『ウェルカムバック アイルランダー』への道
フィッターの午睡のオヤジさんに明日アイルランダーに出発することを伝える。気さくなオヤジさんは「それじゃぁ、3日分の食料を作るからな」と朝食の用意を約束してくれた。
部屋に戻り、カナデが「冒険者タグ、持って来れてよかった」と漏らした。俺もそれについては同意見だ。ずっとギルドに来ない、生死不明なままなのが希望だなんて思わない。悲しくても、辛くても事実は変えれない。
話題をアイルランダーのことに変え、ソウやオトハの近況をカナデが話す。俺よりからは『レター』を使っていたらしく、ソウとオトハはソロでグリーン・オークを倒せるくらいまでは成長しているらしい。あの2人がいまのカナデを見たらどう思うのだろう・・・魔力切れを起こさなかったらミニ・ドラゴンを抑えるほどのカナデを。
夕飯の時間になり、下に降りると冒険者の数がいつもより少ないのが分かった。そうか、ここを使っていたパーティーだったのか、宿のオヤジさんの言葉につながった。カナデは気がついているのか分からない。こういう時のカナデは昔から分からない、俺がにぶいのではないと思う。
エクモカが給仕にテーブルへきた。「ありがとう」と声をかけられた、多分、冒険者タグのことだろう。目礼で返す。
「私、ダンジョン舐めてたのかもしれない」
言ったカナデの表情が印象に残る夕飯だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、宿のオヤジさんから食事を受け取り、旅の準備を終える。エクモカも出て来たので「また少ししたら来る」と挨拶したら「期待しないでおく」と笑って返してくれた。なぜかカナデにスネを蹴られる。朝の訓練は終わったのに。
「んじゃぁ、ダッシュで行くか」
「なに?」
「『ラ・イド』を使って移動する」
「それ後でズタズタにならない?」
「それも含めて実験する」
とたんに『うわー』って顔をするカナデ。「置いてく?」と言うと「よろしくお願いします」と礼儀正しく返って来た。カナデは少し方向音痴なところがある。
そして、結構な距離を全速力を超えたスピードで走るとどうなるか?
魔力が先に尽きるのである。
「もうダメだ。ダルい」
「なに?魔力切れ?」
よっ
と小さく声を出したカナデに背負わされ、情けないことに力も入らない俺を担いで走ったのである。風魔法使用しながら。これが『ラ・イド』が切れていてもかなりのスピードが出ていて、背負われている恥ずかしさも重なったのか、結構なスピードで流れる景色が印象に残った。
そうして1日目の野営はアイルランダーの外壁近くでするというシュールな結果になった。
門番はこっちに気がついているのに入れてくれない。そういうルールがアイルランダーにあるらしい。こっちはアイルランダー登録のAランク冒険者だぞ、と言いたいが、権力を行使すると権力が返って来そうな気がするので大人しく野営を選択する。まぁ、すぐそこなんだし、早朝には門も開くので心配は何もない。
「ここまで1日で来れるなんて思わなかった」カナデが焚き火の前で話す。
「そうだな、上々かもしれない」
出発前のカナデはここまで強くもなく、頼りにもなりそうな冒険者ではなかった。短期間で違和感を覚えるほど著しい成長だ。それがなければこの移動距離は実現しなかっただろう。そうやって考えていると、どっかのダークエルフが村からアイルランダーまで日帰りで来たことを思い出した。日帰りの理由は『洗濯物』だったはず。どんな移動方法を使ったのだろう。
「あのさぁ、カナデ」
「ん?」
「生活魔法って知ってるか?」
「なにそれ?便利なの?」
カナデが急にすっごい近づいて来た。妙に背負われてから落ち着かない俺である。
「『サーチ』、『ハイド』も生活魔法の一種なんだ。やっぱり知らない?」
「知ってたらオトハは絶対使ってる。リヒトの訓練で教わったんだから」
「んじゃぁ、内緒にしておいてくれ。『ステータス』って魔力込みで唱えて」
「『ステータス』」
俺は『アナライズ』を同時にカナデにかける。
名前:カナデ 性別:女
種族:獣人族<オオカミ>
職業:ハンター、冒険者(Bランク)
適性:狩人技術、風魔法適性、魔闘気適性、罠技術、弓技術、隠密技術、健康、幸運、
身軽、戦闘センス+
スキル:瞬間強化、罠レベル1、隠密レベル3、風魔法レベル4、魔闘気レベル2、
弓レベル3、二刀流レベル2、身軽レベル2
「なにこれ!!」カナデが驚いて声をあげる。
「それが現時点のカナデの状態を示してる」
「うぁわ、なんかすっごいねぇ」
「この魔法、あまりこっちでは知られていない」
「リヒトの国だと知られてたの?」
俺の国の話はしていなかったが話の流れが不味い。誤魔化すように、出会った当初はレベル1さえ付いていないモノがあったことを知らせる。というか、”戦闘センス+”ってのが原因でカナデの実力が飛躍してるのか?
「これって使ってる人以外も見えるの?」
「いや、見えない」
「・・・」カナデはジト目で俺を見る。
なんだか普段の余裕が俺にはない。こんなに余裕が無くなることも珍しい、と自己評価する。
「そうそう、他の奴らには言わないでくれ」
「生活魔法って名前のくせに全く生活と密着していないんじゃ・・・」
カナデが的を得たことを言う。今日のカナデは妙に勘がいい。アイルランダーに到着したらソウとオトハにも教えてよう。やっぱり結果が付いてくると俺たちは達成感を得られる世代なんだと思う。
『ステータス』
名前:リヒト・ヴァーズ 性別:男
種族:ダークエルフ
職業:冒険者(Aランク)、冒険者の指導係
適性:火魔法適性、水魔法適性、光魔法適性、時空魔法適性、魔力操作適性、
片手剣技術、鍛治技術、隠密技術、魔闘気適性、身軽
個性:金髪、用心深い、運が良い、モテ期(初期)
スキル:火魔法レベル8、水魔法レベル3、光魔法レベル3、時空魔法レベル1、
片手剣レベル5、隠密レベル7、身軽レベル4、魔闘気レベル4
加護:ほんの気持ち程度見守っている
少しずつ強くはなっている。カナデみたいな飛躍、とまではいかないけれど、順調には来ている。ミニ・ドラゴン素材をギブリとイヴォーグに渡したら、北の森の投石野郎を倒すと目標を決める。背後では「まだなんか隠してる」とブツクサ言うカナデを無視して俺は寝ることにした。




