第13話「責められる理由」
翌朝、訓練場に向かう足取りは、いつもより重かった。
視線を感じる。
直接向けられるものもあれば、ひそひそと背中に刺さるものもある。
「昨日の件……」
「やっぱり、わざとだったらしい」
噂は早い。
そして、都合よく歪む。
俺は何も言わず、定位置に立った。
だが今日は、訓練が始まる前に呼び止められた。
「アーク・レイン」
クロード教師の声だ。
周囲が一斉にこちらを見る。
「別室に来い」
短い言葉だったが、意味は十分だった。
――正式な場だ。
小さな会議室。
教師が二人。クロードと、別クラス担当の中年教師。
机を挟んで、俺は一人で立つ。
「昨日の訓練について確認する」
中年教師が口を開いた。
「意図的に情報を制限したと聞いたが、事実か?」
「事実です」
否定はしない。
「なぜだ」
「依存が進んでいたからです」
空気が、ぴんと張る。
「依存?」
「判断を放棄する兆候が見えました。俺がいない状況で、全員が止まる可能性があった」
クロードが、静かに口を挟む。
「それは、お前の推測だな?」
「はい」
「結果として、被害が出た」
「軽傷です」
「怪我は怪我だ」
正論だ。
「お前は、自分が何をしたか分かっているか?」
中年教師の声が低くなる。
「戦えない立場で、戦場の流れを左右した」
「しかも、説明なしにだ」
胸が、少しだけ痛んだ。
だが、視線は逸らさない。
「説明不足だった点は、認めます」
「それだけか?」
「……責められる理由は、それだけじゃない」
二人の教師が、黙る。
「俺は、便利だった」
「だから、嫌われ始めた」
言葉にした瞬間、少しだけ楽になった。
「前に出ない。命令もしない。責任も見えにくい」
「そのくせ、結果に影響する」
中年教師が、舌打ちをする。
「自覚があるなら、なおさら厄介だな」
クロードは、しばらく沈黙した後、言った。
「……お前は、評価されたいのか?」
一瞬、考えた。
「いいえ」
即答だった。
「評価される形では、役に立てないから」
沈黙。
「だが」
クロードが続ける。
「評価されないまま影響を持つのは、組織にとって不安定だ」
「分かっています」
「なら、どうする?」
俺は、少しだけ息を吸った。
「説明します。これからは、必ず」
「選択肢と同時に、理由も」
「そして、俺が黙る理由も」
教師たちは、視線を交わした。
「……条件付きで続行を認める」
クロードが言った。
「一つでも、意図的な隠蔽があれば即停止」
「いいな」
「はい」
会議は、それで終わった。
訓練場に戻ると、空気が張りつめていた。
全員が、俺を見る。
セリアが、一歩前に出た。
「昨日のこと、説明して」
逃げ場はない。
だから、逃げなかった。
俺は、地面に簡単な図を描く。
「ここで、全員が俺を見る癖がついていた」
「それを壊す必要があった」
「壊す、って……」
「考えない集団は、必ず止まる」
誰かが、苛立ちを隠さず言う。
「じゃあ、俺たちは実験台かよ」
否定できない。
だから、正面から言った。
「そう見えても仕方ない」
空気が、凍る。
「でも」
続ける。
「俺は、失敗する前提で設計している」
「失敗した時に、次がある形を」
セリアが、強く息を吸った。
「……信じていいの?」
問いは、まっすぐだった。
俺は、少しだけ迷い、答えた。
「信じなくていい」
「判断してくれ」
その言葉に、誰もすぐ返事をしなかった。
だが、誰も立ち去らなかった。
それで、十分だった。
俺は知っている。
責められる理由は、正しい。
それでも、この場所で考えることをやめたくない。
嫌われてもいい。
誤解されてもいい。
――止まるよりは、ずっとマシだ。
その覚悟だけが、静かに、胸の奥で固まっていた。
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