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グットボンドへ ~天才たちの闘い~  作者: オーガニック三郎
ヴィレッサム編(七章)
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94話 確執

感想、ブクマ、レビュー、ポイント等お待ちしてます!

 マンダリーンに出向してから早1ヶ月。秋は深まり、真っ昼間でも冷ややかでくすぐったい風が吹くようになった。


 バッファルとの訓練が休みのある日、悠玄は喫茶店でコーヒーを嗜んでいた。

 4人用の席の反対側には、ツインテールの美猫が座っている。

 美猫の味蕾はまだまだおこちゃまなので、飲み物はメロンソーダ、おやつにドーナツときていた。


「お前、この時期にひんやりソーダって……寒くねーの?」

「それが美味しいんじゃーん。体が冷えたら変身すればいいし」

「店の中では勘弁してくれ」


 その時、入口の鈴がなった。

 店員は何名かと問いかけ、新しい客を案内する。

 客は悠玄たちから一番遠いところに着席した。


 客が次々と注文する声が、悠玄の耳に入ってくる。


 客はこそこそと密談をする。

「あいつ、気づいてないわね」

「コーヒーに夢中になってんじゃない?」


 料理が来る直前、客は立ち上がって、悠玄の背後まで近づいた。

 よほどコーヒーが美味しかったのか、悠玄に感づいた素振りは見られない。


 客の一人が悠玄の肩をつんつんする。

 悠玄は分かりやすく目を見開いた。


「お前ら、なんでここに?」

「ドッキリ大成功!」


 なんと客はコルチ、ひまり、創という見覚えのある3人だったのだ。


 席の向かい側で、美猫が何食わぬ顔をしているが、笑みがこぼれている。


「図ったな—」

「なんのことかなー」


 美猫はそっぽを向いて、かすれかすれの口笛を吹いた。


 ひまりが悠玄側、コルチと創が美猫側に座る。

 ひまりは内心、勝手に席を移動しちゃってよかったのかなとドキドキしていたが、料理を運んできた店員に、変化は見られなかった。


 料理と飲み物を口にしたコルチらが舌鼓を打つ。

「ん、美味しい」ひまりは細々という。

「ちょっと、それじゃ伝わらないわよ。もっとはっきりと言わないと。ほら、練習よ」

 コルチがフォークの先をひまりに向ける。


「その辺りにしとけよ。まさか、ホマレ荘でもダル絡みしてるんじゃねぇだろうな」

 コルチは口を開かぬまま固まった。

「なんか言えよ」


「でも悠玄、私ひさしぶりにあの人たちと喋れたよ」

「そりゃよかったな。誰と喋ったんだ?」

「琴音ちゃんだよ。好きな音楽について聞かれたの。といっても、会話の9割はあの子のものだったけど……」


 琴音が曲の趣味を一方的に喋り、コミュ障のひまりが慌てふためく様子が容易に想像できる。


「まぁ、あいつはそういう奴だ」

「下手なこと言わない方がいいよ、悠玄」

 創がたしなめるように呟いた。


「二人の稽古は順調なの?」

 コルチが聞いた。


「まずまずだな。上達してるんだろうけど、隆之介にはかなわねぇよ」

「ボクは変身が進化したよ。早く見せたいなぁ」


「前から思ってたんだけどさ、『変身』ってけっこう安直だよね」

 創はスムージーを飲みながら言った。


「分かりやすくて良くない?ねぇ悠玄くん、考えてみてよ」

「そうだな……『遺伝子発現』とかどうだ?」


 コルチたちは一斉に微妙そうな顔をした。

 ただ一人、ひまりだけは愛想笑いを浮かべた。


「なっ、何だよ」

「い、いいんじゃない?僕は素敵だと思うよ!」創が言う。


「お前、目ぇ合わせろよ」


「まぁそれでいいや。遺伝子ってついてるのはセンスあると思うし」

 創の隣で、美猫はため息を付く。


「っていうかどうやってここまで来たんだよ。まぁまぁ距離あったぜ」

「クライゼルさんにお願いしたのよ。飛行の呪文なら、20分で着けるわ」

 コルチがさも当たり前のように言う。


「なるほどな。クライゼルさんはどこにいんだよ」

「それがね……城壁の外で待っているの」

「なんだと?」

 ひまりの発言に、悠玄は眉毛を吊り上げた。


「それは、クライゼルさんが神族の街に入れなかったという認識でいいか」


「うん。間違ってないと思う」創が言う。

「引き止めたりしなかったの?」

 美猫は疑問を呈する。


「勿論一回は聞いたわよ。でも、クライゼルさんったら、ピクリとも笑わずに『私は歓迎されていないらしいので』って。あんな面持ちされたら、これ以上ゴタゴタ言えないわよ」


