第21話「拒否という選択」
条件付き協力。
その言葉が、頭の中で何度も反響していた。
学園に戻ってからも、空気は重い。
俺を見る視線は、以前よりはっきりとした警戒を帯びている。
「……断ったんだって?」
昼休み、ノアが小声で聞いてきた。
「噂が早いな」
「軍部相手に拒否とか、正気じゃないって言われてる」
正気かどうかは、自分でも分からない。
ただ、引けなかっただけだ。
「後悔してる?」
ノアの問いに、少しだけ考える。
「してない」
即答ではなかった。
だが、嘘でもない。
午後の訓練は、ぎこちなかった。
教師の視線が増え、進行が妙に慎重になる。
誰もが、失敗を避けようとしている。
それが、余計に危うい。
訓練後、セリアが呼び止めた。
「……話、聞いた」
声は低く、感情を抑えている。
「どうして、拒否したの?」
責める調子ではない。
だが、納得していない。
「協力すれば、もっと安全だったはずよ」
「学園にとっても、あなたにとっても」
正論だ。
だからこそ、言葉を選ぶ。
「短期的には、そうだ」
「なら――」
「でも、判断を外注する形になる」
セリアは、黙る。
「考えなくていい設計は、楽だ」
「でも、必ず誰かが壊れる」
彼女の視線が、揺れた。
「それは……」
「俺が責任を引き受ければ済む話じゃない」
「その場にいる全員が、選ぶことを放棄する」
しばらくの沈黙。
「……あなたは、怖くないの?」
その問いは、意外だった。
「軍部を敵に回すことが」
俺は、正直に答える。
「怖い」
初めて、はっきり言った。
「でも、それ以上に」
「考えないまま進む方が、怖い」
セリアは、目を伏せた。
「私は……」
言いかけて、止まる。
彼女自身も、答えを持っていない。
それが、分かった。
その日の夕方、学園内に通達が出た。
――特別演習の実施。
参加は任意。
だが、参加しない場合、評価は保証されない。
露骨だ。
だが、想定内でもある。
参加者リストには、半数以上の名前があった。
上位クラスが多い。
ノアは、迷っていた。
「行くべきだよな……?」
「自分で決めろ」
俺は、それだけ言った。
夜、寮の部屋で一人になる。
机の上には、白紙の設計図。
拒否した。
だが、逃げたわけじゃない。
次は、示さなければならない。
口ではなく、構造で。
もし、ここで成果を出せなければ。
俺は、排除される。
それでも。
判断を他人に返すという設計は、
この世界では、まだ理解されていない。
なら――
証明するしかない。
白紙に、一本の線を引く。
**「失敗しても、戻れる構造」**
それが、俺の選択だ。
拒否は、終わりじゃない。
始まりだ。
戦えない俺が、ここまで来た理由を、
次は“形”で見せる番だった。
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