18:森の中での遭遇 2/2
マルティーに手を取られ、強制的に手綱を指先に通される。
「曲がりたい方向の綱を引いてください」
「はい!」
「やむを得ず止める際は綱を引いて」
「はい!」
「後は、女神カシオペア様に祈って、あははは」
「あっ、はい……あの、ミリアは寝かせたままでいいですか?」
話している間に、彼もコートを脱ぎ捨て、矢筒を背負い、弓に弦を掛けていた。
「寝かせておいてください。怖い思いは、しないこしたことはありません」
そう言い弓を構え、蹄を響かせてやって来た、騎乗していた人物を弓で射った様だ。
ドザッ! っと重い物のが転がる音が、蹄の音に交じり、聞こえた。
「えっ!?」
試練は続く様で、目の前の道に丸太が――。
横たわり行く道を塞いでいる。
それに対応するのに、一呼吸遅れてしまった。
それでも、慌てて手綱を引く。
跨ぐ事もできるかもしれない。けれど、この状態で馬に怪我をさせるわけにはいかない。
その時、後ろから手が延びて来て、一緒に手綱を引いてくれた。
「カリオス!?」
「後方から来る人数が少ないと思えば、そう言う事か……」
前方、左右の道の脇、森の木々の後ろから、ごろつきの様な男たちが目をギラギラさせて出てくる。
一瞬で、背筋に氷を落とされた様な寒気が襲い、フェリーネは、ガクガクと震える自分の体に戸惑っていた。
その中の人物に、狙いを定めようとしたマルティーの腕を、カリオスがフェリーネの腕と共に引く。
矢が手から外れ、男たちの手前で刺さる事もなく地に落ちはしたが――。
彼らは、それを確認出来ずにいた。
彼らが見つめていた物は、先ほどまでにマルティーがいた場所にある矢じりだった。
分厚い帆に刺さったそれは、確実に狙い安いだろう胴体を狙って居たようだ。
「ほら行くぞ」
そう言った時、マルティーは新しい矢をつがえて、木に向かって放っていた。
バザバサと、木々が揺れる音がした。
そう思い、キャビネット入り口を跨いでいた。
そしてフェリーネはゆっくり座りこむ。
その体を、カリオスは両側から支え、座らせると、彼は私たちが眠っている箱を開いた。
「ミリア……」
這いずる様に進む彼女は、揺りかごを覗き込む様にその中を見た。
「猫科の獣人は、衝撃を逃がす様に体ができている」
そうフェリーネを落ち着かせる様に言いながら、キャビネットの入り口へと箱の蓋を立て掛ける。
「俺は後ろのをやる。前方は頼んだ」
「わかりした。御武運を」
空気穴と思っていた場所から、マルティーは次々弓を構え、射っているようだ。
「カリオス! 怪我をしたら、私の所へ。絶対、貴方を治します!」
そう胸に手を当て、祈る様に彼女は言う。
「痛いのか……」
「……度合いによります……」
「ははは……仕方ない。その時は頼む」
彼はそう言い残し、キャビネットの後ろへ歩き飛び降りて行った。
彼の無事を祈りながらも、見つめていると心休まる声が聞こえた。
「お姉ちゃんどうしたの? なんかうるさい」
「ミリア!? 痛いとこない?」
彼女は体を起こしたミリアを抱き締め、黒いもやはないか確かめる。
「眠い……」
ミリアは体が包まれ安心したのか、目をこすりうとうとと、ふたたびし始める。今度はフェリーネがミリアの体を支える事になったが、今は緊急事態、眠らせるわけにはいかない。
「ミリア、寝てはダメよ!」
「そうですよ、ミリア。むかつく話ですが、山賊の数が圧倒的に多いです。下手すると、僕がこの場を食い止めて、カリオス様と逃げて貰う事になりかねません……」
「そんなのダメよ!?」
「ありなんですよ。この場合は」
そう言いながら、矢をつがえていく。
「いや、待って、ヤバい騎士が出てきた」
「ヤバい!?……」
フェリーネのその一言に、ミリアは目を覚ましたのか。
「ヤバい? ヤバい! アハハ」
「今のは間違い。間違いです!」
