12:イクリオンの血筋
王の住まう城の様な、豪華を誇る佇まい。
シャンデリアは、光が降り注ぐよう。
可愛らさのあるアンティークな柄の生地、そこから輝く色合いで塗られている、木彫りの枠組みのソファ。
そこに腰掛けて、淑女たちが優雅なお茶会の時間を過ごしている。
「逃げたってどういう事なの?」
顎のラインまでの長さの金色の髪は、サラテートの美しい顔の形を強調している。
ティーカップを手に持った彼女は、目の前の母と娘に冷たく問いかけていた。
「修道女たちがあの娘が居ないと騒ぐので、見に行ったのですが、獣人の子どもと一緒に……」
フェリーネの継母、アークエルは怯えるように、目の前の元王妃に言葉を返す。
けれど、その娘のセイラは、野心に燃えるようにサラテートへ自分を売り込むのだった。
「サラテート様、フェリーネが居なくても、私だけでやれますわ」
そう机に手をついて、セイラは立ち上がった。
スカート生地の繊細なレースが、空気を含み広がるが、紅茶のセットたちは静かなままで、彼女のしつけがある程度出来ている事を元王妃に伝えていた。
セイラを見つめる、彼女の氷の様な青い瞳。
ソーサーを持った姿勢のままで、サラテートはまるで値踏みをするよう。
「何をやるのセイラ?」
「私が聖女が行う事、全てを……。その成果で、誰が聖女という事を知らしめますわ」
若いセイラは、元王妃に向かい、手を胸にあて、聖女ある正当性を訴えかけた。
その真実を、まず尊敬するサラテートに認めて貰いたくて。
「止めなさい、セイラ! サラテート様の前で、そんな口をきくなんて」
「大丈夫よ、アークエル。私、セイラの様なお利巧な子と、お話するのは大好きよ。ねぇ、セイラ」
「嬉しい……。憧れのサラテート様に、そんな風に言って貰えるなんて……」
王妃から、元王妃へとなったが、彼女はいつでも社交界の中心にいる。
そしてセイラは今、聖女と呼ばれ、王妃という立場に一番近い場所にいる。
幸い、王位継承第一位のセルジオス王子は健康体で、剣術も長けていると聞く。
きっとサラテート様の様な元王妃という立場にならないだろうが、他の全てにおいて彼女の様でありたいと思っていた。
彼女の元夫に、カリオスという息子が居たが、それでも彼の母親は地位のある立場につけなかった。それが何より、王が王妃を愛した証なのだろう。
――そんなサラテート様に認められたのなら、私は……。
セイラは改めて、サラテートの屋敷の中を見回した。
彼女に好かれれば、未来は約束されたも同然。夢の中に居るようだった。
「それでセイラ、貴女は今回の事、具体的どうすべきだと思うの?」
「恐れながらサラテート様、私はすでに聖女なのですから、今までより多くの人々を癒し、私だけが居ればいい、そう世間に知らしめますわ。
それを聞いた彼女は……『面白みのない』と、言いたげな顔をした。
「全然だめね。 アークエル、貴女この子にちゃんと教えてるの?」
「申し訳ありません。サラテート様……」
母は無条件で元王妃に、頭を下げている。
そこで理由を話す事がないのなら、母は知らないって事だろう。
――そんな母のせいで、知る事ができないじゃない。
しかし、それを言った途端に母は、さえずるのやめない小鳥の様にセイラの周りを飛び回るはず。計算し、答えとして沈黙が残された。
「セイラ……、貴女がなるべきは、王妃よ。聖女はその為の腰掛け、そのためだったら、貴女の姉を配下に置くのも、いい関係を築くのでも良かったわ。そして居ない場合は、フェリーネが多くの民を置いて逃げた。そう多くの者が、貴女に同情するよう、言ってまわるのもいいわね」
「わかってます。そのために私は、娘の為に頑張っております。ですからきっと娘は聖女になってみせますわ」
そう母はいい、娘のセイラもしぶしぶ「はい、なってみせます」と、母に合わせた。母に成果を盗られるようで、納得はできなかった。
母に手を貸される事がなくても、聖女には自身の力のみでもなってみせる。そう決意を既にしていた。皮肉な事に、その決意を強くしたのはフェリーネの存在だった。その事実さえ、恨めしい。
その時、彼女の手に熱さが触れた。
――何、これ!?
