豆・豆・豆 その2
結局、イヴォーグの店に行くも当然相手にもされず、宿に戻り美味しい夕食を食べて過ごした。
そして、祭りの朝がやってきた。
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早めの朝食を取り、商業ギルドに向かうと既に人だかりができていた。
見ればエントリーをした男性陣が商業ギルド前の受付で手続きをしているようだ。列の最後尾にならび、自分の番を待ちながら様子を伺う。結構、こっちの世界の住人も順番をきちんと守る方で、街に入る際に並ぶ習慣があるからかもしれない。
結構、冒険者みたいな人ばかりだな。
どうみても豆投げられるという役目より、魔物を狩る側の人たちしかいない。商人とか、露天のおじちゃんとかはいない。
「はい、この袋に豆入れてねっ!」袋口に青い模様が入った麻袋を渡される。
係員からは特に説明は無く、流れに沿ってそのまま待機所みたいなところに行く。
「今年の優勝は俺がもらう」上半身裸のマッチョな男が言う。
「いやいや、私がいただきますよ」ひょろっとした身軽そうな男が応える。
どんどん自分の考えが確信に変わって行く。
そんなことを考えると拡声器なのか、大きな声が会場に響いた。
「皆、よくぞ集まった!!皆、勇者だ!!!!今年も優勝を目指して頑張って欲しい!!」
『ウォォォオオオオオオオ!!!』
メインストリートにある待機所に地響きのような歓声があがる。周りの冒険者(参加者)たちの熱も一気に上がる。肉の壁に囲まれて俺はすでにウンザリ気味である。そんなに人に囲まれたことは無く、異世界に来てからパーソナルエリアが広くなっている。理由は簡単で油断できないからだ。
「君はできそうだな」
小さな獣人が俺に向かって歩いてきた。なぜか彼と俺の間に道ができている。
「こんにちは、リヒトだ」自分から名乗る。
「おぉ、珍しいな。俺はカルロ・ヴァーズと言う。カルロと呼べ」
そう言うカルロは洗練された優雅な礼をする。銀髪で獣耳も銀色で種族がパッと見では分からない。目は笑っているために細められているが、その表情からは年齢が読めない。背丈は150cm超えてるくらいだが、明らかな雰囲気がある。俺もメイプルに教わった礼をする。この礼で失礼に当たるかは分からない、しないよりはましだろうと判断する。周りの熱気とカルロの周りの雰囲気が不思議と一致しない。
「カルロは豆袋は持ってないのか?」
「いや、持ってるよ」
笑顔を崩さないカルロがポケットから俺と同じ麻袋を出した。ポケットがマジックポーチのように出来ているのだろうか、滑らかに取り出した。
「マジック・ポーチ?違うよ」カルロの表情は変わらない。
「ん?どういうこと」心の揺らぎを出さないようにする。
『それでは、始めぇええええ!!!!』
豆打ち祭が開催された合図。すぐにメインストリートの参加者がそれぞれ走り始め、石畳を蹴る足音が鳴り響く。カルロと俺は避けられているのか、俺たちの間を走る人物もいない。
「ふむ、まぁ、いいでしょう。それではまた」
そう言い残し、カルロは視界からいなくなった。当たり前のように俺の『サーチ』には引っかからない。どっと吹き出そうな汗と軽い目眩を堪え、祭りに意識を移す。街の喧騒は明らかに浮かれた雰囲気で、真逆の自分の気持ちに苦笑する。なんかローズに会ってから自分の強さに疑問しか湧かなくなってきた。久しぶりに『死』を意識した。今日は祭だぞ?メイプルを少しだけ恨む。
「祭と一緒でよく分からんけど、走るかぁ」
多くの参加者たちの走った方向へ俺も走る。すると別世界のように女性陣が豆を罵声とともに投げていた。
「オラオラ、ここを通りたければぁああ!!」
「マトモに抜けれると思うなよぉおおおおお!!!」
「ふうううぅうう!!!!!」
もう目がおかしい。口角が上がっているのに目が座っているという異様さだ。そんな女性達が通路の両脇はもちろん、建物の2階からも投げまくっている。豆の弾幕である。どこから用意したのか聞きたいくらいの状況だ。そして豆の硬さも十分で、さっきみた上半身裸の冒険者は普通に血が出てる。
気のある男性に恥ずかしげに女性がやさしく豆を投げる、というのが俺のイメージだった。現実は『猛牛然とした女性陣が日頃の鬱憤を通りすがりの男性に打つける』だけだ。それでも口で受け止めようとする男性陣に「簡単に渡すかよ、足元狙え!!!」と指揮官がどこからか叫ぶ。なにその一体感、地べたに這うように動く男性陣。
俺はとりあえず優勝を狙っていない。『ハイド』を使いやり過ごそうとすると、受付でもらった麻袋が光る。
「あいつ、魔法使うつもりだったぞ、チャンスだ投げろー!!!」
ほんとに女性?というほどの野太い罵声が聞こえ、俺に集中砲火といわんばかりの豆が飛んでくる。
右に跳ぼうとし、体に違和感を覚える。
体が動かないのだ
直立不動になり、ただひたすらに豆を投げられまくる。中には絶対に魔力通してると思われる反則級の豆が混じっていて、俺の手に血が滲む。
でも、動けない
メチャクチャ痛い上に、動けない精神的な苦痛は、横を通る参加者達の表情で上乗せされる。彼らは皆、口には出さないが「バカだな」、「ルール知らんの?」と俺を嘲笑していた。明らかに指差す者までいた。
そして、知らない女性達が俺を囲む。もう参加者達は先に行っている。
「ねぇ、どうする?」
「私いきたーい!!」
「えぇ”、私も!!!!」
「わたしもー!」
と何かの相談をしている。意味が分からないが頭の中の危険信号は鳴りっぱなしである。なぜか女性達はジャンケンっぽいものを始め、勝った女性(筋肉マッチョ)が拳を天に突き上げる!!
ぶちゅううううううう!!!
熱烈なキスを受けた。先にルイにキスしておいて良かったと考える時間があるほど長かった。
「おっ、動ける!!!」
「ねぇ、あなたルール知らないの?それともキスしたいの?」
戦士風(筋肉マッチョ)の女性に①魔法は禁止で、その場で硬直すること、②女性にキスをされるまで硬直は解けないこと、③決められたルートを走り、北の領主館付近がゴールになっていることを教わる。そうなると隠密セットはダメで、身体の魔力強化もダメだと思われる。ちなみに硬直させる仕組みは事前に配られた麻袋だ。青い模様がそのまま魔法陣になっているのだと思う。祭の内容と使われている技術に笑いがこみ上げてくる。
「さぁ、早く行きな」説明してくれたお姉さん。
「お礼に俺からしていいですか?」
「言わずにするもんだな」
「前にそれでビンタされまして」
キスすると周りから女性陣の嬌声が湧く、祭気分をやっと味わいながら次の場所へ移動する。




