22:何を望み、こんな事をしでかしたのか? 1/2
山賊が居る様な深い森の中。
馬車は道路と隠し通路のに何台も置かれている。
略奪した馬車を、隠して置く場所として広い広場が作られているようで小賢しい。
シオンの、旅の一団の横をオリビアに先導され貴族の馬車へと案内されいくフェリーネ。そして黒塗りの馬車を開ければ、領主二人が向かい合わせて座って居る。
「どうぞ、中へ」
オリビアに手を差し出され、馬車へと入る。
「どうぞこちらへ」
ダンスの誘いをする様に立ち上がり、手を差し出す。
シオン様は、そんな姿がお似合いになる……。そう、見惚れたわけではなく、事実としてフェリーネは思った。
「シオン様、それでは顔を見合わせ話す事ができませんよ」
「うーん、そうだね……」
彼はディナーのメニューを選ぶように、少々瞳を動かす。
シオンがそう言っている間に、正解を理解し、オリビアとフェリーネはそれぞれ席へとついた。その時、カリオスが何やら様子を確認するようにフェリーネの事を見たが、シオンが進行を始めたようで、二人の視線は彼へと注がれる。
だが、ここまで狭い室内で、男性の隣りに座った事にないフェリーネは――。
――わぁーぁー。
彼の服の感触について、気にしない、気にしない。
そう思いながらも、彼の着用している生地の素材である事を、感覚だけがやけに敏感にカリオスの被服の生地だと知らせて来る。
感覚が敏感に、故障している様な感覚を味わった。
「いい機会です。一度、ここにいるものだけで話をしましょうか? 貴女方が何を望み、こんな事をしでかしたのか、私たちに教えてくださいませんか?」
「貴公は何も望んでいないよな、口ぶりだな」
「望んでいますよ。正直言えば失礼に当たる事でも、問われれば話しましょう。今日だけは、しかし気持ちとは表層に現れているものだけではありません。そこは理解していただくようお願いします」
カリオスが率直過ぎる言葉の太刀を降ろせば、シオンはするりと逃げる。
そんな印象の言葉から、この話合いは始まった。
「では、シオン卿のから語る事を頼む。こちらの事情は多分、貴公に筒抜けでこの状態を見れば納得したはずだ」
太刀を受けるシオン卿からは、彼の請求に仕方がないですね。とカリオスに対して感じているの印象を受ける。
カリオスは、内と外で答えや口調が変わる事は少ない。そうフェリーネが思う通りの対応を、シオンは返してくるので、そこは改めてカリオスに信頼がおける事になる。
「私が求めるのはハークエルの領地の安定を求めます。そして領民の健やかな暮らしも。私の敵は貴方がたと同じと言っていいでしょう。イクリオン家が聖女セイラとセルジオス殿下の結婚を期に、この国を牛耳る事のない様に希望しています」
シオンは苦痛の表情を浮かべ、目を閉じていた。
そして再び、目を開けた時、彼は少し楽し気に笑っていた。
「聖女の家系の子息子女が生まれば、犯罪者の子どもでない限り厳重に王室からも教会からも守られる事になる。うちが悪くして滅ぼされる事態になっても、血は守られる。そう思ってはいるのです。この世界は怖い事ばかり、そういう事も考えてしまうのですよ」
二人を見た。正義を重んじるだろうオリビアも同意の様だ。
「では、私からも質問すが、何故、フェリーネがこの辺境のこの地にいるのですか? 私は貴女方の口から、是非聞きたいですね」
「それは……」
フェリーネが口を開こうとする。ミリアを助けたいと思っていた。けれど実の所彼女が考えていたのはそこまで、フェリーネは望んだ事ではないが、彼女は外の世界をよく知らない。普通に暮らす事は、難しい事になるだろう。
『聖女の力があれば、生きられる』
そう思っていたのは、彼女の自分を騙す行為だった。カリオスのそう狙った通り、聖女の力を使えば発見されるまでの時間が、早くなるだけ。
カリオスと、共に居ても発見さるのが目的だ。
――それでも、カリオス様ならばなんとかしてくれる。けれど、……険しい道を行く事になるのだろう。
