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グットボンドへ ~天才たちの闘い~  作者: オーガニック三郎
ヴィレッサム編(七章)
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93話 お手並み拝見

感想・ポイント・レビュー・ブクマ等、お待ちしてます!

 次の日から、向日葵たちはマンダリーンの稽古場へとお邪魔するようになった。

 マンダリーンの軍部は街を囲む城壁の内部に連なっており、そのほとんどが稽古場となっている。常務の間を縫って、兵士たちが有事に備えて訓練を重ねている。


 向日葵たちはミターの案内で、軍部の司令部へ案内された。そこでは、肩幅の大きい中年の神族が嬉しそうに待っていた。


「おぉ、あなた達が例の少年少女諸君か!」

 中年の神族は、緊張で余所行きの態度を取る向日葵たちに、躊躇せず握手をする。

 力強く握手するたびに、神族の頭についた兜が揺れる。


「オレはマンダリーン軍司令部長のバッファル。短い間だけど、よろしくな!」


「バッファルさんはまさにマンダリーン軍の叩き上げ。兵士の生まれでないのにも関わらず、己の実力と知略のみでトップにのし上がった、すごいお人なんですよ」

 ミターは意気揚々と語った。


「そんな大したことじゃねぇよ。それより、君たちの名前は?」


 向日葵たちはミターのときよりも、丁寧に自己紹介をする。


「みんないい名前だ!では早速、案内をしよう。武器は持っているよな?」

 バッファルは美猫が気まずそうにしているのに気づく。


「あれ、もしかして君は武器を使わないのか?」

「うーん、一応ナイフは携帯しているんですけど、ボクのメインは魔力なんです……」

 そんな美猫をよそに、バッファルは豪快に笑う。


「やっぱり、君たちがマンダリーンに来たのは、イザナギさまの思し召しだったようだな。まぁ、ついてきてくれ」


 細長い通路を下っていくと、兵士たちの掛け声が徐々に響いてきた。バッファルは熊にも負けずとも劣らない、雄大な声量で説明する。


「マンダリーンは約1万の兵士を抱え、20の隊に分かれている。大体は剣とか、槍とか、武器によって隊が決められている。同じ武器を扱う者を切磋琢磨させるってわけだ!」


 バッファルが最初に見せたのは、槍の使い手が集まった、2番隊だった。

 兵士たちが長尺を振り上げ、必死に汗を流していた。


「こいつらは日々命がけで職務についているが、もちろん非番の日もある。万に一つ怪我をしたら、20番隊の看護師らが治療してくれる。怪我で動けなくても最低限の手当は出るし、子どもが生まれたら休暇だってある。野蛮な魔族どもよりも、いい暮らしはしているだろうな!」

 バッファルはまたもや豪快に笑った。


 その隣で、悠玄はバッファルの物言いに、違和感を感じていた。


「あの、ボクは……?」美猫が言った。

「あぁ、そうだったな。マンダリーン軍の一番の強み、それは神族でも特に進んだ魔法研究にある!おそらくだが、今までに開発した呪文の数なら、神の都を優に超えるだろう!」


