紳士の立つ瀬
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姿を現したジェントルエンが8体、きちんと等間隔で俺たちを囲んだ。距離は20m程度離れている。向こうも警戒しているのが分かる。俺たちはお互いに背を向ける体制を組んでいた。この場でキツイのはオトハか。
目の前の大きなジェントルエンが咆哮をあげる。
それが合図となり、8体すべてが動き出した。
まだ効果が切れていない『ラ・イド』状態のまま、3人に『ラ・イド』をかける。少なくともカナデはこれだけでAランク並みの戦力になる。ソウやオトハには頑張ってもらうしかない。慣れろ!!
すぐに俺は目の前の大きなジェントルエンに突っ込む。刀で突き繰り出すも左に躱され、腕を斬るだけで終わる。『ラ・イド』状態の俺の攻撃が躱されたのは初めてだ。一瞬の隙、思考の間を読まれ、相手に蹴り込まれる。かすめただけなのに鎧が避け、血がゆっくり吹き出すのが見える。
『ヒール』、『リカバ』を無詠唱で行使する。
少しでも油断できる状況に無く、刀に魔力を通し胴を薙ぐ、明らかな致命傷の手応えがあった。
ズダッ
大きいジェントルエンが倒れると、周りの戦闘が止まったのを感じた。『群れのボスがやられた』と瞬間的に悟ったジェントルエン達に戸惑いの波紋が広がっていく。ソウ達も構えているが戦闘を止めている。
「リヒト!!」カナデが叫ぶ。
倒れたジェントルエンゆっくりと起き上がり、咆哮をあげた。
その咆哮を合図に残った4体は散り散りに森に戻っていく。ボスだと思われるジェントルエンは、そのまま咆哮を終えると横倒れになり、事切れていた。
「ふー、危なかった」サーチの範囲外になったところでオトハが言う。
「『ラ・イド』なかったらやばかったぁ」腰を下ろしたカナデ。
「これリヒトが?俊敏が異様にあがってる」
あまり光魔法のことは触れたくなかったのだが、案の定、カナデが魔法名までしっかり伝えている。魔王さんに狙われる可能性があるんですけれど。・・・どちらかっていうとメイプルにあったことの方が問題か。
「カナデが言ってる通り、俊敏性が上がる支援魔法」
「疾くなりすぎて最初焦った」
「それ慣れるといいよ〜」いや、もう使わないでしょ。
「それでカナデは4体も一気にやれたのか」
ソウ、オトハは自己防衛で精一杯の中、俺がボスと思われるジェントルエンと戦っている最中にカナデは4体倒していた。
「それだけじゃなくて、カナデはAランク相当普通にある」
「「はあぁ!!?」」
ソウとオトハはそれぞれに驚いた顔をし、カナデは苦笑いをして頭を掻いていた。ケモミミが風に揺れていた。
3人に解体を任せていると、懐かしい反応があったので『ラ・イド』で移動する。もう通称:雷動とかでいい気がしてきた。ダメですか?ダメですよね、わかります。自分の中のアホ会議で否決される。
移動する前に3人に声をかけることも忘れずにキチンとする。
久しぶりに見つけたオルトロスは体が一回り大きくなっていた。あいつも元気でやってたんだな、と妙に嬉しくなる自分がいた。爪、勝手にソウ達の武器にしちゃったけど。
オルトロスの進行方向へ先回りをする。
「旦那を亡くして夫ロス」日本じゃ間違っても言えない。
「我が気がつかぬとは」左の首が認め。
「俺は気がついてた」右の首が見栄を張る。
「嘘をつけ」左がさらに突っ込み・・・ますか。
俺の発言を無視してオルトロスが左右の頭で言い合いを始める。「あのさ・・・ちょっといいかな?」と声をかけても止まらない。周りにいるオットローも心配そうに長を見ている。
俺は意識的に息を大きく吸い込んだ。
「くたびれ損の骨折り儲け 負う徒労!!」
木霊は解体中の3人まで届いたかもしれない。静寂が流れる。
「どうやら死にたいらしいな」
「そのようだな」
そこは一致するのか・・・。
「いや、ちょっと待ってくれ。あのさ」
「いくぞ」
威圧に風魔法が乗ってくる。もしかするとオルトロスの威圧の特性かもしれない。観察に余裕を避けるほど『ラ・イド』の効果はでかい。
「ちょっと話を聞いてくれ」喉元に刀を向けて言う。
オルトロスでも気がつけぬほどの疾さで動けた。今ならオッさんオークといい勝負ができそうだ。
「やるがいい」左の首が言う。
オルトロスはそう言うと、潔く伏せの体勢をする。結構なレベルで左右交互の鼻息がかかる。
「いや、近況を聞きたくてさ。あと森の状況」
話を聞くと、どうも俺に右爪をやられてから仕返してやろうと鍛錬を積んでいたらしい。
「なんだ我をやらんのか?」
「俺は喰ってもうまくない」
バカな方は少し黙ってていい。
「感謝こそすれ、だな」
「おかしなダークエルフもいるもんだな」
オルトロスにまでおかしいと言われる筋合いは無いと思う。お前の相方の方がおかしいだろ、と思うが当然黙っていた。去り際に「おまえ、爪って生えるのか?」と聞くと、左前の爪がシュッと中に隠れた。生爪剥がすほど外道ではないので、「肉球さわらせろ」と無理くり触ると極上の感触だった。
特に肉球の間のハミ毛がたまらなく可愛いので、刀で取ろうとすると「頼むからやめろ」とさっきまで”自分を殺せ”と言っていた人物とは思えない発言をした。長い時間触っていると「もう帰ってくれ」と小さく低い声を出したので別れを告げてソウ達の方へ向かうことにした。
ソウ達3人は解体をすでに終えていて、街道近くで昼ごはんの支度をしていた。