セイラのドレスから水が滴っている。
目の前を見ると、空っぽのティーカップをこちらに向けて、持ち手を指に引っ掛けているサラテートが見えた。
「すみません!?」
無条件で謝る母も、紅茶をかぶっていた様だ。冷めてて良かった。お互いに。
ゆっくりと、ソーサーにカップを置き、母娘の方へ身を乗り出し、話しかける。
美しい形の唇に、セイラは少しだけ見惚れ、いつかは……と、自惚れた。
「聖女なんて、なる振りだけにしときなさいな。王族にとって大切なの聖女の血だけよ。自分の将来のためだったり、地位のある子孫に面倒見て貰うために、それが欲しいだけ。貴女もそろそろ建前と本音を理解しなくちゃ」
「そんなことまで、サラテート様に教えて貰えるだなんて。うちのセイラは、誰よりも幸せ者でございます」
そう言った母の顔を見た。母は本当に、喜んでいる様で、笑顔で目の前の女帝を崇めている。
――母の様にはならない。だって、妃になるのだから。
けれど、悔しいけれど、今までの話の中で、サラテートの言っている意味の半分も汲み取れていない。人の言葉に注意深く、見習っていかなければ。
彼女は唇を噛みしめる。
「サラテート様、勉強になりました。ふつつかながら王妃になれるよう頑張りたいと思います」
「では、おさらいなのだけど、フェリーネが居なくなった事についてどうするの?」
「…………」
母娘の言葉が止まる。時計の音がやけに大きく音をたてて動いていた。
どうやらセイラたち親子の信用度が、だいぶ低くなってしまっているようだ。
それを感じ取った二人の口は、余計に重くなっていく。
「はぁ……、癒しの間は開けるの?」
「それは……」
セイラが正解を探し、注意深く返事をしようとしていた。
「フェリーネが居なくなって、私は心労で倒れているというのはどうでしょうか?」
「凄いわぁ……」
母は両手を合わせて、同意している。
目の前で元王妃は目をつぶり、うんうんと頷き聞き入っている。
「そしてフェリーネは情報ギルドでクエストを出して、捕まえます」
今度は母まで、うんうんと頷きだした。けれど目を輝かせ聞く姿は何にも考えてないそれの様に思えて、イラついてくる。
「聖女様は、貴女の姉が行方不明なのに、王室へ届けないの?」
「あっ……そうですわね。ですが、姉が本当に保護されてしまえばどうするんですか?」
セイラは上目遣いで、サラテートを見た。
「どうもしないわ。私、負け犬には興味ないし」
「もし、セオラ中央教会で私たちに受けた仕打ちを、話し出したらどうするんですか?」
「貴女たち、フェリーネに何をしたの? ずうずしいわね……」
彼女自身、王の連れて来た娘に、王の寵愛を取られた過去がある。サラテートは王の寵愛は求めていなかっただろうが、アークエルの話の流れはサラテートの怒りを買うものだろう。
「聖女の仕事を継続するために、仕方ない行為でした……」
そうアークエルは言い訳する。
「当時、セイラは幼かったのよ。何をやったかしらないけれど、考えが浅すぎるわ」
サラテートは、アークエルへの軽蔑心を隠そうとしない。
そんな視線を感じ取り、母はしくしくと泣き出すのだった。
「セイラ、貴女にプレゼントをあげるわ。誕生日にあげるはずだったけれど、今回の事、貴女にも困った事態であるようだから」
そう言うと、そばに控えていた若い男が、綺麗にリボンとレースでデコレーションされた箱を取り出しセイラの手へ届けた。
「ふふふ、セイラ、遊ぶなら賢い若い男よ。若さが衰えても、貴女の助けになるわ。自分の立場を理解してくれる。けれど貴女も、自分の立場を理解しなきゃだめよ」
そう言い彼女は、セイラにウインクする。
底がしれないが、味方になれば誰より頼りになる。彼女が社交界の中心に居るのものうなずける。
セイラは一つずつリボンと、レースを外し机の上へと畳む。
そして蓋を開ければ、光り輝く宝石が入っている。
手を近づければ、多くの魔力が蠢くよう。
「聖女の魔力を増大させる宝石よ。聖女と婚姻関係をもった貴族の中でも、僅かな家系しか伝わっていない呪術効果が秘められいるわ。聖女としての修行をするくらいなら、社交界へもっとおいでなさい。というつもりで作ったのだけど、思いのほか必要なようね。今回だけは心労の中を押して、健気に治療をする演出にすれば?」
「ありがとう……サラテート様、大好き!」
「貴女は、私の子どもの様だもの。当り前よ」
セイラはサラテートへ抱きつく。
そんな過剰な表現も、元王妃は演技と見抜いて、優しい親族を演じている様で底のがしれない怖さを感じつつ、セイラも学んでいく。
ただ……、振り返った時、母が……、恨めしそうのセイラを見ていた。
セイラは表情は一瞬曇るが、サラテートの方へと振り帰ってた時、笑顔と変化させた。
続く




