21:騎士オリビアが仲間になった!
次の朝目が覚めると、忙しい身だろうシオン侯爵と騎士オリビアは、フェリーネ共に、最北の町へともに行く事を決めていた。
「彼らも一緒に……」
その話を最初マルティーに聞いた時、フェリーネは戸惑いを隠せなかった。
「領地の境の森は、どうしても防犯面でゆるくなりがちで、山賊がふたたび出る可能性を指摘されてば、彼らについて来てもらう方が二人をお守りできると考えました」
「とてもありがたいお話です……」
フェリーネは手を胸に、シオンからの提案に感動さえしているようだ。
「お礼をいいに行ってきます!」
「はい、気を付けて」
「はーい」
フェリーネは、珍しく威勢よく彼らのもとへと向かう。
しかし、見送るマルティーは、少々心配げな顔で彼女を見送っているのに気付く事はなかった。
彼女の向かった先は、シオンの乗る貴族用の黒塗りの馬車。
そこで、カリオス、シオンとオリビアは地図を広げ、何か話していた。
「おはようございます」
チュニックを着て、三人の前に彼女は顔をだす。
「フェリーネ聞いて欲しい。私たちもカリオス卿の幌馬車で旅をする事になったのですよ」
「まぁ……えっ? あの幌馬車にですか?」
「そうなんです。今回の聖女連れ去り事件の真相を聞くために、同じ馬車で行く方がいいですからね。それに君の体調も心配だよ。私たちでは治せませんからね」
そう、暗いすみれ色の瞳に、フェリーネの表情をおさめ彼は言う。
「それは……心から感謝申し上げます。けれど、御乗りなれるスペースがありませんよ」
そう心配げな顔をしているフェリーネ、そうすれば彼は目を細め、愛おしそうに彼女を見る。
「では、やはり、我々の馬車に乗っていただこう」
「いえ、そういうわけには……」
そこにいる者は誰も、おや? と、言いたげな顔で彼女をみる。
彼女は良くも、悪くも従順で、聖女の業務に関わらなければ、断る事がないからだ。
「馬車の……馬車の操縦を覚えたいので……」
うつむく彼女、短く切られた灰紫の髪の下の頬は、ほんのりさくら色に染まっている。
「おおぉ、それは何と勇ましい。なあ、オリビア」
「えぇ、まだでしたら良かったら、私が乗馬もお教えできますよ」
「本当ですか!?」
フェリーネは祈る様に手を前で組み合わせ、赤い瞳を輝かせ、オリビアに一歩近づく。
知らない世界を知るは夢だった。
世界は、景色を見るだけはないと、この旅で知る事ができ、今度は馬に乗る事まで……。胸の奥が、フワフワと温かくなってくる。
「駄目だ。俺が教えよう。俺は保護者の役目をになっている」
「若い保護者ですね。カリオス卿は二年前はまだ、成人前だったと聞く」
「だが、俺がこの地へ呼んだなら、俺が責任を持つのが筋のはずだ」
生真面目な二人は、それ故にぶつかってしまう。
しかし、フェリーネは感動した気持ちのまま、ふたりにお礼をする。
「おふたりともありがとうございます。町へ移れば、やる事もござます。治療の準備などいろいろが、けれど……、もし空いた時間がある時には、是非に」
カリオスとオリビアの申し出に、フェリーネは思わず顔がにんまりするのを隠せない。人が居なかったら「やった」そう小さい声で言っていただろう。
三人の様子を見ていたシオンは「では、やはり当初の予定通りに、そちらの馬車に乗せていただきましょう。オリビア、頼む」
そう言った途端にオリビアは「わかりました。では、少しだけ席を外させていただきますね」そう穏やかに言ったとおもったら、他の馬車で待つ人々に向かい号令をだす。
「幌馬車から、荷物を運び出すぞ!」
そう白い騎士姿のオリビアの声と共に、わらわらと人が現れ、荷物が運ばれていく。カリオスと、フェリーネは硝子の様な瞳でしばらく見ていた。
◇◇
あっという間、四半刻もしない間に、荷物は運び出され、幌馬車の床の上には色鮮やかな絨毯が敷き詰められるまでになっていた。
そこにシックな色合いのクッションまで。
「わぁー」
クッションが置かれてすぐに、ミリアがクッションを手に取りパフゥパフゥと表面を押し込み、そのマシュマロの様な柔らかさを楽むようになった。
「そんなに、手荒く扱ってはいけませんよ」
そう注意しているフェリーネも、おそるるおそると手に持ち、クッションを抱きしめた。
「お気になさらないで。シオン様はそんな小さな事で、お怒りような方ではございませんよ」
騎士オリビアが、フェリーネの隣りに寄り添い座り、優しく声をかけていた。
「ありがとございます。オリビア様」
「どうぞ、オリビアとお呼びください」
「……はい、オリビア。私の事もどうかフェリーネと」
微笑むオリビアに、フェリーネはふふと笑った。
「でも、本当にいいのですか? このまま護衛してくださる事について、ただでさえ北の地は、王都からも遥かに遠いのに、北の果ての町までとは……」
クッションを持つフェリーネの肩に、オリビアは手をやる。
「心配ありません。私は当初からフェリーネ様をお守りする目的で、この旅へ同行してますから」
「私を、ですか?」
「はい。ローリエで、ダリム卿にフェリーネ様との婚約を許されたら、私は王都に残る予定でした」
「こんやく?」
目を見開くフェリーネ、理解できない言葉に、彼女は無口になった。
「ご安心ください。今回はダリム様に力をお借りして、セリファス家に対話の席へついて貰う。それだけのつもりだったのですが……。こんな事になるのなら、日を早めるべきでした……」
オリビアは、フェリーネをそのまま連れて帰れば良かった。そう思っているかの様な口ぶりに、フェリーネはもう、ほぉ……、へぇ……というしかない気持ちになってきている。
「いえ、そんな、えっ……」
もうー、フェリーネは迷える子羊だった。
手を握り、びっくりして、驚いて、とにかく大変。
「ですから、私が北の辺境に巣くう魔物や、屈強な男性からも必ずお守りいたします」
そう彼女は騎士の誓いをかけるようにフェリーネ言う。
これで、フェリーネが教会を出た事によって巻き込んでしまった人が増えてしまった。
フェリーネの行動は、遠く王都の南領を構えた、ハークエルの領主、シオン侯爵とその配下の騎士オリビアまで巻き込もうとしていたのだった。
続く




