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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
1:王都ロスト・ミューにて

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18/57

18:森の中での遭遇 2/2

 マルティーに手を取られ、強制的に手綱を指先に通される。


「曲がりたい方向の綱を引いてください」

「はい!」

「やむを得ず止める際は綱を引いて」

「はい!」

「後は、女神カシオペア様に祈って、あははは」

「あっ、はい……あの、ミリアは寝かせたままでいいですか?」


 話している間に、彼もコートを脱ぎ捨て、矢筒を背負い、弓に弦を掛けていた。


「寝かせておいてください。怖い思いは、しないこしたことはありません」


 そう言い弓を構え、蹄を響かせてやって来た、騎乗していた人物を弓で射った様だ。


 ドザッ! っと重い物のが転がる音が、蹄の音に交じり、聞こえた。


「えっ!?」

 試練は続く様で、目の前の道に丸太が――。



 横たわり行く道を塞いでいる。

 それに対応するのに、一呼吸遅れてしまった。



 それでも、慌てて手綱を引く。

 跨ぐ事もできるかもしれない。けれど、この状態で馬に怪我をさせるわけにはいかない。



 その時、後ろから手が延びて来て、一緒に手綱を引いてくれた。


「カリオス!?」

「後方から来る人数が少ないと思えば、そう言う事か……」


 前方、左右の道の脇、森の木々の後ろから、ごろつきの様な男たちが目をギラギラさせて出てくる。


 一瞬で、背筋に氷を落とされた様な寒気が襲い、フェリーネは、ガクガクと震える自分の体に戸惑っていた。


 その中の人物に、狙いを定めようとしたマルティーの腕を、カリオスがフェリーネの腕と共に引く。


 矢が手から外れ、男たちの手前で刺さる事もなく地に落ちはしたが――。


 彼らは、それを確認出来ずにいた。


 彼らが見つめていた物は、先ほどまでにマルティーがいた場所にある矢じりだった。


 分厚い帆に刺さったそれは、確実に狙い安いだろう胴体を狙って居たようだ。


「ほら行くぞ」

 そう言った時、マルティーは新しい矢をつがえて、木に向かって放っていた。


 バザバサと、木々が揺れる音がした。

 そう思い、キャビネット入り口を跨いでいた。


 そしてフェリーネはゆっくり座りこむ。


 その体を、カリオスは両側から支え、座らせると、彼は私たちが眠っている箱を開いた。


「ミリア……」

 這いずる様に進む彼女は、揺りかごを覗き込む様にその中を見た。


「猫科の獣人は、衝撃を逃がす様に体ができている」


 そうフェリーネを落ち着かせる様に言いながら、キャビネットの入り口へと箱の蓋を立て掛ける。


「俺は後ろのをやる。前方は頼んだ」

「わかりした。御武運を」

 空気穴と思っていた場所から、マルティーは次々弓を構え、射っているようだ。


「カリオス! 怪我をしたら、私の所へ。絶対、貴方を治します!」

 そう胸に手を当て、祈る様に彼女は言う。


「痛いのか……」 

「……度合いによります……」

「ははは……仕方ない。その時は頼む」

 彼はそう言い残し、キャビネットの後ろへ歩き飛び降りて行った。


 彼の無事を祈りながらも、見つめていると心休まる声が聞こえた。

「お姉ちゃんどうしたの? なんかうるさい」

「ミリア!? 痛いとこない?」


 彼女は体を起こしたミリアを抱き締め、黒いもやはないか確かめる。


「眠い……」

 ミリアは体が包まれ安心したのか、目をこすりうとうとと、ふたたびし始める。今度はフェリーネがミリアの体を支える事になったが、今は緊急事態、眠らせるわけにはいかない。


