75話 希望となりえる秘密①
期限の日まで残り2日。商売の天才、平一郎は村の外れにある鉱山を訪れていた。ここでは石炭や鉄鉱石、マジックニウムなど魔神軍との戦いでは必要不可欠な資源が取れる。魔族たちも武器や建築資材を調達するため、毎日のように鉱山に潜っている。ただ、資源が取れるのは入口から2キロほどの距離だけだった。
つい最近発見されたマジックニウム。合金にすることで様々な副効果を発揮するスグレモノだが、初めて存在を確認し、その性質を調べたのは一鉄。鉱山には何百年という歴史があるのに、魔族たちはこの物質に気づいていなかった。そして岩室に隠された大量の本。魔族だけでなく神族さえも読むことができなかったが、ロペスの言語に関する知識のお陰で、いまやそのほとんどを解読できるようになった。最初に潜ったときからずっと、平一郎はまだまだ謎が隠されていると確信していた。だが、ダージェとドラの加入やサパコスの襲来が立て続けに起こり、魔神軍に対する緊張が極度に高まったことで、鉱山に潜る余裕などなくなった。今回、ヴィレッサムがほんの少しの猶予をくれた。自分にできることはないかと模索した結果、鉱山のことを思い出したのだ。もしかしたら新たな武器の素材や魔神軍の情報が眠っているかもしれない。平一郎はそんな希望を見出していた。
ワクワクしながら鉱山に入る平一郎。当初は乗り気はなかったお供の一鉄とアーロンも、奥に進むにつれ、徐々にやる気に満ちていった。
「でも平一郎、ここにはもう何もなくない?岩室の本はだいたい解読されているし……。分岐の奥まで行ったことあるけど、金属資源以外なかったよ」一鉄が言った。
「そうだぜ。あんまり長居すると僕の美肌が石炭のすすで汚れちゃうじゃないか」アーロンが金髪をかきあげながら言った。
この鉱山を真っ直ぐ進むと一つの分岐がある。右に行くと鉄、銅、アルミなどありふれた物質が採れ、左はマジックニウムなどのレアメタルといった具合だ。一鉄は単独で右の道を調査したものの、物珍しいものはなかった。
「一鉄。岩室にあった本の記述……覚えへん?」
「それがどうしたって……あっ!」
「なんだよそれ、教えろよー!」
聞き出そうとするアーロンを尻目に、二人はニヤニヤしながら先に進んだ。岩室が見えてきたとき、一鉄が口を開いた。
「本にあった記述の内容……。この道の先が大岩により塞がれたってことだね?平一郎」
「せや。二人にはこの岩を壊してほしいんや」
「いやいや!無茶言うなよ!」アーロンが慌てながら言った。
一鉄は大岩を指でコンコン叩いた。乾いた木のような、軽快な音が鳴り響いた。この岩はそう硬くなさそうだ。
「これぐらいの岩なら、俺のパワーで十分かもね」
一鉄は手のひらサイズの立方体を取り出した。見る角度によって七色に変色する。側面のスイッチを押すと、糸を紡ぐかのように形を変えていき、両手用の剣先スコップになった。
「何やそれ!めっちゃええやん!」
「形状記憶と合金にしたときの耐久性。マジックニウムの強さを最大限発揮させたんだ」
得意げに語ったあと、一鉄は剣先スコップを大岩に突き立てた。これまではびくともしなかった大岩が粘土のようにさくさく削られていく。本に書いてあることが正しければ、大岩の直径は3メートルほど。この調子なら一時間もすれば貫通するだろう。しかし、穴が大きくなるにつれ、一鉄の体力も削られていき、ついには動作が止まってしまった。
「少し……休憩……」
「毎日筋トレしている筋肉バカとはいえ、限界があったんやな。アーロン、次頼むわ」
一鉄の人外と化したパワーを直視して、アーロンのやる気はさらに削がれていた。
「だからっ!こんなの僕の力じゃ無理だって!一鉄と違って、僕は細マッチョイケメンなんだから」
「自分水の呪文使えるやろ。ヴィラージュ様のところで修行しているらしいし。それ活かしたらええやん」
アーロンはわかったよぉと、弱気な声を漏らしながら大岩の前に立った。目をつぶって息を浅く吐くと、金色の髪からポタポタと雫が垂れる。膝下ぐらいの波が足元を周る。かさねた手のひらを突き出し、開眼したアーロンは叫ぶ。
「バッサー、水よ唸れ!」
指先から大量の水がジェット噴射され、大岩の表面がえぐれた。冗談で言ったつもりがこんな成果を挙げるとは。平一郎はウキウキしながら言った。
「ええやん!それを十回ぐらい繰り返してくれや」
「無理だよ……。これ滅茶苦茶疲れるし、操作ミスったら指なくなるし……。今ん所1日2回が限度かな」
そう述べると、アーロンは息切れしながら一鉄の隣に腰を下ろした。
「ほなら俺の出番やな」
平一郎は筒状のダイナマイトを取り出し、大岩の形状と照らし合わせながら、ロープで縛り付けた。ダイナマイトを導火線と繋ぎ合わせ、スイッチを押そうとしたその時、アーロンは指先まで震えながら尋ねた。
「ねぇ、今から何する気なの—?」
「なにって—この岩を爆破するんやけど」
「いや待って正気?僕たち絶対怪我するでしょ!」
「まぁ大丈夫。平一郎、たしか火薬の保安責任者の資格取ってたはずだから」一鉄がぶっきらぼうに言った。
「さすが一鉄や。アーロンも安心してええで」
髪が焦げちゃうよ、と愚痴をこぼしながら、アーロンはその場から離れた。一鉄は動くつもりもなかったが、アーロンに無理やり連れて行かれた。
平一郎は起爆スイッチを押した瞬間、後ろに飛んだ。ダイナマイトは轟音を上げて連鎖的に爆散した。あまりの爆風に、距離を取っていたはずの平一郎も、台風に巻き込まれたかのように吹き飛ばされた。爆発の音が静まると、平一郎は頭を擦りながら起き上がった。
「いやぁー、ちょっと爆破の威力ナメとったわ」
「だからもっと離れたほうがいいって!」アーロンは怒鳴った。
「うるっさいなぁ!ちょっと計算ミスしただけやろ!」
二人は取っ組み合いそうになったが、一鉄がギリギリのところで間に入った。「まぁまぁ、道も開けたし、今は先に進もうよ」
想定外の規模ではあったものの、平一郎の読み通り大岩は跡形もなくなっていた。平一郎とアーロンは込み上げてくる怒りを飲み込み、未知との遭遇を目指して歩き出した。




