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グットボンドへ ~天才たちの闘い~  作者: オーガニック三郎
ヴィレッサム編(七章)
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76話 希望となりえる秘密②

 大岩を破壊してから10分ほど進んだ。坑道はまさに素掘りの隧道といった感じで、これまでの道とあまり変化がない。お宝があるかもと思って気分が上がっていた平一郎も、代わり映えしない景色に飽き飽きし始めていた。

「あっ、明かりが……」

 一鉄が持って来ていたランタン。電池一本で一時間使える便利なものだが、長時間潜っていたせいで、残りが一本となってしまった。照明がなければ迷子になってしまう。このまま探索するか大人しく引き返すか。平一郎たちは判断に迷った。

「今日はこれまでにしておいて、さっさとホマレ荘に戻ろうよ。お風呂入りたいし」アーロンは言った。

「ヴィレッサムの期限まであと2日しかあらへんのや。これが最初で最後のチャンス。ランタンの電池が切れても、壁伝いに歩けば外に出られるやん。ここはいっそのこと、行き止まりまで行ってみようや」

 アーロンと平一郎のいがみ合いがまた始まる。一鉄は再び間に入ったが、平一郎に押しのけられ、その拍子でランタンが落ちた。ランタンの明かりがチカチカとおぼろげなものになり、周囲が徐々に暗くなる。その時、一鉄がなにかに気づいた。

「ふたりとも見て!ほら、あそこ—」

 坑道の先にかすかな光が見える。小さいながらも確実な変化だ。アーロンたちは互いの袖を離し、平一郎は言った。

「あの周りを探索したら、ホマレ荘に戻る。それでええやろ?」

 アーロンは無言で返事をした。

 明かりがいつまで持つか分からない。平一郎たちは足元の暗さを無視し、走りながら光を追った。アーロンが凹凸に引っかかって転びそうになったが、平一郎はそれすらも興味を示さなかった。

 どんどん距離を詰めていくも、光の強さは同じまま。周囲の景色は変わっておらず、進んだ手応えがない。違和感を覚えた矢先、先頭を走る平一郎の前に突如、木製の扉が現れた。扉の上部には小窓があり、光が漏れ出ている。内部を覗いてみたいところだが、生憎手の届かない高さだ。しかも扉の向こうからはなぜか圧力を感じる。まるで侵入者の覚悟を試すかのように。

「どうやアーロン?こんな風に身構えられたら、さすがにワクワクするんちゃう?」

「うん、まぁそうだね」声色こそ控えめだったが、アーロンからは笑みがこぼれていた。

 お邪魔しまーす、と緩い口調で平一郎は扉を開けた。

 内部は相変わらず土壁だったが、大きさが段違いだった。三人で鬼ごっこをしても十分なほどの広さで、左右対称の円形になっていた。壁沿いにはいたるところに松明が置かれており、天井には天井からは鋼のランタンが吊るされている。床にはタイルが敷かれていた。そして何より目を引くのは、空間の奥に鎮座する一つの動物の像。土とはまた違う日干しレンガのような質感で、ゾウと同じぐらいのサイズ。両足の鋭い爪に渦巻くたてがみと尻尾はさながらライオンのようである。像は座ったまま目をつぶってた。

「こりゃあ立派だねぇ」アーロンが像の頭を見上げながら言った。

「でも他には何もなさそうだよ」一鉄は土壁をコンコン叩いた。

 平一郎も隠し通路がないかとか思いながら、入念に周りを調べ上げた。しかし、

「そうやなやな。ふたりとも付き合わせて悪かった」

 一鉄のランタンも限界だ。ここで明かりがなくなったら、帰り道は真っ暗闇になる。3人はその場から撤収しようとした。それを遮るかのように、地を揺るがすような重低音が響いた。平一郎たちは身を震わせ、後ろを振り向く。

「お主ら、魔族ではなさそうだな。ここへ何をしに来た」

 喋りだしたのは唐獅子の像。その声は血を這う蛇のように低く、目を開いてこちらを凝視している。平一郎は冷や汗を垂らしながら、問いに答える。

「ちぃと迷い込んだだけですわ。今すぐ撤収しますから」

 思わず言葉がこぼれ落ちた。しかし、決して出任せではない。

「そうか。神族の秘密を狙っているのかと思ったが」

「……少しお話を伺っても?」

 平一郎が呟いた途端、一鉄がその肩に手をおいた。平一郎は肘で一鉄を小突きながら、まぁ話聞くだけやんか、と誤魔化した。

「はるか昔……魔族と神族が激戦を繰り広げていたころ、この場所はオムスビヒメの秘密基地となっていた」

「オムスビヒメって……最古の回復呪文の使い手……」

「そうだ。彼女は回復呪文の始祖として、戦争に貢献した。彼女の力によって何百人という神族が救けられた。やがて、彼女は自分の強大すぎる力が戦争を加速させていると思うようになった。20億年前、彼女はこの場所にたった一人、飲まず食わずで籠もった。誰にも気付かれないように。緩やかに死へ向かっていくのを感じ、最後の力を振り絞って我を創造した。それからというもの、魔族たちが回復呪文の秘密を探ろうとこの地を訪れたが、ことごとく死んだ。なぜなら、我が許さないからだ!」

