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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
1:王都ロスト・ミューにて

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13/14

13:つながれた血の鎖(毒親ですので、注意が必要かもしれません)

 馬車の中の気まずい空気、蹄の音が規則正しくパカパカと聞こえている。

 ドアの小窓をから見える、彩りの失った曇に覆われた街を母はただ眺める。


 その気まずい空気に、知らない振りをしてセイラは瞳をかたく閉じ屋敷へと帰った。


 ◇◇


 屋敷へ帰り着くと、家を取り仕切っている年老いた家令が、すぐにやって来て母に耳打ちする。


「ああ、疲れた……お母様、私も部屋へ下がらせて貰うわ」


 そう中央階段の手すりの手を掛けながら、セイラは母が居る方向へと告げた。

 侍女は、セイラの鞄を持ち寡黙に視線を下に向け、彼女の次の行動にただ耳を傾けた。


 しかし、話を終えたらしい母は何も言わず家令の伝えた言葉について、考えている風だったので「では、ごきげんよう」そう言って階段をのぼった。


 ◇◇


「ああ……、疲れた」


 部屋へ帰れば、聖女の衣装の上着を長椅子のソファに投げすて、その隣りへ座り込む。


 クローゼットへ鞄をしまってた侍女に声かけ「何でもいい、フルーツ系の冷たい飲み物を貰ってきて」そう言いお終わり、ソファに体を横たえた。


 ――来ないで……。


 しかし目を閉じていたので、しばらくすると苛立ちを表す荒れた足取りにセイラはすぐに気がついてしまった。


 ――気付かず眠れたら良かったのに、気付かず程に、本を夢中で読んでたら良かったわ。


 それが火に油を注ぐ事になっても、決して変わりはしないのだから。


 そして……、母は部屋から帰って来て、自分の気持ちをぶちまけた。

『ひどい』『お前って子は』『どうしてわからないの?』『悲しい……』


 ――それで、「可哀そうに、私のアークエル、全ては私たちが何とかするからね」なんて、娘の私が言うと思っているの?!


 末娘である母は、両親や兄弟、親戚たちにそう言われてきたらしい。そう、母自身が懐かしむようにセイラに語った。そしてイクリオンの家でセイラも、そう言われた事がある。


「可哀そうに、お母様……。お母様のそんな気持ち汲み取ってあげらなくてごめんなさい。私はどうするればいいかしら? 教えて貰えると、助かるのだけれど……」


 けれど、先代の知恵が偉大で、愚かなので、セイラもだいたいそのまま言っている。


「セイラ、お前はサラテート様と、本当の母である私と、いったいどっちの味方なの!?」

「落ち着いて、お母様一体、どうしたの?」


 ――うんうん、いつもの事ね。


「あの人は何もわかってないのよ。私とお父様は、フェリーネの母親なんかとの結婚が決まる前から、愛し合っていたのよ。家の事情で結婚出来なかっただけ。可哀そうなのは私なのに……、『図々しい』だなんて酷い! サラテート様にはおわかりならないのよ。私の気持ちが……」


 ハンカチを掴み、目にいっぱいの涙をためて、母は言う。そして目を見開き驚いた様子でセイラは聞いていた。


「可哀そうにお母様……。私もそう思った。けれど、私が下手な事を言って、お母様が何か言われたら? と思ったら……」


 セイラは母親の顔色をうかがいながら、優しく声で全て肯定を心掛ける。


「セイラ、どうすればいいかしら?」


 彼女の母は、まるで考えている様なポーズをとったくまま、セイラの顔を見ずにそう言葉を投げかけた。


 アークエルは全ての自分の思うように進めたいが、どうすべきかは丸投げ、だから、自分の理想に差し障りのないを提案を、セイラはいつも持ちかける。


 だから、幾分楽なのだけど……。


 そうセイラは思っているようで、この関係は改善される事はない。


 しばらくすると『年老いた』可哀そうな母という言葉が使われ、この関係が救いようがなくなる事を、彼女は若さゆえに察する事はできていない。


 そして今日もまた、気持ちは晴れていないだろう母が、納得するだろう耳障りの良い答えについて考える。


「セイラ、フェリーネが今ままでの事、すべて他人に話す、なんて事があったらどうする?」

 母親は、不安を自分の娘にぶつけた。


「大丈夫よ。サラテート様から貰った聖女の宝石があれば、聖女にふさわしい人間は私の方のなのよ。私の方が癒しの力が強ければ、フェリーネは必要なかったってことだもの。それに可哀そうなお母様が苦しさに紛れ、フェリーネに辛く当たる事は無理からぬ事。何か言ってきても逆恨みでしかないわ」


「そうよね。そうだわ……」

 母は何度も、小さな声で呟く。


 ――でも、大人なのだから、別の方法で、なんとかなったでしょう?


