第16話「異物としての存在」
変化は、公式な言葉よりも先に、空気として現れた。
訓練場に入った瞬間、視線の質が違う。
露骨ではない。だが、確実に数が増えている。
上位クラス。
別の訓練区画の生徒。
そして――教師。
俺は、いつも通り端に立った。
だが今日は、その「いつも通り」が、やけに浮いている。
「……最近さ」
ノアが、小声で言った。
「俺たちの班、変だって言われてる」
「変?」
「強いとか弱いじゃなくて……“やり方が違う”って」
それは、褒め言葉じゃない。
この学園では特に。
魔法学園は、均質を好む。
測れて、比較できて、再現できるものを。
俺たちのやり方は、どれにも当てはまらない。
開始前の打ち合わせ。
俺は、いつもより簡潔に状況をまとめた。
「今日は、想定外が入る可能性が高い」
それだけ言う。
セリアが、眉を上げる。
「根拠は?」
「視線」
短い答えだった。
彼女は、すぐ理解した。
「……観察されてるわね」
訓練が始まる。
内容は通常の合同演習。
だが、途中で“変更”が入った。
「フィールド条件を一部変更する!」
教師の声が響く。
地形の一部が、魔法で崩される。
視界が遮られ、魔力の流れが乱れる。
――試されている。
俺は、即座に気づいた。
これは訓練じゃない。
**検証**だ。
俺たちのやり方が、想定外に対応できるか。
俺がいなくても、判断できるか。
あるいは――
俺が、介入するかどうか。
視線が、集まる。
教師。
上位生。
誰もが、こちらを見ている。
俺は、一歩も動かない。
代わりに、短く言った。
「選択肢は二つ」
それだけで、十分だった。
セリアが、即座に反応する。
「撤退か、押し切るか」
「どっちも、被害は出る」
事実を添える。
判断は、数秒で下された。
「撤退。陣を組み直す」
班が動く。
迷いはない。
結果、被害は最小。
勝利でも、敗北でもない。
**制御された終了**だった。
終了の笛が鳴る。
しばらく、誰も声を出さなかった。
やがて、教師の一人が、低い声で言った。
「……妙だな」
その言葉が、すべてを表していた。
後処理の最中、クロード教師が近づいてくる。
「上から、問い合わせが来ている」
「俺について、ですか」
肯定も否定もせず、教師は続ける。
「“戦術担当”という役割について」
「学園の想定に、存在しない」
分かっていた。
だから、驚きはない。
「しばらく、観察が続く」
それは、警告でもあり、予告でもあった。
訓練場を出る時、セリアが言った。
「目、つけられたわね」
「だろうな」
「後悔してる?」
少しだけ考えた。
「してない」
即答だった。
このやり方は、楽じゃない。
嫌われる。
理解されにくい。
でも。
今日、誰も止まらなかった。
誰も、判断を放棄しなかった。
それだけで、十分だ。
学園の門を出る夕暮れ。
風が、少し冷たい。
俺は理解していた。
ここから先は、
「役に立つ存在」では済まされない。
**異物**として、扱われる。
だが。
排除されるか、受け入れられるかは――
これからの選択次第だ。
戦えない俺が、この学園で生き残るための戦いは、
今、静かに次の段階へ入ろうとしていた。
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