第二十八話 ゴブリンと遭遇
ディルクの焦りは止まらずに何度も地図を読み間違えて行き止まり突き当たっている。出来る事なら変わってやりたいが今まで全てをディルクに任せていたので誰も地図を見ていなかった。
これはディルクだけの責任じゃないよな。
「ゴメン全て僕が悪いんだ。もしゴブリンが現れたら僕が盾になるから君達は先に逃げるんだよ」
「あのなぁそんな事が出来ると思っているのかよ、君だけの責任じゃないんだぜ」
「ねぇアビスちゃんなら道が分かるんじゃない」
エリサが壁の方に視線を向けると、そこにアビスが姿を現した。
『何を言っているのかね、こんなくだらないダンジョンなんぞ道なんぞ覚える必要も無いだろ』
「え~迷ったらどうするつもりだったのよ」
『だから迷う訳ないだろうが』
エリサが見た目は独り言のようにアビスに言葉を掛けているが、ディルク達もそれが何を意味するのか分かったようだ。
「もしかして言葉が通じるのかい、マスターじゃないのに」
そんな事に驚いている暇は無いとも生んだけどな。
『前から8匹やって来るぞ、さっさと倒してしまうんだな、もし駄目だったら私が逃がしてあげよう』
それは俺だけ何だよな。そうはならないようにしないと。
「ゴブリンが前から来るってさ、皆は後ろに下がっていてよ」
カミロはやる気になったのか肩を回し始めた。
「俺も手伝うぞ、、さぁかかってこいや」
「カミロは皆を守っててよ、8匹のゴブリンなら俺だけでも大丈夫さ」
自信ありげにカミロには言ってみたが俺はゴブリンと戦った事はないので本当は怖くてたまらない。だがアビスの反応を見ていると俺だけでも倒せるのだろう。
『もう少しだな、落ち着くんだ』
『あぁ分かっている。あのさ、おれがやられそうになったら俺じゃ無くてエリサを救ってくれよ、じゃないと抵抗するからな』
『だったらそうならないようにするんだな』
『手伝ってくれると助かるんだけどな』
『いやだね、雑魚過ぎてつまらんからな』
逃がすのは手伝うが討伐は手伝わないか、アビスの考えが良く分からないな、まさか雑魚とは口だけでアビスはゴブリンに勝てないのだろうか。
「ぐっげっげっ」
「ぐわぁごぉ」
気色悪い声を上げながら緑色をした半裸のゴブリンが歩いて来る。その中には鎧を着ている奴もいたり真新しい武器を持っている奴もいる。
その姿を見たカミロが俺の後ろで怒りの言葉を吐き捨てた。
「あいつら奪いやがったのか、畜生共が」
『人間も同じような事をしているくせに良くそんな事を言えるな』
アビスの辛辣な言葉が心に刺さるが今はその事について話している暇は無い。
深呼吸をして腕を前に伸ばし掌で狙いを定める、
「ファイア」
先頭のゴブリンの心臓の付近に【ファイア】を連発して出すとそれは胸を抑えて倒れ数秒後には動かなくなった。
「ぐぎっ」
最初に倒れたゴブリンを見て後続のゴブリンは向かって来るのではなく、ただ困惑しているように佇んでいる。
「動かないでくれて本当に有難う。ファイア、ファイア……」
顔や心臓付近を目掛けて【ファイア】を何度も唱えていくと、強く振り払えば消えてしまうが残念ながらそんな事は想定済みだ。ゴブリン達は火で包まれて行く。
脳まで届けば5秒で心臓だと8秒って感じかな。
やはり惨たらしい殺し方なので人間では試す事が出来なかったがゴブリンになら心は痛まないのでいくらでも試す事が出来る。
『どうだ余裕だろ』
『そうだね、だけどまだ油断出来ないよ』
消し炭になる程の火力は無く黒焦げになったゴブリンはそのまま倒れている。
安全を確認したディックはゴブリンの死体に剣を突き刺して魔石を取り出した。
てっきりそのまま全てのゴブリンから魔石を取り出すのかと思ったがディルクは動かないでそのままボソッと呟いた。
「なぁクロード、これはどう思う?」
「君の考えている通りだと思うよ」
エリサも頷いたのでその意味を理解したようだが、俺は分からないしカミロも首をかしげているので俺と同じだともう。
『ダンジョンから生まれた奴等じゃないからだ』
「そう言う事か」
俺が思わず大声を上げてしまったので一人だけ理解していないカミロは裏切られた気持ちになったのか悲しそうな表情を浮かべながら俺に文句を言ってくる。
「ずるいぞ、アビスに聞いたんだろ俺にも教えろよ」
「だからさダンジョン生まれのゴブリンじゃ無いってさ」
「それで? それが何なんだよ」
「ん? そうだよな」
思わずアビスの言葉に納得してしまったが明確な答えは分かっていない。するとクロードが呆れたように言ってくる。
「君達はどうして授業をちゃんと聞いていないのかな、ダンジョンで生まれた魔物は死んだら直ぐに吸収されてしまうけど、外から入った魔物や人間は吸収されるまでかなり時間が掛かるんだよ」
「だからさっきディルクは直ぐに魔石を取り出したのか」
「そうだよ、折角ユリアスが倒したんだから勿体ないだろ」
その言葉でカミロはゴブリンの死体から魔石を取り出し始めた。俺も手伝いに行こうとしたときにまた奥からあの嫌な声が聞こえてくる。
「みんな下がって、またやるよ」
俺の横を通り過ぎる時にディルクが声を掛けてくる。
「ゴブリンの魔石はやはり屑魔石だから埋めてしまっても良いよ」
「そうしたいんだけど数によっては厳しいだろうな……やっぱり無理そうだよ、ファイア」
先程と同じような光景が繰り広げられたが、唯一違うのは今回の戦闘にはカミロも参加した事だった。
「なぁこれなら逃げる必要はねぇんじゃないか、まだ下で戦っているんじゃねぇのか」
俺達は迷っていたので全部のパーティとすれ違ったわけでも足音を聞いたわけでもないが、確かにまだ3つのパーティしか逃げていないような気もする。
ディルクは顎に手を当てながら話始めた。
「最初の先輩方は先生を呼びに行ったんだよね……そうだよ僕達より先に入ったパーティの数を考えたらきっとまだ下にいるんだ。あれだけ僕達はこの階層を彷徨ていたんだから、全員が逃げ出していたらもっと会うはずなんだ」
「だからってそれが何なんだい。まさか一緒に戦おうなんて言うんじゃないだろうね、そもそも私達はここより下に行ってはいけないんだよ。あのさ下で戦っているのも想像でしか無いじゃないか」
クロードは俺とカミロの戦いを見ても反対をするようだ。だがディルクは意見を曲げない。
「騎士なら逃げないよな、ただこの先に下に行く階段が待っているのか上に行く階段が待っているのか迷子何だから予想は付かないけどね」
そう、俺達は迷子だ。格好つけてもどうなるかまだ分からない。




