表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力最底辺の俺が、魔法学園で”戦わない“戦術担当になるまで ― 解析スキルしかない俺が、最前線を支配するまで ―  作者: 天城 ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/34

第10話「役割という名の線引き」

 役割が定まると、世界は驚くほど分かりやすくなる。


 翌日からの訓練で、それを一番強く感じていたのは、たぶん俺自身だった。


 俺は前に出ない。

 指示もしない。

 声を張ることもない。


 やることは三つだけだ。

 状況を観る。

 選択肢を整理する。

 結果を記録する。


 それだけ。


 だが、それだけで、訓練場の空気は変わった。


「次、どうする?」


 そう聞かれることが増えた。

 「どうすればいい?」ではない。

 「どうする?」だ。


 俺は、簡単な図を書いて答える。


「攻めるならここ。ただし被弾率が高い」

「守るなら時間は稼げるが、消耗が増える」

「撤退も選択肢としては成立する」


 判断は、前線が下す。

 セリアだったり、班長だったり、時にはノアだったり。


 失敗もあった。

 成功もあった。


 だが、誰も俺を責めなかった。


 ――それが、一番大きかった。


 昼休み、ノアがパンをかじりながら言う。


「なあ、アーク」


「ん?」


「最近さ、怖くなくなった」


 唐突な言葉だった。


「何が?」


「失敗するのが」


 ノアは苦笑する。


「前は、ミスったら全部自分のせいだと思ってた。でも今は……選んだ結果だって、割り切れる」


 俺は、少しだけ目を伏せた。


 それが、本来の形だ。

 戦場に限らず、どんな組織でも。


 午後、上位クラスとの合同演習が行われた。

 相手は第三組。実力は、明らかに上。


 開始前、セリアがこちらを見る。


「情報、ある?」


 短い問い。

 信頼でも、依存でもない。


「ある」


 俺は、相手の配置図を示した。


「初動は速い。力押しを狙ってくる。長引かせると不利」


「じゃあ?」


「短期決戦か、徹底防御。中途半端は負ける」


 セリアは、迷わなかった。


「短期で行く」


 戦闘は、荒れた。

 被弾も出た。

 だが、想定内だった。


 結果は――引き分け。


 勝ちではない。

 だが、格上相手に、崩れなかった。


 終了後、第三組の班長が、ちらりと俺を見た。

 何か言いたそうにして、結局何も言わなかった。


 その視線が、少しだけ重い。


 放課後、クロード教師に呼び止められた。


「最近のやり方、記録を見た」


 机の上には、俺がまとめた戦闘ログが並んでいる。

 成功例、失敗例、改善点。


「……評価が難しいな」


 教師は、正直に言った。


「数字にできない」

「だが、確実に現場は安定している」


 俺は、黙って聞いていた。


「一つ、忠告しておく」


 クロードは、真剣な目で言った。


「このやり方は、嫌われる」


 分かっている。


「前に立たないのに、影響力がある。責任を引き受けないように見える。そう感じる者は必ず出る」


「……はい」


「それでも続けるか?」


 問いは、重かった。


 俺は、少しだけ考え、答えた。


「必要なら」


 それだけだ。


 教師は、ふっと息を吐いた。


「……厄介な生徒だな、お前は」


 それは、叱責でも賞賛でもない。

 ただの事実。


 訓練場を出ると、夕暮れだった。

 空が赤く染まり、影が長く伸びる。


 セリアが、隣に立った。


「……噂、出てるわよ」


「どんな?」


「“戦えない参謀気取り”とか、“責任回避の頭脳派”とか」


 俺は、少しだけ笑った。


「想定内だ」


 セリアは、しばらく黙ってから言った。


「私は、楽になった」


 それだけ言って、歩き出す。


 その背中を見ながら、俺は思った。


 評価は、まだ先だ。

 制度も、まだ変わらない。


 でも。


 役割という線を引いたことで、ようやく見えてきたものがある。


 戦えない俺が、この学園で生き残るための――

 そして、支えるための、立ち位置。


 名はなくていい。

 前に出なくていい。


 この線を、守り続けられるなら。


 俺は、ここにいる価値がある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