第24話「消耗という差」
二日目の朝。
訓練場に集まった生徒たちの顔には、はっきりと差が出始めていた。
疲労の色。
集中の濃淡。
そして――判断の余裕。
俺たちの班は、静かだった。
会話がないわけじゃない。必要なことだけを、短く共有している。
「昨日より、魔力の回復が遅い」
ノアが、腕を回しながら言った。
「無理はしてないはずだけどな」
「それが、普通だ」
俺は、記録板を見ながら答える。
「戻る判断をした分、緊張が抜けてる」
「疲労は溜まるが、消耗はしてない」
言葉の違いに、ノアが首をかしげる。
「疲労と、消耗?」
「疲労は回復する」
「消耗は、判断力を削る」
それ以上の説明は、いらなかった。
演習開始。
今日のフィールドは、昨日より魔力干渉が強い。
詠唱が、わずかに乱される。
「……厄介ね」
セリアが、周囲を見渡す。
「どうする?」
問いが、自然に飛ぶ。
彼女は、すぐに答えない。
視線を巡らせ、数秒考える。
「進む。でも、五分で区切る」
「理由は?」
「判断が鈍る前に戻れるから」
いい判断だ。
進軍。
小競り合い。
想定外の魔力反応。
「……来る!」
前線が声を上げる。
セリアが、即座に判断する。
「二分で切る。下がる準備!」
撤退。
全員が、迷いなく動く。
結界外に戻った瞬間、誰かが笑った。
「……早すぎない?」
「そう思うなら、まだ余裕がある」
セリアの返答に、皆が黙る。
その様子を、離れた場所から教師たちが見ていた。
「……判断が早い」
「いや、早すぎる」
「戦果が出ていない」
評価は、割れている。
一方、軍部案の区画では――
開始から、ずっと動き続けている班があった。
押し切る。
殴り合う。
突破する。
確かに、成果は目に見える。
結界の奥まで踏み込んでいる。
だが。
「……一人、動きが鈍い」
クロード教師が、低く言った。
魔力切れ。
判断の遅れ。
カバーが間に合わない。
結果、負傷。
担架が、再び動く。
その光景を、セリアは直視した。
目を逸らさなかった。
「……あれが、消耗」
ぽつりと、言う。
「そうだ」
俺は、短く答える。
午後。
俺たちの班は、三度目の進入を行った。
深くは入らない。
だが、毎回、状況を更新する。
魔力の流れ。
敵役の動き。
地形の変化。
記録は、確実に積み上がっていく。
終了後、エリス・マクナリーが近づいてきた。
「数字が出ないわね」
「承知しています」
「でも、崩れてもいない」
彼女は、少しだけ目を細めた。
「……不気味ね」
それは、褒め言葉でもあった。
夕方、ノアが言った。
「正直……楽じゃない」
「だろうな」
「でもさ」
少し、言いにくそうに続ける。
「昨日より、頭が動く」
それを聞いて、胸の奥が静かに熱くなった。
この演習で測っているのは、強さじゃない。
勝敗でもない。
――消耗の差。
今日も、俺たちは戻ってきた。
全員が、自分の足で。
それだけで、この設計は、
まだ壊れていないと証明できる。
だが。
遠くの区画で、軍服の男――ヴァルターが、
無言でこちらを見ているのが、視界に入った。
その視線は、評価でも警戒でもない。
――計測だ。
非効率な設計が、
どこで折れるかを。
俺は、視線を返さなかった。
折れるかどうかは、
次の局面で決まる。
そう、分かっていたからだ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




