93話 お手並み拝見
感想・ポイント・レビュー・ブクマ等、お待ちしてます!
次の日から、向日葵たちはマンダリーンの稽古場へとお邪魔するようになった。
マンダリーンの軍部は街を囲む城壁の内部に連なっており、そのほとんどが稽古場となっている。常務の間を縫って、兵士たちが有事に備えて訓練を重ねている。
向日葵たちはミターの案内で、軍部の司令部へ案内された。そこでは、肩幅の大きい中年の神族が嬉しそうに待っていた。
「おぉ、あなた達が例の少年少女諸君か!」
中年の神族は、緊張で余所行きの態度を取る向日葵たちに、躊躇せず握手をする。
力強く握手するたびに、神族の頭についた兜が揺れる。
「オレはマンダリーン軍司令部長のバッファル。短い間だけど、よろしくな!」
「バッファルさんはまさにマンダリーン軍の叩き上げ。兵士の生まれでないのにも関わらず、己の実力と知略のみでトップにのし上がった、すごいお人なんですよ」
ミターは意気揚々と語った。
「そんな大したことじゃねぇよ。それより、君たちの名前は?」
向日葵たちはミターのときよりも、丁寧に自己紹介をする。
「みんないい名前だ!では早速、案内をしよう。武器は持っているよな?」
バッファルは美猫が気まずそうにしているのに気づく。
「あれ、もしかして君は武器を使わないのか?」
「うーん、一応ナイフは携帯しているんですけど、ボクのメインは魔力なんです……」
そんな美猫をよそに、バッファルは豪快に笑う。
「やっぱり、君たちがマンダリーンに来たのは、イザナギさまの思し召しだったようだな。まぁ、ついてきてくれ」
細長い通路を下っていくと、兵士たちの掛け声が徐々に響いてきた。バッファルは熊にも負けずとも劣らない、雄大な声量で説明する。
「マンダリーンは約1万の兵士を抱え、20の隊に分かれている。大体は剣とか、槍とか、武器によって隊が決められている。同じ武器を扱う者を切磋琢磨させるってわけだ!」
バッファルが最初に見せたのは、槍の使い手が集まった、2番隊だった。
兵士たちが長尺を振り上げ、必死に汗を流していた。
「こいつらは日々命がけで職務についているが、もちろん非番の日もある。万に一つ怪我をしたら、20番隊の看護師らが治療してくれる。怪我で動けなくても最低限の手当は出るし、子どもが生まれたら休暇だってある。野蛮な魔族どもよりも、いい暮らしはしているだろうな!」
バッファルはまたもや豪快に笑った。
その隣で、悠玄はバッファルの物言いに、違和感を感じていた。
「あの、ボクは……?」美猫が言った。
「あぁ、そうだったな。マンダリーン軍の一番の強み、それは神族でも特に進んだ魔法研究にある!おそらくだが、今までに開発した呪文の数なら、神の都を優に超えるだろう!」
「私は刀と呪文の複合型なんですが、その場合は?」偲が言った。
「心配はいらん。15番隊が魔法戦士を育成している。お世話になるといい」
一通り内部を見たあと、向日葵たちは早速、各部隊の訓練に参加した。隆之介と悠玄は刀を使うということで、バッファル案内の元、1番隊へと入った。
マンダリーン軍の筆頭部隊ということもあり、1番隊は活気があった。
兵士たちが声を張り上げ、剣の腕を磨いている。
まさに武人の集まり。その迫力に、二人は少しだけ気圧された。
「隆之介、悠玄。まずは君たちの腕を拝見しよう。どちらか、そこに立ってもらえるか」
二人は黙って顔を見合わせた。
隆之介は、「じゃあ俺が……」とつぶやいて前に出た。
バッファルは隆之介に、木刀を2本投げ渡し、大きな声で言う。
