95話 任務開始
感想、ブクマ、ポイント、レビュー等々お待ちしてます!
バッファルはもちろん、独りで任務にあたろうとしていたが、偲はやる気に満ち溢れていた。
果たして、その気持ちに揺らぎはないのか……。
「偲よ。これはなんてことない迷子の捜索だ。君がついて行ったところで、役不足に終わるだろう」
「任務の内容は、正直どうでもいいです。私は、バッファルさんについていきたいんです。街一番の強者と共に動けば、学べることも多くありましょうから」
強さへの渇望か。動機としては十分だ。
バッファルは豪快に笑う。
「いいだろう。早速、今から調査に向かおうか」
「えっ?」
偲は豆鉄砲を食らったような顔をする。
明後日にでも始めると思っていたのだろうか。
「おばあさまが鼻水をすすって待っている。一刻も早く見つけ出すぞ。分かったら、とっとと準備する!」
偲は普段見せない慌てぶりで、その部屋から去った。
鎧を着込むバッファルに、隆之介が話しかける。
「なんか真面目っすね」
「そうかい?いや、そうかもしれないな」
バッファルは目を伏せた。
「ただの迷子捜索とはいえ、人様の想いを背負っていることには変わりない。訓練なら半端な失敗も成功への鍵だが、任務ではそうもいかない。だから、俺はその責任をしっかり偲にぶつける」
脳筋みたいなツラして、意外と考えてるんだなぁ。
その時、忍び装束に着替えた偲が、階段を降りてきた。
バッファルははぁはぁと息を切らす偲を待たず、では行こうと言い残して部屋をあとにした。
街中へとつながる城壁から出ると、偲がやっと追いついてくる。
「すみません、お待たせしました——」
「遅かったな。ちゃんとオレから離れないようにしろよ?」
天へと伸びる城壁の下、バッファルは見張りの兵に一つ、指示を飛ばした。
兵は城壁内へと入り、数分後また別の兵を連れて戻ってくる。
「まさかバッファル様にお供できるとは。マジで光栄です!」
新たな兵士は目をキラキラさせて、これまたやる気に満ちている。
「ワープ担当の兵士だ。これから向かう場所は、徒歩ではちょっと遠いのでな」
兵士は両手を二人に差し出す。
バッファルと偲は、その手を握る。
次の瞬間、辺りに暴風が立ち込めた。
兵士の全身から魔力が溢れ出す。
まるでロケットのように、兵士らは一気に上空へと飛び立った。
曲線を描きつつ、兵士らは高い高い城壁をあっという間に飛び越す。
街を離れるにつれて見えてくるのは、海に面した肥沃な農地。
点のような農民らが、せっせと働いている。
数分間の飛行を終え、バッファルたちは農地のド真ん中にある、大木の麓に着地した。
バッファルは兵士に、ここでしばらく待っているよう指示を出し、農地の周辺を歩き出す。
「マンダリーンの農地は面積を確保するため、城壁の外にあるのが特徴。だけど、街の子供たちにとっては、距離があっても、周りの迷惑を考えずに遊べる貴重な場所だ。子供たちは家出に近い感覚で、何日かかけて遊びに来るわけだ。これだけ広いと、行方不明になることもままあるんだけどな」
「結構危ないですね」
「心配しなくていい。だいたい2日か3日で見つかる。農民が保護してくれているパターンが多いな。オレもガキの頃、ここへ遊びに来て、帰ろうと思ったらお腹が空いてぶっ倒れてね。近くの優しい人に拾ってもらったんだ。結局、お袋には死ぬほど怒られたけどな」
バッファルらは、農道に腰掛け休んでいる農民に聞き込みをする。
農民はいつもの事といった表情で、迷子を保護している神族の場所をいくつか、紹介してくれた。
バッファルらは兵士とともにひとっ飛びし、その神族のもとに向かう。
司令部長の突然の来訪に、農作業中だった神族は腰を抜かしたが、快く自宅へと案内してくれた。
自宅の一室に案内してもらうと、迷子たちがおやつを食べている最中だった。
バッファルは案の定という顔をする。
「よし、みんなちゅうもーく」
迷子たちは邪険な顔で、まったくもって反応しない。
しかし、一人の子どもがこそこそと耳打ちで話し出す。
「あの……もしかしてバッファルさんですか?」
「そうだが、なにか?」
途端、子どもたちは手のひらを返して、バッファルの周りに群がる。
「やっぱ本物だ!ぼく、マンダリーン軍に入りたいんです。握手お願いします!」
「リアルで見るとめっちゃかっこいい。サイン書いてください!」
あまりの変わりよう。
保護していた神族はバッファルに微笑みかける。
「私が聞いてもなにも答えてくれなかったのに……。マンダリーン軍司令部長は伊達じゃないですね」
バッファルは子どもたちのお願いに丁寧に応対し、問いを投げる。
「君たちのなかに、おばあちゃんと二人で暮らしている子はいるかい?」
