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グットボンドへ ~天才たちの闘い~  作者: オーガニック三郎
ヴィレッサム編(七章)
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87話 大嫌い!サパコス

 サパコスは鬼と悪魔が混ざったような表情で突撃する。琉太が気がついたことにはもうナイフは振るわれている。琉太はとっさに両手を交差させ、ナイフによる一撃をガードする。

「そんなもんじゃ止まらねえよ」

 剛腕で無理やり押し切るサパコス。琉太の体がふわりと持ち上がる。

 繰り出されたのは発勁。腹部に規格外のパワーが乗り、琉太はもんどり打って10メートルほど吹き飛ばされた。

「大した威力だ……だが効かないなぁ」

 わざと凄んでみせたが、いくら内蔵を保護しているといえど、この攻撃を喰らい続けるのはまずい。この男に後手で挑むのは不利だ。なら攻撃に転じるまで!

「こちらもギアを上げていこうか」

 琉太の手からバチバチと火花が散った瞬間、炎が体の表面を伝い、全身を包み込む。炎の熱で紺色の髪が逆立つ。

「フレイムバーン。修行によって得た俺に新しい境地だ」

 真っ赤な炎は風を発生させ、サパコスのブロンドヘアーもなびかせる。対照的に、サパコスは冷ややかな視線を向ける。

「へぇ、温度は凄そうだけど、魔力垂れ流しにして大丈夫なのか?魔法使いさん」

「ご心配なく」琉太は両手に炎を溜め込み、一気に突っ込む。

「この状態はいわばウォームアップ直後。はじめから炎のスイッチを入れておくことで、いつでも、無理なく、爆発的に出力を引き出せる」

 左手からいつものように炎の渦巻きを放出するも、サパコスはひらりと交わす。その避け方は想定済みだ。またたく間に距離を詰める琉太。

「このようにな!」

 右手に作られた炎の拳がついに、サパコスを捉える。しかし手応えが薄い。自ら後ろに飛んで、威力を半減させたのか。

 サパコスは手を地面につけ、勢いよく着地する。スピードが前より格段に上がっている。このガキ、硬化と炎だけじゃない。飛行の呪文も使ってやがる。だが、初戦は凡人の浅知恵。取るに足りない。

 サパコスは立ち上がりながらチャクラムを抜き、2つの武器で怒涛の連撃を浴びせる。無論、その全ては呪文の効果で弾かれる。だけどこのガキ、視線が武器に集中している。呪文だけに頼らず、律儀に手先で受け流そうとしているじゃあないか。

 その時、サパコスはチャクラムから手を離した。連動するかのように、琉太の視線が下がる。

「どっこいしょぉぉぉぉ!」

 サパコスは地面を踏み抜き、超威力の発勁を繰り出した。意識外からの攻撃!対応などできるはずない。琉太は面白いように吹き飛ばされた……はずだった。

 なんと琉太が空中で静止し、引っ張られたかのように加速する。その体にまとわれた炎が膨らみ、肌でわかるほどに熱くなる。最高速度、最高温度となった琉太が選んだのは—シンプルなタックルだった。

 軍団長は思わず膝をつく。それは琉太も同じだった。あの野郎、タックルを食らう直前にナイフで入れたな。硬化の呪文は靭性まではカバーできない。お陰で右腕が折れてしまった。

「あの状態からさらに加速するとは……一体どんなメカニズムだ?」

 サパコスは頭をさすりながら、チャクラムを拾い上げる。

「接続の呪文、コネクト。2対象の間に透明な鎖をつける。そこに伸縮の呪文、イラスティシーで弾性を付与すれば、二人を結びつける透明なゴムができる。発剄……利用させてもらったよ」

「お前、いくつ呪文覚えてんだよ。うぜぇな」サパコスは武器を構え直す。「まぁいいや。ところでさ、お前自分が優位に立ってるとでも思ってんの?例えばその腕とか」

 サパコスの怖いところはここだ。圧倒的な観察眼で、相手のクセとか弱点をいとも簡単に見抜いてくる。やはりバレてしまったか。

 次の瞬間、サパコスはナイフ片手に突っ込んできた。琉太は炎をまとい、迎撃の態勢を取る。音速のような連撃。

「折れてんだろ、腕!だったら、痛みの一つや二つ、感じるはずだよなぁ!」

 サパコスのローキックが琉太の右腕を捉える。もはや硬化の呪文では保護できない。甲高い音を上げて骨が砕ける。琉太はあまりの痛みに体勢を崩した。

「からの〜?」

 サパコスは下卑た笑みを浮かべながら、頭蓋骨に拳をねじ込む。琉太は脳震盪を起こし、倒れ込んだ。軍団長はその隙を見逃さない。延髄を踏み抜いたのだ。琉太を包んでいた炎が消え、琉太は動かなくなった。

 やれやれ。ちょっと苦戦したけど、俺は強いってことで結果オーライ!多分死んだけど、不可抗力だったって魔神さんには報告するか。怒られるかもしれないけど。サパコスは魔神城へ帰るため、森の中で待機している部下と合流しようとした。

「おい、どこに行くんだ?」

 後ろから声が聞こえる。なるほど、まだいじめられるってことね。

「俺はまだ戦える。逃げるのは俺を殺してからでもいいだろう?」琉太は血を吐きながら、ふらふらと立ち上がる。

「お前、ほんっとムカつくわ……。でも確かに、逃げるのもアリかもなぁ!」

 なんとあれほど殺すと言っていたサパコスが尻尾を巻いて逃げ出した。琉太は急いで追いかけようとするが、炎の熱が体の内側に残って力が入らない。冷たい雨が徐々に冷ましてくれるだろうが、それではあいつを見逃してしまう。

「バッサー、水よ唸れ」

 琉太はひんやりとした水を脇や太ももに当てつつ、ゆっくりと歩き出した。

 一方、サパコスは段々畑の影に隠れつつ、柵を登っていき、森で息を潜めていた。このまま部下と合流して帰る事もできるが、それじゃあ俺が負けたみたいだ。どうせ勝つなら、最期まで終わることのない苦痛を味わってもらおう。あぁ、絶望に染まるカオが楽しみだなぁ!