「どちらかの木刀が相手の体に触れたら勝ち。万に一つ、怪我をしても恨みっこなしでいいだろう?」
隆之介が頷くと、兵士の衆から、いかにもな風格をまとった男が現れる。
「そいつは我が軍屈指の実力派だ。倒してみせよ」
バッファルの言葉が開始の合図だった。
男は刀を手に、距離を詰める。
振り下ろされた攻撃を、隆之介は木刀をクロスさせて受け止める。
「あの剛剣を完璧に止めた……?」兵士たちはざわめく。
その時、隆之介は太ももと腕に思いっきり力を込めた。
地面から伝わる力が、男の刀を弾いた。
隆之介の右手が一閃。しかし、男はギリギリのところで回避する。
間を空けた二人は、互いの動向を伺う。
次に動いたのは、隆之介。
一瞬で制空権に入り、2つの武器で怒涛の連撃を繰り出す。
男は斬撃の一つ一つを受け止め、払い落としていく。
「なるほど。単純な性能勝負か」
「あんな無酸素運動、すぐに体力切れになるよ」
兵士たちのざわめきが、隆之介の耳に入る。刀を振るう隆之介の口角が上がる。
「こっちも、伊達に視線をくぐってきたわけじゃないんすよ!」
なんと、ここに来てスピードが上がった。寡黙だった男の表情に、焦りが滲み出る。
「ここっ!」
鉄壁の防御をすり抜け、木刀が男の脇腹に命中した。
腕を組み、試合を観戦していたバッファルが豪快に笑う。
「してやられたな。まだまだ鍛錬の余地がある。隆之介、よくやったぞ。では次、悠玄」
隆之介との入れ替わりで、悠玄は男の正面に立つ。
敗北を喫したものの、男の闘志は衰えてない。
それどころか、今度こそは負けないぞと、意気込んでいるようにも見える。
初めの攻撃を受け流し、攻勢に転じる。悠玄は算段を組み立て、木刀を構える。
その瞬間、男は距離を詰める。きっと上段からの唐竹割りだ!
しかし男の刃先が、地面ギリギリまで下がる。
こんなの予想していなかった。悠玄の反応がほんの少し遅れる。
繰り出されたのは俊敏な燕返し。悠玄は斜め上に斬り上げられる。
一瞬の出来事に悠玄が呆然としていると、それまで一言も喋らなかった男が、手を差し伸べてきた。
「短い間ではあるが、共に強くなろう。すべては憎き魔神を打ち倒すために」
悠玄は男と握手を交わす。
バッファルは真剣な表情で口を開く。
「君が剣と向き合っていることは分かった。だが、少々頭で考えてしまうところがあると見る。頭の良い人間によくあるクセだ。戦闘中に思考を止めるのはタブーだが、考えすぎても動きが鈍くなる。ちょうどいい塩梅を見つけていこう」
バッファルは、兵士に紛れて試合を見ていた隆之介をちらりと見る。
「そこで提案なのだが……君たち二人で、オレとやってもらえないか。オレも君たちの戦闘力を肌で感じてみたくなった」
まさかの提案に、兵士たちからざわめきが上がる。
「あの司令部長が直々に……!」
「俺なんて戦いを見たことすらないぞ」
二人にとっても斜め上だが、こんなに喜ばしいことはない。
隆之介はありがとうございますと、元気よく言いながら、悠玄の隣に並ぶ。
バッファルは金属の鎧を身にまとい、木製のマチェットナイフを抜く。
「なぁ、あれってズルくないか?独りだけ防具を着るなど」悠玄が言う。
「考えてみろよ。ルールとか関係無しに、俺たちが重い防具を身に着けないのは、動きが鈍くなるからだろ。それさえ克服できれば、物理攻撃に対してこの上ない対抗策となる」
「つまり……」
「あぁ。バッファルさん、あの人は間違いなく強い。さすが、軍を束ねるリーダーだ」
今になって気づいたが、バッファルの腕、太もも、肩は一鉄を有に超えるぐらい太い。