「なんて賢いのセイラは、私の自慢の娘だわ」


「ふふふ、そうでしょう? 今日はサラテート様にいっぱい褒められて、プレゼントを貰ちゃった。お母様は慕う方に、私が褒められれば、それはお母様の功績。もっと沢山頑張れるわ」


 微笑を浮かべつつ、彼女は母親を見た。

 けれど、暗い母の瞳を見て、演技が剥げ、恐怖の色さえ浮かべた。


「それだけでは駄目なのよ……。結局、セイラが褒められるだけ、優秀な私の子どもとサラテート様に褒められるだけ。舞台のそでで、そんな光景見せられる私の気持ち考えてみて? 生まれてからサラテート様がいるばかりに、血のつながりで主役になれない私の気持ち。そしてお前だけが、そのサラテート様の隣りに座るの?……」


 表情とは、ちぐはぐな優しい口調に、思考が追い付かない。


「だから、考えたの……。成功すれば、きっと私が褒められるわ。舞台の中で、私たち親子が並ぶの。そうすればフェリーネがなんと言っても怖くない。私たち、サラテート様に守って貰えるわ」


「えっ……」

 驚きと、恐怖の表情のままセイラは母親をみつめると、彼女は彼女の計画を話し始めた。


「セイラ、貴女は今日、姿を消すのよ。それもフェリーネに誘拐されてね。今のままなら、フェリーネは居なくなった聖女の家系の娘とだけ扱われ、ただの行方不明者として扱われる可能性が低いわ」


「なら、そのままでも……」

「駄目よ、駄目。貴女が王妃になった時出て来て、被害妄想でもあの子がベラベラなんでも話し出したら、王妃としての地位が怪しいわ。そうしたらサラテート様でも、貴女の事を見捨てるかもしれないわ……?」


 セイラの心は、怖い寝る前のお話を聞く様に震えた。

 そしてイクリオンの血は、その時を見過ごす事はない。


「聖女まで居なくなれば、王室あげての捜索が始まるわ。そしてフェリーネが見つかればお前が出て行けばいいのよ。そうすれば犯罪者の意見など聞く者は居ないわ」


「そんな!? 危険過ぎるわ! 世間を騙すのよ!?」


「今まで、聖女の振りをしてきたくせして、今さらよ」

 母親は、蔑む視線を向けて来る。


 ――そんな仕組みをつくったのお母様だわ。

 彼女のなれのせいで、その言葉は彼女の口からは出る事ははなかった。


「フェーリネが見つかった場所が、遠ければどうするの? 掴まっていたような擬装は、間に合いっこない。それに見つからなかったら……? フェリーネが死んでしまっていたら、私はでてこれないままなの?」


「それは……」

 アークエルの目が泳ぐ。そこまで考えてなかったかもしれない。

 けれど、すぐその目はセイラに定まる。


「サラテート様に助けていただけばいいのよ。聖女の貴女がこの計画に起したと知れば、あの方は必ずや、お前とセルジオス王子との結婚をした未来に向けて動きだすはずだわ」


 サラテート様の前で、いつも弱々しい母の大胆さに、眩暈がしそうだった。

 言葉だけで済めばと思い、先代の行為に片棒を担がねばならなかったとはいえ、過去の自分が憎くてたまらない。


 ――でも、子どもだったのよ! 


 見えない誰かに向け、心の中で叫ぶ。


「これから、臨機応変にやって行きましょう……。お前が逃げたって事にしたり、誰かがお前を助けた事にしましょう。上手く行けば、サラテート様はきっと私を見直すわ」


「嫌よ!? やりたくない! サラテート様に言うわ……」

 母親から体を遠ざけてセイラは逃げるが、ソファの背が、決してそれを許さない。

 近づいてくる母に、そして泣いてる子どもの声。


 あれは私? それともフェリーネ? それとも……、私が泣かせた……獣人の子ども?


「やっぱり、やっぱり、やっぱり!! お前はサラテートの本当の母だと思っているのね!?」


「違う! そんな事思ってない!」

 母親は、セイラの肩を掴んで、目に前で叫ぶ!


「違わないわ。酷いわ。お前まで……、私を裏切るの?」


 母親は目の前で、見せつけるように泣いている。そんな酷い仕打ちはない。

 目の前が、真っ暗になる思い、少しだけフェリーネが羨ましかった。


 あの人には血の鎖は無く、自由に逃げた。

 許す事はできない、同じ聖女なのに……。


 ――大嫌いよ!


 続く



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