「私は刀と呪文の複合型なんですが、その場合は?」偲が言った。

「心配はいらん。15番隊が魔法戦士を育成している。お世話になるといい」


 一通り内部を見たあと、向日葵たちは早速、各部隊の訓練に参加した。隆之介と悠玄は刀を使うということで、バッファル案内の元、1番隊へと入った。


 マンダリーン軍の筆頭部隊ということもあり、1番隊は活気があった。

 兵士たちが声を張り上げ、剣の腕を磨いている。

 まさに武人の集まり。その迫力に、二人は少しだけ気圧された。


「隆之介、悠玄。まずは君たちの腕を拝見しよう。どちらか、そこに立ってもらえるか」


 二人は黙って顔を見合わせた。

 隆之介は、「じゃあ俺が……」とつぶやいて前に出た。


 バッファルは隆之介に、木刀を2本投げ渡し、大きな声で言う。

「どちらかの木刀が相手の体に触れたら勝ち。万に一つ、怪我をしても恨みっこなしでいいだろう?」


 隆之介が頷くと、兵士の衆から、いかにもな風格をまとった男が現れる。

「そいつは我が軍屈指の実力派だ。倒してみせよ」


 バッファルの言葉が開始の合図だった。

 男は刀を手に、距離を詰める。

 振り下ろされた攻撃を、隆之介は木刀をクロスさせて受け止める。


「あの剛剣を完璧に止めた……?」兵士たちはざわめく。


 その時、隆之介は太ももと腕に思いっきり力を込めた。

 地面から伝わる力が、男の刀を弾いた。

 隆之介の右手が一閃。しかし、男はギリギリのところで回避する。


 間を空けた二人は、互いの動向を伺う。

 次に動いたのは、隆之介。

 一瞬で制空権に入り、2つの武器で怒涛の連撃を繰り出す。

 男は斬撃の一つ一つを受け止め、払い落としていく。


「なるほど。単純な性能勝負か」

「あんな無酸素運動、すぐに体力切れになるよ」


 兵士たちのざわめきが、隆之介の耳に入る。刀を振るう隆之介の口角が上がる。

「こっちも、伊達に視線をくぐってきたわけじゃないんすよ!」


 なんと、ここに来てスピードが上がった。寡黙だった男の表情に、焦りが滲み出る。


「ここっ!」


 鉄壁の防御をすり抜け、木刀が男の脇腹に命中した。

 腕を組み、試合を観戦していたバッファルが豪快に笑う。


「してやられたな。まだまだ鍛錬の余地がある。隆之介、よくやったぞ。では次、悠玄」


 隆之介との入れ替わりで、悠玄は男の正面に立つ。


 敗北を喫したものの、男の闘志は衰えてない。

 それどころか、今度こそは負けないぞと、意気込んでいるようにも見える。

 初めの攻撃を受け流し、攻勢に転じる。悠玄は算段を組み立て、木刀を構える。


 その瞬間、男は距離を詰める。きっと上段からの唐竹割りだ!

 しかし男の刃先が、地面ギリギリまで下がる。

 こんなの予想していなかった。悠玄の反応がほんの少し遅れる。


 繰り出されたのは俊敏な燕返し。悠玄は斜め上に斬り上げられる。


 一瞬の出来事に悠玄が呆然としていると、それまで一言も喋らなかった男が、手を差し伸べてきた。

「短い間ではあるが、共に強くなろう。すべては憎き魔神を打ち倒すために」


 悠玄は男と握手を交わす。


 バッファルは真剣な表情で口を開く。

「君が剣と向き合っていることは分かった。だが、少々頭で考えてしまうところがあると見る。頭の良い人間によくあるクセだ。戦闘中に思考を止めるのはタブーだが、考えすぎても動きが鈍くなる。ちょうどいい塩梅を見つけていこう」


