20:シオン卿との出会い 2/2
領主殿同士で、ハラハラとする展開はあったが、それでも我らは同じ鍋を囲む関係を維持していた。
夜の冷えや、明かりの為にも火は焚かれる。
鉄のバケツの中で、炭が炎に絡めとられ、バチバチと音をたて、赤々と夜の暗闇を照らし燃えている。
その周りを囲む旅人たちは、温かな食事をとっている。
スープが入れられた簡易的な食器では、小さく切られた新鮮な野菜が、熱によって踊っている。
そのスープと柔らかなパンなどが出され、街の外と考えると、余りあるほどな贅沢な食事だといえるだろう。
人材も荷馬車のスペース、金もうなるほどあるのだろう。羨ましい限りだ……。
カリオスは黙々とそれを食べ、だが、目の前の貴族は違ったようだ。
「温かな食事はいいですね。乾いた心が潤います。そう思いませんか? カリオス卿」
森の奥深く、互いに山賊を倒した仲である。
楽しく語るのはこれ一興。
「ところで、俺と何処であったのだ? 失礼だが、魔物の討伐ではあった覚えがないのだが」
「直接、顔を拝見したわけではありが、貴方はお父様によく似てらっしゃる」
「なるほど……」
「では、小さなお嬢さん方も加わった事ですし、改めて、自己紹介をさせていただきましましょうか」
そう言った彼は首都、ロスト・ミューの南方に領土を持つシオン ハークエル侯爵、そして騎士の名オリビアと名を語った。
シオンは侯爵は、豊か土地に領土を持ち、発言権も強く持つ。
そりゃ森の中でも、屋敷と同様の食事を食べれるはずだった。
小さな幸運な続くようで、イクリオン家とも、サラテート自身とも親しい相手とは今の頃みてとれない。
「僕らは首都での買い出しを終えて、ライストファーの地に帰る所なのですが、シオン侯爵はローリエからの帰りなのですか?」
今の状態なら、薬にも毒にもならない、世間話が一番だつた。こちらも痛い所を探られず済む。
「ここだけの話ですが、ローリエの家の親戚筋である方との、結婚の口添えを頼みに……」
「「…………」」
こちら側は、皆いきなり無口となる。ローリエの家系図の線を辿ったが、思い当たる人物は今のところ一人しか浮かばない。
こちらの焦りに気づかないのか、シオン侯爵は口角を上げて、こちらの様子を伺っている。
カリオスが英雄譚の主人公なら、シオンならその物語を紡ぎだし、リュートの調べに乗せて語り継ぐ吟遊詩人のようで、俄然シオンの方が扱いづらい存在に思えた。
「北に、侯爵様を射止めた、美しい方がいらっしゃるとは、お顔を拝見したいものですね」
「そうだな」
相槌を求める様に、マルティーがカリオスをみれば、絶対興味無いだろう彼が同意をする。
「顔はなかなか難しいと思いますよ。私とて彼女の顔は見たことがありません。そして問題が起こりました。彼女が妹君をさらい逃げたとか……」
「それは大変ですね……」
そう口に出していた。その件についてはこちらも身に覚えがない事で、そこはわかり合えるだろう。そもそも事件に対する立ち位置が違うが。
そしてもうここまで、この話はもう切り上げるべきと、マルティーの頭の中で警戒音が鳴り響く。
そして今すぐ疲れの為、眠くなったというべきだった。
「いいえ。彼女をきっと、妹のセイラ様を誘拐することはありませんから……」
「きっと、そうでしょう。聖女様が早く見つかって、彼女の姉君の疑いが晴れる事を祈っております」
――って、カリオス殿、シオン殿を睨むのやめて貰っていいですか?
「ありがとう。さすがに今回の事件には、私も不安を抱えていたからね。そう言って貰えるとありがたいよ」
そうシオン侯爵は、儚く言ったのだった。
彼はいい人そうで、胸が痛むが、今、彼女を表舞台に出すわけにはいきかない。
領主殿はどう思っているかわからないが、我らの土地には聖女の力が必要だった。
その時、思いがけない声がした。
「あの……カリオスと、少しだけ話をしてもいいでしょうか?」
そこにはフェリーネが立っていた。
箱の中で深く眠ったからなのか、髪に寝癖がついてしまっている。
そんな彼女を見て、シオン侯爵は立ち上がる。
「元気になったのだね。フェリーネ」
「……ハークエル様、お久しぶりです」
「ああ、年賀の時以来ですね」
そう話す二人を残りの三人は、少々苦い顔をして見つめている。
彼の部下である彼女は、表に出さないよう努力しているようだが。
しかしこちらの信用度は、またもや低くなり、警戒度は上がって行く……。
「シオン様、見るに絶えません。聖女様に鎌掛けなどと……」
そうオリビアは主を制する。
そしてカリオスは、フェリーネをその背に隠した。
――カリオス殿は、やはりフェリーネ様の事が好きなのか?
帰る地で、話に聞く聖女来ると、今も期待しているだろ仲間の事は置いておいて……。
ライストファーの領土においては、歓迎されるべき恋だろう。まぁ、おくてな方だから時間はかかりそうだが。
「そうしなければ、カリオス卿に事実は隠されたままだった。聖女様のために事実を明らかにすることを優先と考えただけだよ。恥ずべき行為ではないと私は考える」
そう騎士を言い含めていく。
身も心も、吟遊詩人ようで、得意な分野であるのだろう。
それとともにシオン卿はカリオスの背後に隠れた聖女に、熱い視線を送っている。
彼は、カリオスほど単純でない様で、マルティーにはその真意は掴む事ができなかった。
「あの……こちらのシオン、ハークエル様はとても信心深い方で、私たちの住んでいた教会が住める状態だったのはハークエル様の援助のお陰なのですよ。ですから……、彼は大丈夫です。きっと私たちの味方になってくださるはずです」
――なんて、無垢なのでしょう……。扱い易くあるでしょう。
「カリオス様、ここはフェリーネ様の事情を話し、ご助力いただくのはいかがでしょうか?」
――当然、御領主殿は僕の事を睨みつけますが、状況を判断されたようで……。
「ああ……、そうだな」
そう、諦めた心地で言うのだった。
カリストが、彼らを仲間に引き入れようとした理由は大きく二つあるのだと思う。
一つ目が、フェリーネ様がカリオスと一緒に居る事がばれた以上、仲間にした方が計画の成功度は俄然上がる事。
二つ目が、自由結婚が聖女に認められているのだから。
カリオスの進める計画が進まず、さりとて、『カリオスは好みじゃないし、辺境の地のむさ苦しい男たちも恋愛対象に見られない……です』そう、聖女が判断した時に、聖女受けしない自分たちの容姿を嘆くだけでは、進歩が無さ過ぎる。
それなら、領主殿と別タイプの地位と名誉と金を持っている男、シオン ハークエルを作戦に駆り出して、計画を進め、カリオスを彼らの結婚式に赴かせ祝辞読ませる程度の苦渋を味合わせても、領地と、カリオス自身にとってはプラスになるはず。
カリオス殿の花嫁は、その結婚会場で、おせっかいな伯爵あたりが紹介してくれるだろう。我々、領民はそのバックアップを惜しまず行えば、すべて丸く収まるはず。たぶん!
そうやり手のキューピットの様に、マルティーは計算した。
だが、カリオスは聖女様には甘いので、彼女が言うのだからと、OKした可能性さえある。そう……人の心はわからいのである。
続く