そのうえ、体幹もがっしりしている。
「俺が正面から止めて見せる。お前は横から攻めろ」隆之介は言った。
バッファルは笑いながら距離を詰め、マチェットを振り上げた。
隆之介は悠々と前に出て、受けの構えを取る。
そして、木刀とマチェットが交錯する。
とてつもない剣圧!隆之介はやすやすと押し込まれる。
悠玄は指示通り、横から居合で攻める。
しかし、バッファルは太い脚で蹴りを繰り出す。
悠玄はギリギリで回避する。
「忘れていたが、この試合は実戦方式だ。蹴りや打撃も良しとする。一本には入らんがな!」
悠玄が引きながら舌打ちする。
「先に伝えてくれよな……」
「まぁ実際の死合にルールなんて無いからな。作戦を変える。やっぱ先手だな」
隆之介は自分から攻め込む。
制空権に入ると手数を活かした連撃を繰り出す。
バッファルは弾き返そうとするも、攻撃の一部が鎧に当たる。
「大したもんだ。鎧がなかったら、確実に負けてたな」
たった今分かった。木刀を2本受け取った時点で、戦闘者としてのやり方を見抜かれてたんだ。
一方、悠玄は両雄の迫力に圧倒され、なかなか動けずにいる。
隆之介はこれをある程度予測していた。
ならば一人でも勝ち切る!
両手を動かしながら、強引に一歩前進する。
斬撃の圧に耐えきれなくなったバッファルは、後ろに飛ぶ。
これを待っていた。
隆之介はむき出しの手首目がけて、片手で木刀を薙ぐ。
間合いは完璧。切っ先が正確に手首へ向かう。
だが、バッファルが不敵に笑った。
なんとすでにマチェットを振り上げていたのだ。
バッファルはマチェットを強烈に叩きつける。
隆之介から木刀が弾き落とされる。
バッファルはそのまま、空いた片手で隆之介の腕を掴む。
万力のようなパワーで固定された隆之介の頭に、マチェットが触れた。
「やっぱ、凄いなぁ」
隆之介はぺたりと座り込んだ。
「その場で硬直してどうする、少年!」
バッファルは悠玄に狙いを定め、突撃する。
マチェットが剛力により振り下ろされるも、悠玄は横に飛んでかわす。
木刀で薙ぎを繰り出すが、バッファルは大きく屈み込んで回避。
悠玄は足首を掴まれ、ひっくり返される。
起き上がる間もなく、マチェットの切っ先が悠玄の体に触れた。
「くそがっ!」
悠玄は悔しさを胸に立ち上がる。
「久しぶりに楽しませてもらった。だが、あえて厳しいことを言うのなら、悠玄よ。君には根本的な技量が足りん。剣術は奥が深い。いろいろと学んでいこう」
バッファルは隆之介にも声をかける。
「君の技術は至高の領域に届きつつあるが、あくまでその年にしてはというのを忘れるな。この神の領内には、強者がごまんといる。あと、一人で突っ走ってしまうところが目立つな。共闘に慣れれば、戦術の幅が劇的に広がる。コンビネーションも勉強していこう」
バッファルは兵士たちに今日の訓練の内容を伝えた。
いざ開始というところで、悠玄が少し中座しますといい、その場から去った。
絶妙な雰囲気のなか、バッファルは話しかける。
「なぁ、隆之介。悠玄はいつから剣術を始めた?」
「この世界に来てからなので……1年前ですね」
「やはりか」
「やっぱり粗さが目立ちますか」
「正直な。しかし、このバッファルの斬撃を避けきり、次の攻撃を飛ばす。なかなかできることではないぞ」
「俺もそう思います。歴が浅いだけで、順調に上達しています」
「立派なものだよ」
「あいつはもがいているんです。自分の才のなさに打ちひしがり、絶望的な強者に囲まれて。置いていかれないように、必死に」
隆之介は哀愁を漂わせて言った。