 多少回復した琉太は急斜面を走って上がり、森のそばでサパコスを探した。森の中には入れない。99パーセント後手に回らざるを得ないだろうし、サパコス相手にそれは最悪だ。雨の音がだんだん激しくなってきて鬱陶しいが、こうするしかない。

 その時、群島の近くで雷が鳴った。琉太は反射で耳を塞いだ。生物としては当然の反応だ。だが、それは致命的な隙となった。

「なぁに集中切らしちゃってんの!」

 どこからともなく軍団長が現れる。右手にはもちろんナイフ。左手には……漬物石?そこに麻紐がくくりつけてある。意味がわからないがこれはチャンス!

「さぁやり合おう、サパコス!プロテクト、硬化!」

 琉太は一瞬で魔力による膜を張り、フレイムバーンを発動する。片手でナイフの斬撃をいなしつつ、攻撃を叩き込む好機を伺う。

 打って変わって、サパコスには余裕がある。なんだ、何を企んでいる?それとも俺が非力なだけなのか?

 次の瞬間、ナイフが下に落ちた。琉太の目線はそれを自然と追ってしまった。ちくしょう、そういうことか!

「同じ手に2回。さすがは凡人ってところだなぁ」

 サパコスは空いた右手で琉太の首根っこを掴んだ。森の隣を離れ、そのまま坂を怒涛の勢いで登っていく。琉太は拘束を解こうとするも、体格差がありすぎた。まるで万力だ。

 背後に見えるのはエメラルドブルー。島の頂上は断崖となっていた。まさかこいつ!

「一緒にダイブ行こうかぁ!」

 サパコスが崖際を蹴破ると、二人は空中へと投げ出される。

 琉太は『ワープ』を唱えようとするが、喉笛を押さえつけられてるせいで力がうまく入らない。着々と海面が近づいてくる。高度が上がれば、水だってコンクリート並みの硬さになる。せめてサパコスを下に……。だがやはり動かない!

 着水すると同時、二人は海の中に引き込まれる。このままでは、二人とも溺死だ。さすがにそれは避けたいと思ったのか、サパコスは喉笛から手を離した。ここしかない!琉太は一瞬のタイミングにすべてを賭け、水面に上がろうとする。

 その時、なぜか琉太の脚が海底に向かって引っ張られた。塩水の染みる目に写ったのは、麻紐によって繋がれた漬物石。海面がどんどん遠ざかっていく。呼吸なんてできるはずもなく、意識が徐々に薄まっていく。最後に見えたのは、サパコスのムカつくニヤケ面だった。

 


 サパコスは海を超スピードで泳いで島を回り、橋の手前の辺りで陸に上がった。移動用の部下も戦いの様子を見守っていたようで、上陸するなり肩を貸してきた。

「サパコス様、ご無事で何より!」

「いやぁ、クソガキの攻撃を食らうなんて、俺様も修行が足りないかもな……。なんて、冗談だよ!修行なんてくだらないこと、誰がやるかよ!」

「ひとまず魔神城に帰りましょう。いくら最強のサパコス様でも、体を冷やせば風邪を引いてしまいます」

「へぇ、俺様が風邪なんかにやられると思ってんだ。舐めてんの?」

 サパコスは部下の眼前にナイフの切っ先を向け、舌をペロリと出す。

「す—すみません。出過ぎた発言でございました—!」純粋な狂気を向けられた部下は、冷や汗を垂らしながら呟く。

「ふん、それでいい」

 突如、サパコスの耳に空気を裂く音が響いた。その音はかなり微細で、部下は気づく素振りを見せない。サパコスは反射的に部下の胸ぐらをつかみ、空中に掲げた。次の瞬間、3本の矢がほぼ同じタイミングで部下の背中に突き刺さった。

 寸前まで気がつかなかった。これも琉太の仲間の仕業っぽいな。しかしどこから?視界の端にいるのか、死角から曲射しているのか。どっちにせよチャクラムは届かなさそうだ……。続けて数本の矢が足元に刺さる。

「今日のところはお暇しとくわぁ!」

 サパコスは迷わず海に飛び込んだ。勝負になってないなら負けでもない。狡猾な軍団長の言い訳だった。

 その頃、はるか上空で、葉月は構えていた弓を降ろした。

 アーロンからの知らせを受けた葉月。風の呪文で迷いなく空へと飛び上がった。チャクラムの射程圏内に入ったら肩を裂かれて終わりなので、超遠距離からの射撃を選択した。スコープを取り付け準備は万端。しかしいざ矢を放ってみると、サパコスは部下を盾に使って不意打ちを防いでみせた。相変わらずのクズ行為。連続して矢を打ち込むも、残念ながら空を切る。サパコスは海に飛び込み、葉月の照準から完璧に外れた。

 それにしても琉太くんはどこに行ったんだろう。硬化の呪文を使えるから、負傷してることはないはず。もっと私が早くから参戦していれば……!葉月は言葉にできない思いを胸に、地上へと向かった。

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