 唐獅子の像が前足を踏み鳴らし、天井が開く。落ちてきたのは無数の白骨。この唐獅子に挑んで死んだ者たちだろう。

「お前たちは魔族ではない。だが我には秘密を守る責務がある。挑んだらこうなるだけだが、どうする?」像が低い声で言う。

「いやぁー僕達そんなことに興味はないんで、さっさと帰りますよ—」アーロンがそそくさとその場を去ろうとする。

「待てや。ヴィレッサムのターゲットは撫子で、その理由は回復呪文の使い手だからや。俺がオムスビヒメの秘密を知ることには意味がある。そうは思えへんか?」

「ぐっ—たしかにそうだけど」

 アーロンは声を漏らした。平一郎はすでに2本の小太刀を抜いていた。こいつにはこういうところがある。自分が正しいと一度思ってしまうと、それを絶対に曲げない。たとえ天地がひっくり返っても。だから僕達も巻き込まれる。そんな出来事が幾度となくあった。

「しょうがないなぁ。付き合ってあげる」

 好戦的なのは平一郎だけだとアーロンが思った瞬間、一鉄は正方形のブロックを取り出した。形状はさっきと同じだが、一回り大きい。一鉄がボタンを押すと、ブロックがスレッジハンマーへと変化した。

「マジかよっ!こうなったら僕もやるしかないじゃん!」アーロンは舌打ちしながら、腰に巻いたサーベルを抜いた。「僕はイケメンだからね。見て見ぬふりはしないよ!」

「覚悟はあるようだな。我もそれに応えよう!」

 唐獅子の像が雄叫びをあげた。後ろ足を縛り付けていた鎖がほどかれる。

 最初に動いたのは一鉄。懐からピストルを抜き、唐獅子の額めがけて銃弾を放つ。命中はしたものの硬い表皮に弾かれた。

「やばいよ。こいつ銃効かないよ」

 平一郎は返事しようとしたが、唐獅子はもう目の前に迫っていた。前足が上から襲いかかる。咄嗟に小太刀を重ねて防ぐ。土で作られているためか重量が半端じゃない。このままでは押し切られると危機感を覚えたその時、重量がフッと軽くなった。唐獅子の尻尾がうねりを上げる。平一郎は太い尻尾に吹き飛ばされ、壁に衝突した。

 唐獅子が次の標的としたのはアーロン。一鉄の横を通り抜け、前足を振り上げた。アーロンは呪文を叫ぶ。

「バッサー、水よ唸れ!」

 アーロンの出した水は唐獅子の目に当たった。攻撃が鈍った隙に、後ろに飛んで回避する。

「物理攻撃の一辺倒ではないぞ!」

 唐獅子は全身を震わせ、なんと炎のブレスを吐いた。瞬く間に炎に包まれるアーロン。しかし手応えがない。

「ふぅ~、危ない危ない」

 炎が消え、アーロンの姿があらわになる。その姿はびしょ濡れだった。炎に飲まれる直前、水の呪文で自分を保護していたのだ。アーロンはニヤリと口角を上げ、唐獅子の背後を指差した。

 指示を受けた一鉄が尻尾側から飛び上がる。その手にはハンマーが握られていた。勢いそのままに、唐獅子の背骨付近に重い一撃を食らわせた。

「小癪な!」

 唐獅子は声を荒げながら尻尾を薙ぐ。空中では対応が難しく、壁に叩きつけられる。

「イテテ……でも確かな一撃だよ」

 一鉄はちゃんと見ていた。銃弾さえ弾いたあの表皮にヒビが入っていたことを。

「手応えはある。だから起きなよ、平一郎」

 奇遇にも、一鉄が叩きつけられたのは平一郎のちょうど真隣だった。平一郎はおう、と元気のない言葉を返す。頭からは血が流れていた。

「骨折してない?」

「あぁ。おでこが擦れただけや」

 平一郎は体勢を立て直し、ズボンとベストについた埃を払った。

「さっきので分かったわ。俺のナイフ術はあいつに通じん。あいつの表皮は硬すぎるし、攻撃を防ぐことさえ難しい」

 その声にはいつもの元気がなかった。小学生からの付き合いだが、こんなに自信なさげな平一郎を見るのは初めてだ。

「大丈夫。小太刀での攻撃が通じないからって、諦めなければ—」

「理解しとるわ!」平一郎は肩に置かれた手を払いのける。「言い出しっぺは俺や。のこのこと尻尾を巻いて逃げるわけにはいかん。だから—」

 平一郎は小太刀を両方とも鞘に納めた。空いた手で握りしめたのは……ダイナマイト。

「もう手段は選ばん。自惚れんのは終わりや」

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