子どもたちは互いの顔を見合わせ、首を横に振る。
「ありがとうね。早く親さんのところに戻るんだよ」
バッファルと偲は部屋から出る。
子どもたちは元気いっぱいの敬礼を返した。
神族にお礼を言ったあと、バッファルたちは家の外に出た。
待っていた兵士が結果を尋ねる。
「ここは外れみたいだ。引き続き訪問をしよう」
その後、バッファルたちはいくつもの神族の自宅を訪れた。
しかし、どれも空振りばっかで、依頼主の孫と思わしき子どもは見つからなかった。
日が暮れ始めた頃には、最初の大木の近くに戻っていた。
バッファルは腕組をし、怪訝な顔でうーんと唸る。
「これは少しまずいかもしれないな。農民に捕まらないとは、よっぽどやんちゃなのだろう」
「別の場所を探しますか?」
偲が言った。
「いいや、オレに心当たりがある」
バッファルは四つん這いになって、大木の周囲を叩き出す。
兵士は一瞬戸惑うも、なにかを思い出したかのように、地面を叩き始める。
「ほれ、偲。君もやらないか」
「——理由をお願いします」
「君は頭で考えちゃうところがあるな!まぁいい」
バッファルは地を指さして言う。
「マンダリーンの農地には、魔族の襲撃に備えるためのシェルターが用意されている。ほとんどは個人の家にあるが、こういう目印の下にも隠れている。もしかしたらお孫さんが落っこちちゃって出られなくなったのかもしれない」
バッファルは拳を握りしめ、叩き続ける。
「重厚な鉄の扉で守られてるから、子ども一人じゃ入れないんだがな」
すべてを理解した偲は、バッファルたちと地面を叩き始めた。
十数分も経過すると、拳が痛くなってくる。
休憩してもいいのではないかと感じたその時、偲の頭にあの日の情景が流れ込んでくる。
幼子を守りきれなかった悔しさ。無力さに絶望したあの日。
偲は痛みなど無視して探し続ける。
バッファルは拳を赤くしてもなお、休まない偲を見て、成長を感じた。
偲が握った手を振り下ろした。ガンッという硬い音がなる。バッファルたち二人は偲に駆け寄る。
「でかしたぞ!表面の土を落とすんだ!」
しばらく土を払っていると、取っ手のついた分厚い鉄の扉が現れた。
「後はオレに任せてくれ」
バッファルは扉の端についた取っ手を掴み、太ももを隆起させる。
錆びついていた扉が音を立てて開いた。
偲はシェルターの内部にひょいと入る。しかし、こじんまりとした土の部屋に、非常用水や非常用食の入った木箱が置かれているだけだった。
「ここもだめですね」
「諦めるわけにはいかん。夜になるまで、捜索を続けるぞ」
偲たちは各所のシェルターを回り続けた。
シェルターの数が2ケタを超えた頃、上空から次の場所に向かっていた偲は、開きっぱなしのシェルターがあることに気づいた。
兵士は急激に方向転換し、偲が見つけた地点のほぼ真横に降り立った。
偲はバッファルの横を通り抜け、シェルターに突入する。
打って変わって、その内部は地表から深い場所にあった。偲は3秒ほど落下し、シェルターの底に着地した。
非常用水などが備蓄されているところに変化はない。
だが、その木箱の中に、汚れにまみれた幼い神族の少年がいたのだ。
「お姉ちゃん……助けに来てくれたの?」
「もう大丈夫ですよ」
バッファルは兵士をおぶり、周囲を揺らしながら豪快に着地する。
「少年!君はおばあちゃんと二人で暮らしている。間違いないか!」
「ぼく、帰れるの?良かったぁ」
偲と兵士は壁をなんとかよじ登って外に出る。
バッファルは少年をおんぶしながら、楽々とシェルターから脱出した。
「少年、一つ聞きたい。君はどうやってここに入ったんだ?」
「うん。ぼくも説明したかった」
少年はバッファルの背中で話し出す。
「あの日の夜、ぼくはおばあちゃんに内緒で友達の家に向かってたんだ。バレたら怒られちゃうから。そしたら急に、謎の力に体を引っ張られて、気絶しちゃったんだ。目が覚めたときには、あのシェルターの中にいたの」
見えない力か……。あまりの不可解さだが、偲は黙っている。
「あの……バッファルさん、助けてくれてありがとう。あとサインください」
「ハッハッハ。お家についたら、いくらでも書いてあげよう」
バッファルはやはり豪快に笑う。
「そういえば、ポケットの中にこんなのが——」
少年は紙切れをバッファルの隣の兵士に渡す。
兵士は顔をしかめながら、読み上げる。
「満月の夜、マンダリーンの正門でホマレ荘の少年少女のうち、二人を人質として差し出せ。要求に応じなければ、軍団長が直接赴くだろう。魔道化軍団。だそうです」
「なるほど。だいたい手筈が読めてきたよ」
バッファルの表情は変わらない。
このたった一枚の紙切れが、偲たちの運命を大きく左右することとなる。




