豆・豆・豆 その1
冒険者ギルドには行きたくない。
さすがに大見得切って行ったし、キスしてビンタされたし、理由だけならどんぶり飯くらい出てくる。ほんとなんで戻ってきたんだろう〜、って武器防具のメンテだから仕方がないか。それとお使い頼まれたからか。ローズと戦って勝てるヤツっているのだろうか・・・。
刀も無く、他3人もメイン武器をメンテに出したので、北の森への街道辺りでお互いに鍛錬をして過ごした。もうカナデも吹っ切れたのだろう、俺以外に素手で負けるヤツはいなかった。負けたソウは大の字に倒れ、悔しさを惜しげも無く晒していた。珍しく熱いソウイチロウを見た。あと、オトハの拳が何気にいちばん殺気がこもっていた・・・俺何かしただろうか?
調子に乗って、3(俺以外)対1(俺)で素手模擬戦をしたら3人の連携が凄まじく、アッと言う間に飲み込まれた。嬉々としてタコ殴りにされてびっくりした。3人とも満面の笑みだったのが感慨深い。
「まぁまぁ、だな」
「なに言ってんの?ボコられたじゃん」
「いや、まぁまぁだな」
「もう1回やる?」オトハが無情すぐる。
ポキポキ
指を鳴らすソウ、お前はどこかの伝承者か?
2人とも『アナライズ』を伝えたので訓練にも身が入ると話していた。「なぜ教えなかったの?」とオトハが素で言ったので「なんでも教えてもらえると思うなよ?」と返したのが原因かもしれない、拳に殺気がのったのは。まぁ、身が入ればいいのだよ。生存確率を上げるためにも。
そうして3日が過ぎた頃、メイプルが朝食時に「武器のメンテ終わったって」と伝言をもってきた。相変わらず可愛いメイプルである。
「リヒトたちってお祭りでるの?」メイプルが聞いた。
「お祭りって何の?」カナデがすぐに確認する。
「えっ!?もうすぐ『豆打ち』だよ〜」
さすがにこれ以上突っ込むと部外者なのがバレるので3人とも黙っている。
「その『豆打ち祭』ってなんだ?」俺は田舎者のダークエルフ設定だ。
「んとね、女性が気になる男性に豆を投げまくるって祭」
「それ楽しいのか?」流石のソウも突っ込む。意味がわからん。
「楽しいよー。男性は基本的に逃げるか、口で受けるかなの」
詳しく確認すると、気になる男性というよりかは『豆を投げつけたい男性』という解釈らしく、男性は基本的に逃げるか、口で受け止めるかで対処する。口に入った豆を、祭実行委員会から貰う袋に入れて、最終的に最も口で受けた男が優勝者になるとのこと。ちなみに、優勝者の口から最も豆を投げられて印象に残っている女性を呼び、その方が準優勝になるらしい。
優勝者には『商業ギルドからの商品(不明)』、準優勝者には『金貨:5枚』と豪華商品が確定しているらしい。完璧に男性はネタだと思ったが、結婚資金のために将来の夫を出させて、自分の名前を呼ぶようにする者もいたらしい。ただ、これも豆には細工がされていて、袋に何名の女性から投げられたか分かるらしい。
優勝の条件は、不特定の女性に豆を投げられること。
準優勝の条件は、最も投げられそうな男性に、豆を投げる時の自分の印象を深く刻むこと。
なかなかである。俺は絶対にでないな、と心の議会が決まった。
「リヒト、エントリーするよね?」おい、オトハ。
「きっと、リヒトは優勝するよ」おい、カナデ。
「私を呼んで」と2人同時に言う。器用だな、おまえら。
「俺は出ない」きっぱりと、食堂に響く声で言う。
「リヒト、エントリーしておくね」いつも可愛いメイプルが別人みたいに悪い顔してる。
ぜんっぜん出る気がないと言ったよね?ねぇ、メイプル、たまに悪いことするの辞めたほうが良いと思うんだよね。
「ちょ、ちょっと!?」
「リヒト、諦めろ」
肩を叩いたソウはどこかスッキリした表情だ。おまえ、絶対に他人事にしてるだろ。楽しんでるだろ?
既にオトハとカナデはメイプルと一緒に作戦会議を開いている。メチャクチャ楽しそうである。まぁ、一方的に豆を男性にぶつける&やり返されないってのは存外ストレス解消になるのかもしれない。世のお母さん、お姉さん、おばあちゃん達も溜まっているのだろう。大変なものである。
まぁ、隠密セットを使えばバレずに祭も終わるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メンテナンスを終わった武器を受け取る。
ギブリは少し困惑した顔をしていた。
「どうしたの?」
「あのなぁ、イヴォーグから爪を1本預かったんだ」
「おぉ、なんか作ってくれるの!?」
俺はかなりにじり寄っていたのか、ギブリは一歩下がって会話を続ける。
「いや、持ち主に了承を得な」
「ぜひ、頼む!!」被せ気味に俺が言う。
「って言うと思ってもう作ったんだが」
そういって苦笑いをしたギブリがテーブルに置いたのは1本の矢だった。
「これは・・・矢?」
「やったーーー!!!ってシャレじゃないよ?」カナデが恥ずかしそうに言う。
馬鹿野郎、ダジャレはもっと正々堂々と胸を張って言え!!!
オトハもソウもカナデを無視して矢を凝視している。
「『ドラゴンの矢』なんだが、うまくすりゃ戻ってくる」
「あ”ぁ”〜、なんでカナデばっかりロマン装備満載なの!!」俺は頭を抱える。
「あと、ソウの剣にも爪の一部を使ったから強くなってる」
おまえもかぁあ!!!!!
「いや、ソウは料金払えよ、俺に」
「私が倒したようなもの、だったよね?」
「う・運搬料・・・」
ソウは黙って銀貨5枚をくれた。顔はドヤってた!!こんな金要らん!!!と思いつつ丁寧にマジックポーチに入れる。お金は大事なのを俺は知っている。
「カナデ、豪華装備になるから狙われるぞ」一応、忠告しておく。
「そんなことないでしょ?」
「いや、イヴォーグも作ってたからな。わからんぞ」
そうギブリが呟くと、カナデは顔色を変える。同じ内容を伝えているのに、相手に受け入れられないという現象を分かりやすくした例だ。
「まぁ、強くなったし大丈夫だ」一応、フォローしておく。
「そうかなぁ」顔を緩めるカナデ。
そっち方面は受け入れられるんだなぁ。(トオイメ)
真面目にカナデの装備は防具も揃うと俺よりも上質装備になるんじゃないだろうか。もうAランク冒険者として登録した方が安全な気がする。ギブリにお礼を言い、支払いを済ませる。金貨20枚までいったが、新しい鍔の代金だと思うと非常に安く思える。刀本体は金貨3枚だった?そんなことは知りません、ロマンしか詰まってませんから!!
店を出る前に「なんで爪で矢を作ったの?」とギブリに聞くと、「どうしても作りたかったんじゃ」と小声で返ってきた。なんか無性に可愛いドワーフに見えたが、二度見すると茶色い立派なヒゲのおっさんに戻っていた。ギブリは少なくとも自分の趣味装備の方が力が入る、ということだけは分かった。カナデの支払いが大変そうだった。
「リヒト、明後日の祭に出るんだよ」カナデが言う。
「そ、そうか・・・がんばるんだぞ」
ん?なんかギブリの反応がおかしくないか?そう思って話しかけようとすると、オトハに「イヴォーグさんのところ行こ」と手を握られて店を出た。まだ防具ができる日じゃないんだけど。