「ミリア、寝てはダメよ!」

「そうですよ、ミリア。むかつく話ですが、山賊の数が圧倒的に多いです。下手すると、僕がこの場を食い止めて、カリオス様と逃げて貰う事になりかねません……」


「そんなのダメよ!?」

「ありなんですよ。この場合は」

 そう言いながら、矢をつがえていく。


「いや、待って、ヤバい騎士が出てきた」

「ヤバい!?……」

 フェリーネのその一言に、ミリアは目を覚ましたのか。


「ヤバい? ヤバい! アハハ」

「今のは間違い。間違いです!」

「どうやら、こちらは大丈夫のようです。どこかの貴族と、山賊の胸ぐらを持って引きずり歩く、女性の騎士が現れました」

「…………はい……?」


 フェリーネは力なくそう言ったと思うと、飛び上がるように後ろへ振り返った。誰も上がって来る者が居ないが、音がしなさすぎる。


「ミリア、しばらくここに座っていて」


 そう言うが早いか、荷物の間、踏める所を進み進んでいく。

 マルティーも後ろをついて来るが、彼女を止めることはない。彼も、最悪の結果を予想しているのかもしれない。


 彼女は注意深く、帆から顔を覗かせると、幌馬車に手を掛けているカリオスの頭が見えた。


「カリオス?」

 彼は顔をあげエメラルドの瞳と目があった。

 そして腹部に矢じりが切られた矢が……。


「大丈夫だったか? フェリーネ。こんな血なまぐさい所へつれて来てすまない」

 彼女の手足はふたたび震えていたが、帆を掴みゆっくりと、ステップを降りていく。


 その間に、マルティーが飛び降り、「人の心配してる場合ですか……」そう言うと、その場に寝るように彼に指示して行く。


 降りた時には、カリオスの腹部が見えるように、服は開けられ、水で清められていた。

 彼女は彼のもとまで行くと、大きく深呼吸をする。


「大丈夫、私が助けます」

「ああ、幸い今、痛みはないんだ早いとこ頼む」

「はい、任せて下さい。では、布を噛んで」


「じゃ、聖女さん行くよ!」

 そう、マルティーが矢を両手で持ち声をかける。


 その声を聞いた時、彼女神経が研ぎ澄まされているのを感じていた。体内のオド、魔力の高まりを感じ、大気の流れのマナ、魔力を感じ取れた。


「お願いします」

 治癒の始まり。

 彼の体、腹部は一点が黒く覆われていた。


 耳に、ドクドクと自身の心臓の音。

 そしてやはり呼吸を整えるのも、自身の呼吸が薄くなっている気がした。


 患部にかざされた手の中の魔法が、光として輝いて見えるよう。それがカリオスの体を循環していく。集中力で、見て取れた。


「カリオス様の体が光っている?」 


 マルティーの声を聞いた。

 その声にビクッ、とフェリーネはなり、心臓が跳ねた。


 ――感覚的にそう感じただけでなく、視覚で感じとれるものだったの?


 彼女は力を止めて、彼を見る。血の気が失せていた彼の顔色はうっすらピンクで、健康体と変わらぬ様に見える。


 ――おかしい……。


「フェリーネ……」

 彼の唇がそう動く。彼女の顔色はとても悪く、唇も紫色に近い色をしている。そんな彼女の頬にカリオスの手が触れる。


 ――おかしい彼の手は暖かで、太陽のよう。


「カリオス……緊張し過ぎてしまって……、しばらく横になってていいですか?」

「ああ……」

 そう言うと、そのまま地面に横になろうとした彼女の背を、抱えたのはカリオスだった。そして彼は難なく立ち上がった。


「待ってください、待ってください! それでは馬車のステップが危ないですから! 僕が先に上がって聖女様を受けとりますから」


 そう言って、彼はスイスイとステップを駆け上がっていく。


「さぁー!」

 そう彼が手を出した時、カリオスは小麦粉の袋を、肩に背負う様にフェリーネを肩に引っかけていた。


 フェリーネとしても、マルティーにお尻を向けているのは恥ずかしかったが、「病気のなのです。気にしないでください」


 そう……恥じらう男性に、両手で足りないほど言っている。

 昔、馬車の窓から覗いた風景の中に、熊に背負われる鮭の看板を見たことがあるが、今、きっと近い格好をしているのだろう。


『ほぇ……』という、感心に近い気持ちを抱く。


「鮭! 私もやってほしい!」

 ミリアの声が聞こえる。


 その時、新たな声が加わった。

「何をやっているのだ……? 貴公らは?」

 そう女性の声がする。


 ――お尻、向けててすみません。


 カリオスに感謝の心を伝える前に、彼女はそう思い、夢の中へと落ちていく。


 続く



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