16:カリオスへの治療
助けられた動物たちの、胸に秘めた思い。
彼女については、そこまで繊細な胸に秘めた思いはないだろうが、それでも多くの童話で登場するような、恩返しの気持ちを持ち合わせていた。
彼に助けて貰った恩を、いろいろな童話に登場する動物の様に返したい!
そう強く思ったフェリーネは、彼を自分が近くにいる内は、健康にすると誓いを立てていた。
その日、夜の間、馬車を走らせていたカリオスは、馬を交換する手続きを済ますと、キャビネットを訪れた。
「カリオス、このままここでお眠りなりますか?」
フェリーネは背筋を伸ばし、聖女の仕事に行う姿勢で、カリオスの前に立つ。
「ああ、そうだが、必要な話しなら聞こう」
そしてカリオスも、そんなビシッとしたフェリーネの前で同じように姿勢を正し、彼女が座れるように場所をあけると、自身も胡座をかくき床へとすわる。
そんなチェスでも始めるかの様な雰囲気の二人を、ミリアは寝るための箱から顔だけのぞかせ見ていた。
「おやすみになるならいい機会です。体の治療をいたしましょう」
「……ここでか?」
彼はそう口に出す。
「あっ……」
彼の視線を追っていた彼女は、慌てて自由に置かれていた本や無造作に置かれた鞄を片付ける。そして彼れらは寝ている時にひいている敷物をだしひいてみた。
「こほん……、どうぞ」
カリオスは見ていただろうに、仕切り直して、寝るべき場所を指し示した。
横になったカリオスからは、毒の兆候はだいぶ消えていた。
成人男子なら多分、何もせず癒えそうなものだが、今は旅の途中、念には念を入れて治療しきってしまいたい。
「殆どの毒は抜けきってますよ。普通なら終わりにするところですが、旅の道中なので、全部直し切ってしまいましょうか」
「……あぁ」
今日も『ああ』彼はあまり話さず、フェリーネも多くは語らない。そんな二人は嚙み合わせがあっている様で、治療について専念できていた。
「ほんとうに良くなられて、良かったです。以前は、平然としている様子が、驚くレベルでした。訓練をなさっているので、治りが早いのでしょうね」
彼はうつ伏せになりながら、彼女の話を静かに聞いている。
「お前は……、力を使って不調など起こさないのか? 治療では患者にかける敷物だけ。他に必要なものなどあるだろうか?」
「さすがにはさみや、痛みを伴う際は長く出来ませんので包帯を巻ける方などいらしたら早く進むのですが、後はそれに伴う用品とかですかね?」
「それについては大丈夫だ。辺境の町を守る組織が今は自警団程度だがいて、大体の者が包帯をまけるようになっている。良さげな人間をこちらへ人をこちらへと出そう。それにしても患いを見ることができるとは……」
「ですが、普段は見られるようになっておりません。教会より暗示が入れられております。ですので、患いが見える事は内緒にしておいてください。重度の方には話してしまう事があるのですが、やはり何でも明かしてしまうのは良くない事なので」
「わかった。内緒にしょう。特殊な技術はそれだけ無い者には、素晴らしく見えるものだしな」
「はい。お願いします。その代わりと言ってはなんなのですが、カリオスの場合は毒の原因がわからないのですから、治療を必要としない場合でも、週に一度は症状を見る様に私に伝えてください。治療の順番のルールは、私たち個人の事情には柔軟に対応できるようになってますから、恩人の優先順位は常に高いのですから」
そう少年の風貌の、彼女はにっこりと笑った。
――カリオスは聖女を、素晴らしい癒しの女神と思っていたかしら? 実際の私たちは多くのルールに守られる生きている……。そうしなければすぐに、魔力がなくなってしまう。
しばらく彼は体を半分持ちあげ、彼女の顔を見つめていたが、すぐにふたたび横になる。
「定期的に、会いに行けばいいのだな?」
「はい。毒の原因がわかるまではお願いします」
「フェリーネ、お前が恩に報いたいのはわかった。だが、無理をするな。とりあえず、今日の治療を頼む」
「はい! 完治に向かうように致しますので、痛いようでしたらおっしゃってくださいね」
「わかった」
では、ミリア、お願いします。
「頑張っていきましょう!」
「はぁーい」
返事をしたミリアは、カリオスの背中に毛布をかける。
念のために清潔なハンカチを噛んで貰い、ミリアには彼が痛みを隠してないかの確認や、汗などを拭き取って貰う助手をして貰っていたが……。
「痛くないですよ」と、ミリアはカリオス様を挟んで、反対に居て言ってくてくれますが……。
――ごめんなさい。結構痛いかもしれません。最初はソフトですが、終わり間際に帳尻を合わせる様に痛くしてしまいます。
「では、参ります。痛くなったら……調整致します」
「あぁ、やってくれ」