「どうやら、こちらは大丈夫のようです。どこかの貴族と、山賊の胸ぐらを持って引きずり歩く、女性の騎士が現れました」
「…………はい……?」
フェリーネは力なくそう言ったと思うと、飛び上がるように後ろへ振り返った。誰も上がって来る者が居ないが、音がしなさすぎる。
「ミリア、しばらくここに座っていて」
そう言うが早いか、荷物の間、踏める所を進み進んでいく。
マルティーも後ろをついて来るが、彼女を止めることはない。彼も、最悪の結果を予想しているのかもしれない。
彼女は注意深く、帆から顔を覗かせると、幌馬車に手を掛けているカリオスの頭が見えた。
「カリオス?」
彼は顔をあげエメラルドの瞳と目があった。
そして腹部に矢じりが切られた矢が……。
「大丈夫だったか? フェリーネ。こんな血なまぐさい所へつれて来てすまない」
彼女の手足はふたたび震えていたが、帆を掴みゆっくりと、ステップを降りていく。
その間に、マルティーが飛び降り、「人の心配してる場合ですか……」そう言うと、その場に寝るように彼に指示して行く。
降りた時には、カリオスの腹部が見えるように、服は開けられ、水で清められていた。
彼女は彼のもとまで行くと、大きく深呼吸をする。
「大丈夫、私が助けます」
「ああ、幸い今、痛みはないんだ早いとこ頼む」
「はい、任せて下さい。では、布を噛んで」
「じゃ、聖女さん行くよ!」
そう、マルティーが矢を両手で持ち声をかける。
その声を聞いた時、彼女神経が研ぎ澄まされているのを感じていた。体内のオド、魔力の高まりを感じ、大気の流れのマナ、魔力を感じ取れた。
「お願いします」
治癒の始まり。
彼の体、腹部は一点が黒く覆われていた。
耳に、ドクドクと自身の心臓の音。
そしてやはり呼吸を整えるのも、自身の呼吸が薄くなっている気がした。
患部にかざされた手の中の魔法が、光として輝いて見えるよう。それがカリオスの体を循環していく。集中力で、見て取れた。
「カリオス様の体が光っている?」
マルティーの声を聞いた。
その声にビクッ、とフェリーネはなり、心臓が跳ねた。
――感覚的にそう感じただけでなく、視覚で感じとれるものだったの?
彼女は力を止めて、彼を見る。血の気が失せていた彼の顔色はうっすらピンクで、健康体と変わらぬ様に見える。
――おかしい……。
「フェリーネ……」
彼の唇がそう動く。彼女の顔色はとても悪く、唇も紫色に近い色をしている。そんな彼女の頬にカリオスの手が触れる。
――おかしい彼の手は暖かで、太陽のよう。
「カリオス……緊張し過ぎてしまって……、しばらく横になってていいですか?」
「ああ……」
そう言うと、そのまま地面に横になろうとした彼女の背を、抱えたのはカリオスだった。そして彼は難なく立ち上がった。
「待ってください、待ってください! それでは馬車のステップが危ないですから! 僕が先に上がって聖女様を受けとりますから」
そう言って、彼はスイスイとステップを駆け上がっていく。
「さぁー!」
そう彼が手を出した時、カリオスは小麦粉の袋を、肩に背負う様にフェリーネを肩に引っかけていた。
フェリーネとしても、マルティーにお尻を向けているのは恥ずかしかったが、「病気のなのです。気にしないでください」
そう……恥じらう男性に、両手で足りないほど言っている。
昔、馬車の窓から覗いた風景の中に、熊に背負われる鮭の看板を見たことがあるが、今、きっと近い格好をしているのだろう。
『ほぇ……』という、感心に近い気持ちを抱く。
「鮭! 私もやってほしい!」
ミリアの声が聞こえる。
その時、新たな声が加わった。
「何をやっているのだ……? 貴公らは?」
そう女性の声がする。
――お尻、向けててすみません。
カリオスに感謝の心を伝える前に、彼女はそう思い、夢の中へと落ちていく。
続く




