっているわ」
「あぁ、ここの宿屋の受付前や、部屋で待っていたらお姉ちゃんは、ケーキを持って帰って来てくれるぞ」
その後、彼はフェリーネに「いいよな?」っと聞いていたが、「わぁ……、ケーキー!?」というミリアの歓喜の声に消されていた。
どうやら、マルティーの話は本当の様で、カリオスのデザートをすぐに渡そうとする癖について、彼女は注意しなくちゃと決意する。
そんな事を知ってか知らずか、少しだけ……ばつの悪そうなカリオスが「行くぞ」と言うので、連れ立ってふたりは店を出る。
そして、彼の歩いた先は、食事時だからだろか?
今は誰も居ない教会だった。
続く