それからは様子を見ながら治療を受け、最終的には、彼は結構な脂汗を流し、今回で治療を終了できた。
彼が真面目に治療を受けてくれる、セオラ中央教会とやっている事は同じなのだが、今までのセイラの影に隠れた助手の立場だった時とは違い、真の意味で聖女としての責任とやりがいを感じるようになってきていた。
「以上で、本日の治療は終了です。大変な治療でしたが、カリオスが頑張ってくださったので、治療がいちだんと進みました」
「頑張ったね!」
カリオスに「ありがとう、助かった」と言われて、素直に、「また不調を感じたら、すぐにでも来てくださいね。治療を頑張ります!」と、言うと彼の表情が固まるが……。
治療の為です。仕方ありません。
◇
人通りの多い市場、買い出しの人の波に乗りながら、浮かれたような人々と、その空気に背を後押しされるようにフェリーネは彼に思い切って、聞きたい話しを聞いて見た。
「あのカリオス、ライストファーのでの私の仕事は治療のみいいのですか? それとも、他に仕事などありますか?」
フェリーネは言いそうにしながらも聞いて見る……。
「ああ、今までと同じく治療をやって貰う」
「もちろん。場所だけ用意していただけら、いつでも」
「仕事場は俺の家で行う事になる。多くの人の治療を頼む事になるだろう。北部にただ一人の聖女、お前の存在は人々の口に乗り多くの人が知る事になるだろう」
「セリファス家の知るところになりますよ? わざわざ広めるのですか? 」
「ああ、今回の仕事についてはは多方面を巻き込みたい。こちらから教会に伝える事もできるが、以前の仕事のやり方を、教会が知らないという事はないだろう」
「それは……」
フェリーネはサラや他の修道女が自身のもとからの移動させらたことを思い出す。
セイラの言動に驚く事のなかった教会騎士、中央本部の面積の年々広がっていった意味など思い当たる事は多くあった。
その変化が様々な場所で起こっている。その事から、ある魅力的な淑女の姿が思い浮かんだ。
「ライストファーの領地は幸い最北部にある。聖女の噂がたつのは直ぐでも、ロスト・ミューの街に噂が伝わるまでに、多くの時間がかかるだろう。なら、教会や王室の出した結論に、平民の多くのも感心を寄せる、彼らの言葉と目は、フェリーネ、君の力になる事だろう」
――サラテート様のもとまで……。
「王室の……」
「そうだ。そこで、人に出来ぬ仕事を行うお前と、張り紙に書かれているお前、王室がどちらのお前を真実と見なしても、一度、誰か名のあるものがこの北の地へやって来るはずだ。聖女を呼びつけはしないだろう」
「そこで私は、真実を言えばいいのですね……」
カリオスの話を聞く内に、フェリーネの気持ちがどんどん暗くなる。
サラテートと対立を避けるために、事態をはぐらかそうと思うっていたが、彼の話を聞くとそれは無理の相談だと思えて来る。
「大丈夫だ。できるだけ、お前の保護を名目に、お前をライストファー領地に留めるように努力するし、首都へは俺も同行する」
隣に歩く彼の言葉を聞き、彼の顔を見た。
彼は思いつめた様な顔をしている。彼もサラテート様と戦う気なのだろうか?
けれど、視線に気づいた彼は、少しだけ眉を下げフェリーネに笑いかける。
張りつめた気持ちを無理に、誰かのために笑顔をつくった。そんな顔だった。
「はい。私は私の仕事を致します。それは私の本来の仕事であるはずです。負けません、頑張りますよ!」
彼女は、勇者に同行する聖女を思い浮かべていた。
しかし人間界の悪は不確かで、正義がこちらにあるかもわからない。
けれど、フェリーネはローリエの一族なので、豊かさの均衡を崩す事になっても、ただ、目の前の緑を人が暮らせるように、鍬を入れようと考えるものだ。
「ああ、不遇の大地と言われる、北の地ではその考えはよくあっている。その言葉に甘えるようですまないが、出来たら、村々の結界も頼む」
「お引き受けいたします」
彼女は短い髪を揺らし、自分の手を胸にとめ、『私に任せて欲しい!』と言う気持ちを表した。
「仕事を頼まれて嬉しいのか?」
「私にしかできない仕事ですし、ありがとうと言って貰えるのは嬉しい事です」
「見返りを得る仕事ばかりではないぞ?」
「カリオス様はお礼を言ってくださるでしょう? なら十分です」
それを聞いて、カリオスは彼女の顔を見つめていた。
「マルティーさんもきっと喜んで、おかずの素材を一品増やしてくれるのですよ。けれど、生活していかなければいけないので、お金はいただかなければいけませんよねー」
「お前は、俺が危険なこの地に連れて来たのだから、俺が食わせてやる」
それを聞いて、フェリーネは顔をほころばせ笑顔になった。
「お抱えってやつですね! やったー」
「ああぁ……」
そう彼にしては曖昧に、肯定したのだった。
続く




