第17話「観察対象」
その日から、訓練の「質」が変わった。
内容自体は、これまでと大きく変わらない。
合同演習、魔力制御、連携確認。
だが、空気が違う。
――見られている。
それも、生徒同士の視線とは質が違う。
評価と選別の目だ。
訓練場の外縁に、見慣れない教師が立つようになった。
名簿を手に、こちらを見て、何かを書き込んでいる。
「……完全に目つけられてるな」
ノアが、乾いた声で言う。
「そうだな」
否定しようがない。
俺たちの班は、意図的に上位クラスと組まされることが増えた。
戦力差のある構成。
普通なら、連携以前に押し潰される。
――試験だ。
開始前。
俺は、いつもより言葉を削った。
「想定される最悪は三つ」
「どれを引いても、撤退線はここ」
それ以上は言わない。
セリアが、短く頷く。
他の班員も、無言で配置につく。
戦闘開始。
上位クラスの動きは、洗練されている。
力押し。
迷いがない。
そして――こちらを“無視していない”。
「……アーク、見られてるわ」
セリアが、小声で言う。
「分かってる」
俺は、視線を動かす。
相手の狙いは明確だ。
――俺を潰す。
直接じゃない。
判断の余地を奪う。
選択肢を減らす。
それでも、班は止まらない。
撤退。
再配置。
時間を稼ぐ。
勝てない。
だが、崩れない。
終了の合図。
教師の一人が、短く告げる。
「……合格だ」
その一言に、ざわめきが走った。
勝敗ではない。
生存と制御。
それを評価した、という意味だ。
休憩時間。
クロード教師が近づいてきた。
「正式な場での聴取が入る」
淡々とした声。
「“戦術担当”という役割についてだ」
「拒否権は?」
「ない」
想定内だ。
「ただし」
教師は、わずかに声を落とす。
「敵対ではない。まだな」
“まだ”。
その言葉が、胸に残る。
その夜、寮の部屋で一人、考える。
俺は、強くなっていない。
魔力も、技も、何一つ。
変わったのは、
周囲の“扱い”だけだ。
役に立つ存在から、
危険かもしれない存在へ。
異物。
観察対象。
だが、それは――
排除の前段階であると同時に、
**価値を測る段階**でもある。
ベッドに横になり、天井を見つめる。
ここで折れれば、
ただの厄介者で終わる。
踏み込めば、
学園の「当たり前」に傷をつける。
どちらも、楽じゃない。
――でも。
考えることをやめた時点で、
俺はここにいる意味を失う。
翌日の予定表には、
見慣れない文字が追加されていた。
「特別合同審査」
思わず、息を吐く。
どうやら、次は――
訓練では済まないらしい。
戦えない俺の居場所が、
本当に試される場が、近づいていた。
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