その陰鬱な未来予想の中で、『外の世界が見てみたい』そんな青く澄んだ青空の中に、虹が、空いっぱい広がる様な思いつきは、とても魅惑的なものだった。
ただ、綺麗で温かい風景、その中にミリアと二人だけの自分の家があったらな……。
そんな夢を見てしまったなら、もうあそこには居られなかった。
「私は……ミリアの事もありましたし、外に出たくもありました。チャンスだと思いました。それから……いろいろあります」
フェリーネはサラテートの断罪を、領地の命運をかけた彼らの前で、自らの理由を告げるのはためらわれた。逃げる為の牙も折られた自分を知る事になったが、やはり怖いのだ。
「俺は彼女の紅茶は飲みたくない。飲めばしばらく頭痛や吐き気に悩まされる。だが、楽しいお話として家のもの話が出てくれば、どうしても飲まざるおえなくなる」
日頃出ない、カリオスの弱気な言葉に目を見張る。
熱がでたミリアの手を握ったように、今は弱々しいカリオスの手をフェリーネから握っていた。
「王であった父もそして叔父も、近い親戚筋であるイクリオン家を、司法の手に委ねるの拒み、医者まで毒について口裏合せをするというのなら、聖女を盾に、王室も、教会をも引きずりだしてでも、地面に平伏させてやる。そう考えただけだ」
温かな、大きな手を通して、彼の苛立ちが伝わってくる。
「そして今の領地を讓られた際に、俺はイクリオン家に関わるフェリーネの現実を、苦心し集めただろう辺境伯爵のダリム卿から、孫の救出を条件に共有された」
「私ではなくか……」
シオンはそう、受けとめられないように、呟いた。
「貴公のは、あの姉妹を殺したいほど憎む理由はない。そう思われたのだろう。貴族として、社交界という池の中を見事泳ぎ切る魚は、決して領民のためにリスクを負わないだろうし……」
侯爵の前で王にもなれただろうカリオスは、王の様にシオンへそう告げた。
その目は冷たく、シオンの動作一つ、一つを見ている。
シオンの中の裏切り者を探している様に。
「せっかく友好関係です。怖い顔をしていたら台無しになってしまいますよ。この国にとっても聖女財産、聖女を虐げる事はあってはならない。フェリーネのためなら力などいくらでも貸しましょう……」
シオンは、カリオスをあやすような声色を出す。
落ちついた色をうかべる紫の瞳、カリオスがどう答えを返すのか、楽しむ様子も見てとれる。
「では、王室にて、フェリーネの事について、話せる場をもうけて欲しい」
「王は、犯罪者とはお会いならない」
「私はセイラを誘拐などしていません!」
フェリーネは胸に手を当て宣言する。
しかし、シオンの視線を感じ、しばし視線を彼から外す。
「ですが、王が犯罪者と会わない事もわかります。残念ですが、聖女も全ての方と会うわけでもありませんから……。聖女が会うのは教会が認めた清廉潔白な方とだけ、きっと今の私では無理でしょう……」
「だが、俺たちが侯爵に期待するのは、それを覆す言葉だ。王に近い存在の貴公なら言葉を尽くせる事がある筈。誰も不可侵の王族にメスを入れろとは言ってない。イクリオン家の血をひく者たちの現状を知らせてくれ。貴公は犯罪者ではないからそれが出来るはずだ」
そう言う二人の言葉に、侯爵は静かに耳を傾けていた。
「残念ながら王が私の話を聞くか、聞かないかは王のお気持ち次第です。王とて家族の不祥事には、顔を背けたいはずだ」
そう言った彼は、カリオスを深い紫の瞳で見据えていた。
彼の全てを、はきだせと言わんばかりに。
彼らの視線から外れた、フェリーネはこぶしを強く握る。
「私を……、シオン様が捉えて、王様の前で突き出す事はできないでしょうか? その場で誰か治療をして私が聖女だと知っていただければ、少しは話を聞いていただけないでしょうか?」
二人の視線を釘付けにし、フェリーネがそう語る。
しかし、最後はその視線を遠慮がちに外してしまった。
「それなら……」
「駄目だ!」
二人の意見は、真逆に割れてしまった。
カリオスはその逞しい腕を彼女の前に出し、シオンから覆い隠す様にさえしている。
続く




