第18話「特別合同審査」
特別合同審査。
その文字列を見た瞬間、胸の奥がわずかに沈んだ。
訓練でも、演習でもない。審査――つまり、合否が出る。
寮を出ると、いつもより早い時間にも関わらず、学園はざわついていた。
噂はもう回っている。
「例の……戦術担当ってやつが呼ばれたらしい」
「個人審査なのか?」
「戦えないのに?」
囁きは、好奇心と警戒が混じった音をしていた。
指定された場所は、小演習場。
普段は使われない、円形の簡易フィールドだ。
中央に立つのは、三人の教師。
クロード教師。
見知らぬ老年の教師。
そして――軍服姿の男。
空気が、一段重くなる。
「……軍部?」
ノアが、思わず呟く。
軍服の男は、無表情でこちらを見ていた。
視線は俺に固定されている。
「始める」
老教師が短く告げる。
「本審査は、戦闘力を問わない」
「問うのは、“判断”だ」
その言葉に、周囲がざわめく。
俺は、内心で一度だけ息を整えた。
――想定内。
「編成は、こちらで指定する」
名前が呼ばれる。
セリア、ノア、そして見知らぬ上位クラスの二名。
意図は明白だ。
統率の難しい構成。
「制限時間は十分」
「勝敗条件は、生存と目的達成」
目的達成?
その内容が、すぐに示される。
「フィールド中央の魔力核を、破壊せずに封印しろ」
破壊せず、封印。
火力押しは不可。
連携と制御が必要だ。
さらに、条件が続く。
「審査中、指示は一切禁止」
「口にできるのは、“問い”と“確認”のみ」
一瞬、視線が集まる。
――完全に、俺向けだ。
セリアが、小さく笑った。
「随分、露骨ね」
「逃げ場はないな」
開始の合図が鳴る。
フィールドに霧が立ち込め、視界が奪われる。
魔力核の位置は、把握できない。
誰かが、焦った声を出す。
「どうする?」
その声が、自然と俺に向く。
俺は、一歩も動かず、言った。
「何を優先する?」
短い問い。
「……核の場所」
「どうやって?」
沈黙。
ノアが、口を開く。
「魔力の揺れを探す。封印なら、制御系が必要だ」
「誰が?」
問いを重ねる。
「……私がやる」
セリアだ。
迷いは、もう少ない。
上位クラスの一人が、苛立ちを隠さず言う。
「で? 俺たちは何をすればいい」
視線が刺さる。
俺は、即答しない。
代わりに、問いを返す。
「封印が失敗したら、どうなる?」
「暴走する」
「それを止められるのは?」
上位生が、舌打ちする。
「……俺だ」
自然に、役割が決まる。
動き始める班。
霧の中、魔力の流れを探る。
何度か、小さな失敗。
だが、立て直す。
核を発見。
封印開始。
途中、魔力が暴れる。
「……来る!」
声が上がる。
俺は、問いを投げる。
「今、切れる選択は?」
「……封印を一段落とす!」
セリアの判断。
被害は出る。
だが、制御は保たれた。
時間は、ぎりぎり。
最後の工程。
霧が晴れ、魔力核が静まる。
終了の合図。
静寂。
教師たちが、短く言葉を交わす。
やがて、軍服の男が一歩前に出た。
「……面白い」
それが、最初の評価だった。
「命令はなかった」
「だが、判断はあった」
視線が、俺に向く。
「君は、何をした?」
正面からの問い。
俺は、はっきり答えた。
「判断しやすくしました」
一瞬、場が静まる。
老教師が、低く笑った。
「数字にできんが……確かに、成立している」
クロード教師が、最後に告げる。
「本審査は、保留とする」
合格でも、不合格でもない。
だが――
「引き続き、観察対象とする」
それは、排除ではなかった。
演習場を出る時、セリアが小さく言った。
「……嫌な審査だった」
「同感だ」
「でも」
彼女は、少しだけ口元を緩める。
「私は、判断できた」
それで、十分だった。
戦えない俺の存在は、
まだ認められてはいない。
だが、否定もされていない。
――次は、もっと厳しくなる。
そう確信しながら、俺は夕暮れの学園を後にした。
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