 バッファルは、兵士に紛れて試合を見ていた隆之介をちらりと見る。

「そこで提案なのだが……君たち二人で、オレとやってもらえないか。オレも君たちの戦闘力を肌で感じてみたくなった」


 まさかの提案に、兵士たちからざわめきが上がる。

「あの司令部長が直々に……!」

「俺なんて戦いを見たことすらないぞ」


 二人にとっても斜め上だが、こんなに喜ばしいことはない。

 隆之介はありがとうございますと、元気よく言いながら、悠玄の隣に並ぶ。


 バッファルは金属の鎧を身にまとい、木製のマチェットナイフを抜く。


「なぁ、あれってズルくないか?独りだけ防具を着るなど」悠玄が言う。

「考えてみろよ。ルールとか関係無しに、俺たちが重い防具を身に着けないのは、動きが鈍くなるからだろ。それさえ克服できれば、物理攻撃に対してこの上ない対抗策となる」


「つまり……」

「あぁ。バッファルさん、あの人は間違いなく強い。さすが、軍を束ねるリーダーだ」


 今になって気づいたが、バッファルの腕、太もも、肩は一鉄を有に超えるぐらい太い。

 そのうえ、体幹もがっしりしている。


「俺が正面から止めて見せる。お前は横から攻めろ」隆之介は言った。


 バッファルは笑いながら距離を詰め、マチェットを振り上げた。

 隆之介は悠々と前に出て、受けの構えを取る。

 そして、木刀とマチェットが交錯する。

 とてつもない剣圧!隆之介はやすやすと押し込まれる。


 悠玄は指示通り、横から居合で攻める。

 しかし、バッファルは太い脚で蹴りを繰り出す。

 悠玄はギリギリで回避する。


「忘れていたが、この試合は実戦方式だ。蹴りや打撃も良しとする。一本には入らんがな!」


 悠玄が引きながら舌打ちする。

「先に伝えてくれよな……」


「まぁ実際の死合にルールなんて無いからな。作戦を変える。やっぱ先手だな」


 隆之介は自分から攻め込む。

 制空権に入ると手数を活かした連撃を繰り出す。


 バッファルは弾き返そうとするも、攻撃の一部が鎧に当たる。

「大したもんだ。鎧がなかったら、確実に負けてたな」


 たった今分かった。木刀を2本受け取った時点で、戦闘者としてのやり方を見抜かれてたんだ。


 一方、悠玄は両雄の迫力に圧倒され、なかなか動けずにいる。


 隆之介はこれをある程度予測していた。

 ならば一人でも勝ち切る!

 両手を動かしながら、強引に一歩前進する。


 斬撃の圧に耐えきれなくなったバッファルは、後ろに飛ぶ。


 これを待っていた。

 隆之介はむき出しの手首目がけて、片手で木刀を薙ぐ。

 間合いは完璧。切っ先が正確に手首へ向かう。


 だが、バッファルが不敵に笑った。

 なんとすでにマチェットを振り上げていたのだ。

 バッファルはマチェットを強烈に叩きつける。


 隆之介から木刀が弾き落とされる。


 バッファルはそのまま、空いた片手で隆之介の腕を掴む。

 万力のようなパワーで固定された隆之介の頭に、マチェットが触れた。


「やっぱ、凄いなぁ」

 隆之介はぺたりと座り込んだ。


「その場で硬直してどうする、少年!」

 バッファルは悠玄に狙いを定め、突撃する。


 マチェットが剛力により振り下ろされるも、悠玄は横に飛んでかわす。

 木刀で薙ぎを繰り出すが、バッファルは大きく屈み込んで回避。


 悠玄は足首を掴まれ、ひっくり返される。

 起き上がる間もなく、マチェットの切っ先が悠玄の体に触れた。


「くそがっ!」

 悠玄は悔しさを胸に立ち上がる。


「久しぶりに楽しませてもらった。だが、あえて厳しいことを言うのなら、悠玄よ。君には根本的な技量が足りん。剣術は奥が深い。いろいろと学んでいこう」


 バッファルは隆之介にも声をかける。

「君の技術は至高の領域に届きつつあるが、あくまでその年にしてはというのを忘れるな。この神の領内には、強者がごまんといる。あと、一人で突っ走ってしまうところが目立つな。共闘に慣れれば、戦術の幅が劇的に広がる。コンビネーションも勉強していこう」


 バッファルは兵士たちに今日の訓練の内容を伝えた。

 いざ開始というところで、悠玄が少し中座しますといい、その場から去った。


 絶妙な雰囲気のなか、バッファルは話しかける。

「なぁ、隆之介。悠玄はいつから剣術を始めた?」

「この世界に来てからなので……1年前ですね」

「やはりか」


「やっぱり粗さが目立ちますか」

「正直な。しかし、このバッファルの斬撃を避けきり、次の攻撃を飛ばす。なかなかできることではないぞ」

「俺もそう思います。歴が浅いだけで、順調に上達しています」

「立派なものだよ」


「あいつはもがいているんです。自分の才のなさに打ちひしがり、絶望的な強者に囲まれて。置いていかれないように、必死に」

 隆之介は哀愁を漂わせて言った。

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