タグの返還と代償
ギルドのカウンターでヴェニチを呼ぶ。どうも俺たちを覚えていたギルド職員だったようで、名乗らずとも話を繋いでくれた。アイルランダーほどの規模じゃないためか、サードリアのギルド職員は気さくなヤツが多い気がする。
「あぁ、準備できてるから上に来てくれる?」ヴァニチが手招きする。
それに黙ってついて行く。応対室に入ってからタグの話をしようとカナデと決めていた。
昨日山積みにした大小のテーブルには素材は全てなく、代わりに金貨と白金貨を置いたトレイがあった。大金だけにセキュリティ大丈夫なの?とか一瞬思ったが余計なお世話なのだろう。
「それで、今回の報酬だが白金貨3枚、金貨140枚になる」
金貨440枚相当、つまり『ピコ鳥の休息』の宿泊代に換算すると24年間くらいになる。そうなるとメイプルも大人の女性になっている。結構な金額だが『竜の血』の話がインパクト強すぎて驚けない。
「おまえら、この金額でも動揺しないのな」ヴァニチが突っ込む。
「うーん、『竜の血』の話があったからねぇ」カナデは警戒ということを知らない。
「はぁっ!!おまえらミニ・ドラゴン倒したのか?」
ある種、説明する手間が省けた。暇すぎて2人でダンジョンに潜り、ボス部屋の前で待機していたこと。その後、ドアが開きミニ・ドラゴンと戦った経緯を伝えた。ヴェニチは「おまえらが来てから私の休みがドンドン無くなる」と苦笑いをしていた。
「それでミニ・ドラゴンと戦った後に回収できた冒険者タグだ」
拾った16個の冒険者タグを渡すと、ヴェニチは1個ずつ丁寧に確認した。
「あぁ・・・あいつら」
ヴェニチが涙を流した。
ギルマスが泣くなんて俺は考えもしなかった。冒険者は自分の責任で、自分の選択で行動している。『死ぬ時も含めて冒険だ、それがどんな結果でも』そう思っていた。アイルランダーに戻ったらルイに謝らなければならない気がした。
少し経って落ち着いたのか、ヴェニチが顔をあげた。
「ありがとな、リヒト、カナデ」
そう言ってヴェニチは一旦、席を外した。
「馴染みの顔が人が急にいなくなるってヤダね」
前世だと俺たちは急にいなくなった側だから思いも悲痛だ。
「ボス部屋だった。それが救いだな」
少なくとも自分で入ることを決めたわけだ。不意打ちでもなければ、油断があったわけではない。それくらいしか残された者には言えないだろう。亡くなった方を慰めるのはかえって失礼だと俺は思う。
ヴェニチがなぜかトレイを持って戻って来た。トレイには、白金貨1枚、いくつかの金貨と銀貨が置かれて合った。
「これが報酬だ」
「いらない」
「規約だ」
「じゃあ、家族に回してくれ」
「家族など知らん」
「ギルド職員が家族だ」
そこまで会話が続いて止まった。部屋は静まり返った。
「ごめん・・・リヒト」
ヴェニチの声は小さくかすれてて、
心を潰してトレイを持って来た
その心情を思うにはあまりある
ギルマスとしての務めを
それだけを優先して
自分の感情をないものと無視する
そういうのを俺はもう見たくない。
2日分の報酬を受け取り、ヴェニチを置いてそのまま部屋を出た。声をかけられたくない、俺ならそう思う。
ギルドの1階に降りると、最初に応対した男性職員と目が合い、頭を下げられた。目が赤かった。いつもの喧騒がギルドにはなかった。人数は普段と大して変わらず、混んだ受付前。テキパキと動くギルド職員も変わりがない。
カナデと静かに宿に戻った。