「……俺もマンダリーンに入ってから、気になっていたことがあってな。俺と隆之介がお世話になっているバッファルというお方がいる。マンダリーン軍の司令部長を務めている立派なお方なのだが、普段の発言から、魔族という存在を『野蛮』などと罵ったりしている」

「なにそれ、なんか嫌だ」

 創は苦い顔をする。


「俺達が相手にしている魔神軍は魔族によって構成されている。フレルを殺し、偲を瀕死まで追い込んだヴィレッサムだって魔族だ。しかし一方で、クライゼルさんやヴィラージュ様のような、人格者の魔族も存在する。そんな方々を無下にして、敵と一緒くたにするのは—どうだろう?」


 悠玄は残った紅茶を一気に飲み干す。

「魔族と神族……。互いを憎み合い、滅ぼさんとする確執。俺達が想像している以上に、複雑なのかもしれないな」



 次の日の昼。休憩時間に、向日葵たちは集まってご飯を食べていた。

 隣ではバッファルも弁当をむさぼり食っていた。


 バッファルの食事量は凄まじく、向日葵に負けず劣らない。

 特に米の体積が異常だ。


「向日葵はよく食べるな!」

「早く大きくなりたんだもん」

「オレは感動したぞ!唐揚げをやろう!」


 十分食べているはずなのに、向日葵は拳ほどもある唐揚げを、なんと2口で食べた。


 もう成長期終わってるくね……? 

 隆之介はその様子を真顔で見ていた。


 昼ごはんを食べ終え、片付けを始めようとする。

 その時、下のフロアからけたたましい声が鳴り響く。


「バッファル様ーーーーーー!」

「バカモノ!今すぐ止まるんだ!」


 階段を駆け上がって現れたのは、初老の女性。

 その後ろを、息を切らした見張りの兵士が追いかける。


「どうされましたかな?」バッファルの声色が柔らかくなる。

「バッファル様、お願いです。私の孫を助けてください!」


 バッファルは兵士たちに椅子とテーブルを用意させ、茶を差し出す。

「どうぞ。落ち着きますよ」


 女性は勢いよく会釈しながら、茶を一口飲む。


「それでご要件は?」

「私には一人娘がおりました。娘はすくすくと育って結婚し、やがて子どもを授かりました。しかし、娘は出産に耐えきれずに命を落とし、娘壻も事故で亡くなりました。もともと夫も早くに亡くしている私に、生きる希望を与えてくれたのが、たった一人の孫です」


 バッファルは話を聞きながらところどころで頷いている。


「ですが、一昨日から姿が見えないのです。もともとわんぱくな子ですから、ふっといなくなるのはいつものことでしたが……流石に不安になりました。再三お頼みしますが、バッファルさん。あなたの手で私の孫を探してはもらえないでしょうか!」


「そうは言っても、これだけ広い街をどうやって……」

「悠玄、いい」


 バッファルは女性の手を取る。

「このバッファル、お孫さんを見つけ出すため、全力を注ぎましょう」


 女性の涙腺が決壊する。「ありがとう……ございます……!」


 バッファルの言葉を信頼したのか、落ち着きを取り戻した女性は帰っていった。


 兵士がバッファルに話しかける。

「この件、私どもで対応に当たります」

「いいや。わざわざ乗り込んでまで、オレに頼み込んできてくれたんだ。ここは任せてもらおう」


 兵士らは反論の一つもせず、承知しましたと、会釈をした。


「バッファルさん、そのことなんですが、私もご一緒してもよろしいですか?」

 司令部長を見据える一人の少女。彼女の名は、服部偲。

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